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姉の強さ

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「準備運動はいる? 」

「要りませんよ」

「よし、じゃあ彼処に掛けてある時計の針を見て。もう直ぐ針がピッタリに合わさるから、そこからきっかり十分で終わりね」

「はい」




 首をパキパキとならし、軽くだが手首を回した。

 意識を底に沈めて、一点、ただ一点を見つめて呼吸を整える。




 アンナさんは、如何にも自由な体で、欠伸をしている。……舐められてるな完全に。




 それほどまでに自分の腕に自信があって、尚且つ、俺のことを品定めでもするかの様な視線。




「あのさ、一応言っておくけど、私の事を殺すつもりで掛かってきてね? じゃないと意味無いしかえって大怪我するかも」

「こ、殺すつもりって……出来るわけないじゃないですか! 」

「大丈夫大丈夫、人はそう簡単には死なないって! 」

「そういう問題なのか……? 」




 本気で来いと言ったり、殺すつもりで来いとか言ったり、本当に大怪我を負ったらどうするつもりなのか。




 自信に裏打ちされたその傲慢さに心がイラつく。

 何だか上から目線がすぎるだろ。




「あの……武器は要らないんですか? 背中に提げているそれなんですけど」

「あーこれ? 要らない要らない! 素手でも十分でしょ? 」

「そーですか、なら俺も素手でやってやりますよ! 」



 挑発に乗るつもりはない。俺だってその位のハンデで十分だ。

 流石に手ぶらの女性相手に剣を抜くのも忍びない。

そう思ってあえて俺は何もせずに彼女に向かっていく。




 だが、それでも彼女は何もしない。何もしようとしない。その場から動くこともせずにピクリともしない。




「ッラァ! 」

「お、意外といいパンチだねー! 」

「マジか……」




 俺の突き出した渾身の一撃は、あろうことか初撃からアッサリと片手で受け止められた。

 いや、問題はそこじゃ無い。問題なのは何の準備もしていなかった筈のアンナさんが俺の拳を片手で止めたあのスピードが問題なんだ。




 ギリギリまで待ってからの悠々としたディフェンス。どうやら、自分が強いと言っているその強さはブラフじゃないらしい。




 涼しい顔をして俺の攻撃を止め、彼女はまだ武器すら抜いていないのだから。




「やりますね、だけどこれならどうですか! 」




 俺は手を払い、右手を正面につきだし彼女の顔に向かって拳を放った。それを彼女は難なく両手をクロスして止めようとした。だがそれはフェイクで、本当の目的は彼女が両手で顔をガードした瞬間にもう片方の左手でボディーを狙ったのだ。




