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お買い物

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「レイ君、ちょっとこっちに来なさい」

「叔父さん、何の用ですか? 」




 仕事の無い暇な休日。俺はカウンターでのんびりとしていた所を叔父さんに呼び止められた。




 今日は日がな一日なにもすることが無いので、一人でゆったりとしようと思っていたんだけど。




 はて、俺に一体何の用事があるのか。




「レイ君……これを……」

「どうしたんです? そんなに声を殺して……」

「これは君が働いてきた分のお給料だ、大事に使いなさい……」

「は……はい! ありがとうございます! 」

「だから、声が大きいって! 」

「す、すみません……嬉しくて……つい」




 自分が働いて、その分の仕事に見合っただけの報酬を貰う。何のことはない筈なのに、初めてなだけあって喜びもひとしお。




 金や銀の貨幣の詰まった小さな袋を受け取って、胸の中にしっかりと抱いて離さない。




「それでね、今日はウチは休みだろ? だから、エレナでも誘って買い物にでも出たらどうだい? 」

「買い物……ですか、バザー会場の時以来ですね」




 あの時は、色々あってバタバタしていたが、彼女の胸には未だに赤い宝石が輝き続けている。




「だったら尚更良いじゃないか。僕の入手した話では、エレナは服なんかを買いに行きたいって前に話していたから、この際一緒に出かけてみたら良いんじゃないかな? 」

「入手って……」

「女の子は買い物には男の子がいると、荷物を持ってくれる人がいるってことで喜んでくれるからね」

「それは体験談ですか? ……自分の」

「まあ、僕はフレアと言う素敵な女性を射止めた経験はあるとだけ言っておくからね、決めるのは君だ」




 先人の知恵……という訳なのか。




 写真から見ても、フレアさんは美人だし、そんな美人と結婚した叔父さんの恋愛スキルは案外高いのかもしれない。




 それに、親子は似るっていうし……。




「……ちょっとエレナを探してきます」

「それでこそ、青春を謳歌すべき男の子だ! エレナならカルロスお義兄さんの所に居ると思うよ」

「ありがとうございます! 」




 礼を言って、服装身嗜みを整えて店へと向かう。




 準備をする間、俺の心は浮かれているみたいに、鼓動の高鳴りを抑えられない。




 そうだ、楽しみなんだ、実の所は俺も。






ーーーーーーーー







 隣の店まで翔ぶ様に軽やかな足取りで辿り着き、店を開けようとドアに手を掛けると、何時もはオープンになっている筈のドア掛けがクローズに変わっていた。




 珍しい……誰も居ないのか?




 中を見ても誰も居ない風で、事実確認の為に店のドアを開けた。店のベルが鳴り、来客を中に知らせる。




「あ、今日はお店は空いてないですよ……って、何だレイか」

「その言い方には棘を感じますよアンナさん……」

「まぁ、気にしない気にしない! 」

「レイ……来てくれた……//」

「やあマリア、元気だった? 」

「うん……今……凄く元気に……なった」




 俺が来店した時は、三人が丁度店の奥側でお茶を飲んでいた所だった。




 女子だけで朝からティーパーティー。男の俺としては少し寂しい気もしてしまうが、仕方のないこと。




 女子には女子の世界というものがあるのだ。




 でも、この二人は本当に平常運転だなーとか思ったり。アンナさんは相変わらず元気で大雑把な感じだし、マリアも相変わらず内気なのは治りそうもない。




 この二人の性格を足して割ったら、完璧な女性が出来てしまうのだろうが、天は二物を与えずとはよく言ったもので、互いに個性が強すぎる。




「それでー? 何の用があってここに来たの? 」

「ギィ? 」




 シンクロしているかの様な同調した反応、残っていたエレナと、その膝の上に乗ってビスケットを美味しそうにかじりついていたチビだ。




 焼きたてのビスケットの香りが香ばしく、そんな美味しそうなビスケットをチビはバリバリと食べ尽くし、溢れかけの部分をエレナが拾っては片付けている。




 よく、母と息子、父と娘はよく似ると言うが、その言葉は真実味を増しているのではないかと疑う位、二人の動きは揃っていた。




「えっと、その……」

「ん? 」



 言葉が出掛かっているのに、喉の奥の方に支えていて取ることができない。それは何故か。




 一つは俺に意気地がないこと。もう一つが他に二人いる前で堂々とエレナを誘うというのは……ちょっとねぇ?




 どうする、どうすれば俺はエレナを誘うことができるのだ……考えろ……自分の思考を全てそこに集中させるのだ!




 全脳神経をフル稼働して思考した結果、ある一つの解が導き出された。




「……みんなで買い物に行かない? 」

「「「え? 」」」

「私と買い物? 」

「四人で? 丁度行きたかったんだー! 」

「いい……かも……」

「どうかな……? 」




 それぞれが多々反応を示し、一人は驚き、一人は頷き、一人は喜んでいる。




「私は賛成」

「私もー」

「私……も……」

「満場一致で良いってことかな? 」

「そだね、皆んなでもさっき、今日は暇だから何処にお出掛けしたいよねーって言っていた所だったの」

「ベスト……タイミング……」

「男の子がいる買い物ってのも楽しみだよね」

「何だか……新鮮……」

「そんなこと言ってー! マリアはレイと一緒に出かけられるのが嬉しいんでしょ? 」

「姉さん! ……ち、違うもん……」

「もう! 嬉しいなら嬉しいって言えば良いのに」




 全員の了承を得たことにより、ここに四人と一匹による大々的な買い物計画がスタートした。




 一先ず、三人の着替えを待ち、それから街へと繰り出すこととしよう。




 店の外で、チビと二人でお留守番。頭に乗られているのが重たくてアレだが、そんなことすら今はどうでも良い。




 この誰かを待っている間の、甘酸っぱい感じのする時間。悪くない、悪くないなこういうのも。




「なぁ、こんなのも悪くないよな? 」

「ギィ? 」

「ドラゴンには分からないか……何でもない」

「お待たせー! それじゃ行こっか! 」




 これで、四人と一匹が揃った。

 だがこの時、男一人、オス一匹、女三人による、仁義無き戦いが始まることをまだ誰も知らない。

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