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アンチマナー

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「ねえー遊ぼうよー俺達とー」

「やっ! 触らないで! 」

「嫌よ嫌よも好きの内ってねー! 」

「お客様……その汚い手をどけて頂けますか? 」

「は? 俺達は客だよ? そんな態度とって言い訳? この手を早く離せよ」

「客には客としての最低限守って頂きたいマナーというものが存在しますが貴方方はどうですかね? 」





 周りの少数のお客達も口々に陰口で話し合っていたこともあり、男達の存在は今やこの店では圧倒的なアウェー。




 強がってはいるものの、表情に動揺が見て取れる。




「てかさ、お前は何なの? 今は俺達、彼女達に話をしてる訳よ、分かる? 」

「部外者は引っ込んでろ! ブッ殺されてぇーのか! 」

「ナヨナヨした服なんか着ちゃってさー、ダッサ」

「彼女達は、俺の女ですが何か? 」

「……………………はぁ? 」

「「へぇ?// 」」

「だから、そこにいる二人とも俺の女だって言ってるんですが言葉通じてますか? 」

「はぁ!? んだよそれ! 」




 自分でも内心ドッキドキのバックバク、何て台詞を涼しげに言い放っているんだ俺は。顔から火どころか溶岩溢れてきちゃうからマジで。




 俺と不良達の他にもエレナとマリアも表情が氷のように固まっちゃってるし。え? みたいな顔になったままだし。




 だが、この場はこれで良いのだ。

 それは、奴らが怒ってくれることがこの場で一番助かる方法に繋がるのだから。




 よほどの馬鹿なのか頭が回っておらず、俺の予想する通りに激昂して目の前のテーブルを蹴り倒した。

 轟音が店内に響いて驚いたカルロスさんが駆けつけてくる。




「これは何事だ! お前らがこれをやったのか! レイ君下がっていなさい……」

「カルロスさんは良いですよ。俺がやりますから周りのお客様に対応お願いします」

「だ、だが君はまだ……」

「俺は強いですから」




 この一言で何かを察したのか、何も言わずにカルロスさんは後ろに下がって周りのお客達の前に立った。




「人の女に手を出してタダで済むと思うなよ……」

「上等だ! やんのかオラァ!? 」

「いいぜやっちまえ! そんな優男ソッコーボコって吊るし上げてやろうぜ! 」

「ハッハー! コイツを血祭りにしてからこの子達と遊びに行くのも悪くねぇなぁ! 」

「先ずはこれでも食らって沈めや! 」

「身の程を巻きまえろ」




 仲間内で盛り上がり、既に勝った気でいる男の腰の入っていないヘナチョコパンチ。速さも威力もそこら辺の野生のモンスター達の比にもならない程の弱さ。




 能力を使うまでもない。俺は男の腕を絡め取ると背後に回って腕を締め上げる。

 男の腕はミシミシと破壊の音を上げ、あと一歩で折れてしまう所で止めていた。




 一方的な暴力に対する正当防衛は成立している。そしてこの場にいる周りのギャラリーの支持も得た。





 後は潰すだけだ。



「い、痛てぇ! だ、誰かやっちまえ! 」

「お、おうおうツレに何やってくれんだよ! 離せや! 」

「離したらお前らが襲ってくるだろうが……本当にオツムが芯から腐ってるらしいな」

「馬鹿にしやがって……殺すぞオラ? 」

「動くな……一歩でも動いたらコイツの腕をへし折る……」

「は! どうせハッタリだ! やっちまえ! 」




 パキャ! 何かを外す音が部屋に響く。

 怪奇音にその場の誰もが動きを止めた。



「痛ってぇ! 俺の、俺の腕がー! 」

「や、やりやがったぞコイツ……」

「大丈夫、ちょっと手首の関節を外しただけだって……でも、今動いたよな? 次動いたらペナルティで腕以外の部分を外すから」

「以外って……」

「さあな、俺は今とても機嫌が悪いから、それも考えてくれると助かるな」




 右手はそのまま手首に残し、残った左手を香水臭い男の首元に添えた。




 その気になれば何時でもこの男を殺すことができる。相手にそう思わせるのが目的だ。




 相手は明らかに戦意を喪失している。畳み掛けるなら今か。




「お客様……今ならご無事に店内から出ることが出来ますが如何致しますか? 」

「なんだお前……って痛ててててて! 何だコイツの握力は! 」




 首に添えた左手に力を込めると、男の血管が閉まって血液が通いにくくなり、顔が赤くなって呼吸が荒くなる。



「人が折角オブラートに言ってやってんのに理解しろよゴミが。早くここから失せろ……出ないとコイツの腕を握り潰すぞ……」

「お、おい……止めろって! 」

「冗談に見えますか? 」

「コ、コイツ、ヤバイって……行こうぜ」

「あんまりここに居過ぎてプリンセス・ローズが帰ってきても面倒だ、ここは引くぞ! 」

「糞が! 後で覚えとけよ……絶対に許さねぇからな……」




 俺が手首と首から手を離すと、男は仲間に助けられながらやっとの事で店内から逃げ出した。




 店内から最後の一人が外に出た直後、周りから盛大な拍手が俺に向かって送られ、口々に称賛の声を口にしていた。




「レイ君ありがとう。君は腕っ節も相当なものだったんだね」

「あいつらが弱いだけですよ。ハッタリも効かせていましたし」

「それでも、あの肝の座り方は一般の人じゃ中々出せないよ。ウチのアンナと良い勝負だ」

「あ、あのさ……レイ……」




 ま、マズイ……そうだった……この二人の対策を考えていなかった……!





 其の場凌ぎの即興で嘘をついてしまったが、普通に考えても女の子二人に対して二人とも俺の女だから手を出すなって公開二股報告そのものではないか!




 更に酷いことが、その何方も俺と彼女でもなんでもない間柄というからこれまた酷い。




 や、ヤバイ……絶対二人に嫌われてる……。

 