 武道で言う所の山突きである。

 流石にガラ空きの水月を狙うのは気が引けるが、これで終わるなら御の字だろ。




 手心を加える気など毛頭無く、左拳に全力に近い力を込めて水月に向かって殴る。




「ふうー、危ない危ない」




 ガシッ……。俺の腕は彼女の鳩尾に届くことはなかった。防がれたのだ、それも足に。




 前の見えないアンナさんは、自分の右脚で俺の拳の先を防ぎ、片足でバランスを保っていた。




 驚くべき身体能力と状況判断力。その持ち主の彼女は俺の攻撃を防ぎきると不敵に笑う。




「面白いことするじゃん! ねえ! もっと、もっと見せてよレイの力! 」

「凄く楽しそうなんですけど……」




 本人のボルテージも上昇し続けていて、戦闘中にも関わらず興奮と快楽の悦に入っている。




 やっベーよ、マジ怖いこの人。




「仕方がない、武器を抜きますよ……怪我しても知りませんからね」

「やっと本腰を入れてくれたね! じゃあ私も特別大サービスで使ってあげる! 」




 彼女は背中に手を回し、驚くべき速さで携帯折りたたみ式の槍を組み立てる。その時間にして僅か数秒。




 目にも留まらぬ速さで組み上げられた長槍は、先端が鋭く尖っていて、まともに食らうと一溜まりも無さそうだ。




 槍の穂先までは、俺の身長を優に越しており、そんな超重量の鉄の塊を自在に振り回しているアンナさんは化物じみて見えた。




 長身のアンナさんが長槍を持つと、あまりのリーチに間合いが広過ぎて迂闊に近づけない。ここは様子見に徹しよう。




 数歩下がって、近かった二人は間合いを取った。




「どうしたものか……近付こうにもあの槍が邪魔すぎるし……」

「来ないのー? ならお姉さんから行かせてもらうよ! 」




 槍衾のように鉄槍を水平に構えたりせず、柄を上に、刃先を下にして持つ独特の構え。




 そのまま重さを感じさせない素早い動きで距離を詰められる。




 今までの敵とは違い、自分の間合いではない距離の敵の間合いに入ってしまっていた。




「せいやっ! 」




 一点に集約された渾身の突き、予想外の伸びで俺の胸目掛けて飛び込んでくる。慌てて剣で打ち合い、威力を相殺する。




 普通の剣戟とは違って、手元から一気に火薬を爆発させたような勢いとスピード。慣れない分、動きを読み辛い。




「いいねー、これを防いじゃうかー」

「偶々ですよ」

「じゃあこんなのはどうかな!? 」




 再びの肉薄。今度は一点突きではなく、槍の穂先を刃物代わりにした横薙ぎの一閃。足元を掬われない為に空中へと逃げる。




「でも、それが狙いなんだよね! 」

「ヤッバ! 逃げ場がない! 」




 逃げ場のない空中へとすかさず追撃の手は伸び、残像を生むほどの槍の三連撃が俺を襲った。




 頭、胴、脚、人間の正中線を目標とした正確無比な突きは、俺の体を串刺しにせんとばかり。




 俺は何とか空中で剣の腹を盾にして全ての連撃を受け止め、威力の分で宙を舞う。




「危っな……死ぬかとも思った……本気できてるし」

「大丈夫だよ! 死なないと思うよ……多分」




 駄目だ、アンナさんは頭の中が戦闘モードに入ってて、俺の声が届きそうもない。




 あの人を何とかして止めないと……やるしかないのか。




 能力を発動し、俺の体に力が漲る。




 勝負は一瞬だ、一瞬で片をつける。

 全力で地を蹴り、俺の姿は相手の視界から消えた。




 その場に残ったのは、重りになってしまう剣と、俺が先程までその空間にいたというほんの僅かな残像のみ。




 剣が支えを失って地面に倒れ落ちるまでの数秒で、俺は彼女の背後に回っていた。




 アンナさんは俺の姿が見えなくなった事で一瞬の動揺が生まれ、思考が固まっていた。その隙を突かない俺ではない。




「これで終わりだ」




 背後からの手刀、勿論不殺の為である。




 あと少し、あと少しで柔らかな首元を捉えられた。

 だが、その手は彼女に触れる事は叶わなかった。




 アンナさんの体から溢れる熱波が、俺の体を纏めて吹き飛ばす。俺は空中で体を捻り、何とか着地に成功した。




 肌を焼く様な痛みと、体に感じる熱さは、彼女による原因だとすぐに分かった。




 会場がざわめきとどよめきを見せ、俺は彼女が何をしたのか見据える。




 赤い薔薇の様に細く、そして棘と毒の危なさを体現したかのような炎。彼女の周りをそんな炎が纏わりつくように燃え盛っていた。




「おっどろいた……まさか能力者だったとはね……。

どうりで強い訳だ! 私もつい能力を使っちゃったよ!」

「アンナさんは……能力者なんですね」

「そうだよ……私は炎を操る能力者」




 これで終わったと思ったのに、事態はより深刻な方向へと向かっている。それも加速度的に。




 彼女は楽しそうに笑ってこう言ったのだから。




「さあ、これから本当の第二ラウンドスタートだね 」

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