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邂逅

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「ここは……」

『目は覚めた? おはよう』

「おはよう……?」



 目覚めたのは何もない部屋。

余分な物は何もなく、部屋には色彩が丸ごと抜けきっている。そんな空間で、二人だけ、俺と彼女だけが存在していた。



 彼女の瞳の中に映る俺は時間が止まった様に動かない。



 彼女はとても美しい。とても形容し難く、神秘的な美しさを放っていた。端整な顔立ちとつぶらな瞳。

背中から生えた純白の六翼、地につくほどの長さの金色の髪が特徴的。



 彼女の姿は、この部屋と違って色鮮やかに彩られていた。こんな女性、今まで見たことがない。



「君は誰なんだ……? 」

『私? 私は貴方の契約者です!』



 契約者……。 契約とはあの手紙のことなのだろうか。



 フィクションみたいな話だな。



『あなたは見事、私のプランに参加することが決まりました、おめでとう! 』



 パチパチと部屋に拍手の音が鳴り響く。殺伐とした空間に吸い込まれる拍手の音。



「プラン?  一体何のことだ」

『だからー、さっきも言ったでしょー?  これからあなたは人生をやり直すんですよ! 』

「マ、マジで? 」

『マジで! 』



 なんだこの会話、側から見たら冗談にしか聞こえないだろ。いきなり人生をやり直すとかぶっちゃけ過ぎ。

 だが、実際の所、この場所とあの出来事は作るものではない。

指に残る痛みと傷が、証拠として物語っている。



『自分で言ってたでしょ? こんな世界要らないーって』



 ああ、言った。 確かに言った。思い出すだけでも恥ずかしくて顔から火が出そうだ。



『現に、もう貴方の存在はあっちの世界では完全に抹消されてて帰ることは出来ませんからー』



 サラッと言われた言葉が胸に刺さる。存在を抹消?



『それでもってー、これから貴方を別の異世界に送るんですけど何か質問とかあります? 』

「取り敢えず、質問があり過ぎて何処から突っ込めばいいのか分からない……」

『はい、無いみたいなので先へ進みまーす』

「おい、ちょっと待て。 整理するだけの時間をくれ」



 展開が飛び飛びで頭が付いて行ってない。しかもこの女性、かなりの自分勝手である。



『ダメですよ!  時間は限られてるんですから! 』



 めっ、と、唇を人差し指で止められた。自分の唇よりも柔らかな指。その指が今、俺の唇に触れている。

甘い匂いが指先から香り、気分が高揚して頭に血が昇っているのが分かった。



『面倒になってきたので詳しいことは省きますが、一言だけ言っておきます』



 面倒って、おいおいそれでいいのか。



「な、何を? 」

『貴方には私から授ける力があります。 その力を好きに使って来世をエンジョイしちゃってください』



 は?



「力? 力ってどんな? 」

『それは企業秘密なので、ちょっと……言えませんけど、すぐに分かると思いますよー』



 そう言うと、彼女は俺の唇から指を離した。離れた後も、唇には柔らかな感触が残っている。



『貴方にはその資格があります。 そして私の思い描くビジョンを達成するだけの目的と意思も……』



 目的? さっきもプランがどーとか言ってたけど。



『これで説明は終わり! それじゃあ最後のお仕事ちゃっちゃとやっちゃいますか! 』

「最後の仕上げって……」










 言い終わった瞬間、胸に激しい痛みが走った。



『これで貴方と私は半分こずつの共鳴者になりました』



 眼前にあるのはさっきまで俺の口を塞いでいた手。

その手が、俺の左胸に突き刺さっていた。そして、引き抜かれる。激しい血飛沫が舞い、部屋に赤い血の華が咲き乱れた。



『あー、綺麗な薔薇みたい』

「うっ……」



 目の前で脈打つのは自分の心臓。その横に、似たような形の物体が同じ様に脈を打っている。それは彼女が残った左腕で抜き取った自分の心臓にに他なかった。



 苦しい、息ができない。



 喉元まで血がせり上がっているのに、口から流れるのはほんの少しだけの量の血糊だけ。痛みのショックで、血を吐き出すことを体が忘れてしまっている。

あまりの痛みで意識を失えず、かと言って言葉を話すことも叶わない。



 体に上手く力が入らず、足が崩れる。項垂れるように彼女に寄りかかり、また、彼女も俺の肩に寄りかかって抱き合う格好に。視界も朧げになり、意識も薄弱になる。



(俺……死ぬのか……)



 みんなよく見えるって言ってたけど、走馬灯って意外と見えないものなんだな……。



 見えるのは虚無。



 暗い、ただ暗いだけの景色が広がっていく。



 寒い……体が少しずつ冷えて固まっている。固まってはいるのに、腹の底から震えが止まらない。指先には感覚もない。



 それが、自分の経験した初めての死。

 その死の間際、最後に見えたのは……









 血で染まる黒い翼を翻し、微笑む彼女の姿だった。

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