「あのさ……助かったよレイ」

「……私も……ありがとう……」

「え? 怒ってないの!? 」

「だってレイは私達を助けたくてあんな嘘ついたんでしょ? なら、こっちがお礼を言う立場だよ」

「うん……本当に……怖かったから……」

「なら良いんだけど、嫌われるかと思ったよハハハ」




「そんな訳ないじゃん……バカ」

「嫌うなんて……逆だよ……」




 後ろを向いてそれぞれに何か口走っていたが何分音楽のせいで上手く聞き取れない。




 それから後片付けをして、長かった俺とエレナの一日アルバイトは終わった。




 元の服に着替える為に制服を脱ぐと、締め付けが無くなって体が開放感に包まれる。




 やっぱり制服もカッコいいけど、着やすいのは私服だよなー。




 着替え終わると、カルロスさんとマリアが見送りにわざわざ入り口まで見送ってくれた。

 この時、マリアの顔が再び赤くなっていた気がしたが……気のせいだろうきっと。




「 いやー! 色々あったけど何とか終わったねー! 私なんか怖くてちょっと泣いちゃったよ! 」

「俺がもっと早く気付いていれば……すまん」

「レイが謝ることじゃないって! むしろ感謝しなきゃね! 」

「ああ、そうだな……あっ! ごめん、忘れ物をしてきたから取ってくるよ! 」

「なら私も付いて行こうか? 近くだし」

「だからこそだよ、直ぐに帰ってくるから先に帰ってて! 」




 玄関をくぐった瞬間に身を翻し、俺はエレナを置いてドアを閉めた。



 さてと、それじゃあ仕上げにかかりますか。

 探るように服の中から取り出すのは悪魔の骸。

 骸をそのまま額に装着し、俺は素顔を隠した。




「まだだ……まだ終わってない……」






✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎





「マジ痛ってーわクソッ! あの糞ガキがふざけやがって……」

「まあ見てろって、見た感じそこそこ強そうだったけどよお、また今度不意を襲ってフクロにしちまえば余裕だろ」

「だよなあ? 明日辺りにでも人数集めてやっちゃおうぜ! 」




 夜道を歩きながら汚い言葉と騒音を撒き散らす害悪の集まり。




 どこの街や都市にでも、人が多く集まればある一定の割合でこう言うのは沸いてくる、ゴキブリと一緒の原理だ。




 だが、ゴキブリと違ってコイツ等は自身の危機管理能力が恐ろしく低いことをまだ分かっていない。




 だから、その事をこれから身をもって分かってもらわないといけないな。




「やっぱりだ……ゴミみたいな腐った臭いを辿ったら案の定ここにお前等はいたよ 」

「な、なんだコイツ!? 」




 男達の目の前に現れたのは鬼か悪魔かそれとも人か、夜空に上がったばかりの夜月に誘われて骸の男が目の前に立ち塞がる。




「先程の件で、きちんと覚えておりましたが如何致しましょうか? 」

「この声……さっきのウエイターだ! 丁度いいやっちまえ! 」




 手首を包帯で巻いている男の指示で、各々が武器になりそうな角材や鎖などを持ち出して円を作るように囲む。




 本当にコイツ等は円で囲むのが好きな奴等なんだな、とかどーでもいい事を思ったり。




『なあ……俺を呼んどいてまだかよ……』




 焦るなって……ちゃんとお前に頼むからさ。




「最終警告だ。これ以上俺の女に手を出したり、店の邪魔をするならここでお前等を潰す。しないと約束してここで土下座するなら許してやるがどうする? 」

「……やれ! 」

「馬鹿な奴らだな」




 おい、今だけだ。今だけだお前に体を任せてやる。




『良いのか? どれ位をお望みで? 』




 うーんと、半殺しの半殺し位で頼むよ。




『あいよ、オーダー承りました』




 体の自由を怒りに身を任せ、俺はほんの少しの自制の意思を残してフェードアウトした。




「ふうー、どう料理してやろうかなー楽しみだ」




 ゴミ共を如何に殺さず、面白おかしく苦しませてやれるか考えなければ。




 何通りかの方法を思い付き、この場に合ったものをチョイスする。




「取り敢えず……半々殺しにしよっか! 」




 俺の声に反応して身構える男達、だけど遅い、全ての動作が遅すぎる。




 そんなんじゃとてもじゃないが料理なんてできないぞ? 一流の料理人は料理を作りながら片付けを済ませているものだ。こんな風に!




 意識の切れ間を盗み、気配を闇に消すと背後に回って男を蹴り飛ばす。




 蹴り飛ばす先は別の男が身構えていた位置で、ただ蹴り飛ばされただけなのに二人は勢いを殺し切れず、壁に激突して動きが止まった。




 あと二人、怪我人を入れても三人か……つまんねーの。




「お兄さん達、頼むからもう少し楽しませてくれよ」

「な、何だと!? 二人も一気にやられてる! 」

「人の心配よりも自分の心配でもしたらー? 」

「後ろっ!? ガハ! 」




 隙だらけの背後から首を閉め、同じ要領で反対側の男に向かって投げ込む。真ん中ストライクで三振だ。




「もう終わりかよーもうちっと頑張れやー」

「何なんだよこの白銀ヤローが! 」

「手ぇ怪我してるのにキャンキャン喚くじゃない。俺は好きだぜお前みたいな奴……潰しがいがあるからな」




 男の反対側の手首を反射的に外し、周りの男を全員横並びに転がした。




「俺がさ、土下座したら許してやるって言ったのに人の話を聞かないから……ま、人の話を聞けるような頭じゃないだろうけど! 」

「ゆ、許して下さい……出来心だったんです……! 」

「そんなんです! 僕達はそんな気は毛頭……」

「黙れって、誰が喋って良いつったよ。殺すぞ? そもそもさ、お前等ってなんで自分から誰かに迷惑を掛けに行くのが上手いの? 教えて欲しいわマジで」




 この件だって、お前等が普通にしてれば俺だってこんな手荒な真似をしたくてよかったんだぞ。

 多少の気晴らしになったけどな。




「俺一人ならこれで許してやるんだけど……残念ながらお前等は俺の知り合いを泣かせたからな……」




 一人は長い付き合いで、俺にとっても大切だと断言できる人を泣かせた。もう一人は出会ってまだ短いけど、それでも俺にとっては泣かせたくない人を泣かせたのだ。




「二度とテーブルマナーが忘れられない様に教育してやるよお客様♩ 」

「「ウギャアァァオカァ!  」」




 並べた男全ての腕から先を何事もなく同時に切り落とした。あまりに綺麗に手先が消えたので、血も殆ど出ていない。まあ痛みは感じてもらうけど。




 切り落とされた腕は、後で縫合手術で治されても面倒なので全ての腕を一まとめにして横に流れていた川に投げ捨てる。




 小石を投げ込む様に水面に波紋ができ、深い水底へと計十本の腕は沈んでいった。




 これで腕は使い物にならないから、コイツ等の腕はこのままないままになるか義手になるかだな。




 俺は痛みにのたうち回る内の最初に殴りかかってきたリーダー格の男の耳にそっと囁いた。




「次に俺の視界に入ったら……殺すから」




 それだけを言い残して、俺はその場を去った。




 男達は、二度と店の周りに現れる事はなく、風の噂で都市を逃げ出したとか何とか。




 女性をナンパしたりする時は、節度を守って紳士的な振る舞いを忘れない様にしないと、腕を誰かに切り落とされたりするかもしれませんよ。



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