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仲直り

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「これがもしかしてもしかしたら! 」

「多分そうだと思うんだけど、叔父さんからの手紙に何か書いてあるかも……お母さんに見せてみたら? 」

「お母さん、この手紙読んでみて! 」

「ゴホッ、これは……ルシルフルさんからの手紙じゃないの! 誰が持ってきてくれたの? 」

「俺です、ホントに偶然だったんですけど偶々この家の名前を知って宛先が一緒だったなと思いまして」

「それはどうもありがとうね。ニックは良い人を連れてきてくれたのね」



 内容を簡単に要約すると、ニックのお母さんが病気だという事をこの都市に来て知り、叔父さんが若い頃にここの店の前で餓死寸前で倒れていた所をニックのお母さんが介抱してくれて売れ残ったパンを食べさせてくれた事を未だに覚えていて、その時の恩を返したくてこの薬草を送ります。という事だそうだ。



 恐らくエレナのお母さんと出会う以前の話で、話の感じ的に俺とそう変わらない歳の時に起こった体験を書いた物だと思った。



 手紙の最後には、この薬草はお湯で一枚ずつ煮出してハーブティーとして服飲すれば葉を使い切る頃には治るだろうと解説まで乗せてある。



 手紙の内容を読み終わると、ニックのお母さんは瞼から涙を流し、手を組んで感謝を捧げていた。



 ニックは早速お湯を沸かして、お湯が沸騰すると包まれていた葉を一枚容器の中に入れてお湯を注ぎ、少し蒸らしてから左右に少し振ってカップに注いだ。



 立ち上る香りは心を落ち着け、茶色に煮出された薬茶は薬とは思えない芳醇な甘さを放っている。



 それを息を吹きかけて少しずつ冷まし、弱った体に染み込ませるように一口、また一口と少量ずつ体の中に入れていく。



「ああ、なんて美味しい薬茶なんだろう。とても良薬とは思えない程の美味しさがある……本当に美味しいね……」

「これでお母さんについては安心だな」

「それじゃ、ご飯を食べたら特訓開始だね! 」



 病に倒れていた母親が元気になった事で、ニックの表情も格段に明るくなっていた。



 初めて会った時の仏頂面などではなく、年相応の無邪気な笑顔。それだけでも働いて良かったなと感じる。






ーーーーーーーー






「これからニックに修行をつけるわけだけど……何か質問とかはあるかな? 」

「えっと……何をするんですか? 」

「取り敢えずこれでも使って強くなろうか」

「木刀ですか」

「そ、とにかく相手は数が多いんだ、ならこっちもそれなりの準備をした方が絶対に良い」




 俺はそこら辺にある木の棒を拾い、ニックの持つ木刀と刃先を合わせる。



「好きに打ってきて良いよ、俺は何もしないから」

「わ、分かりました! でりゃあ! 」



 叫びを上げてやたらめったらに斬りかかってくるニック。動きは単調だけど、心がこもっている。



 それら全てを打ち払い、すんでの所で受け止める。



 体勢を崩したニックは地面に転がり、それでも何度でも立ち向かってきた。



「ほら、もっと力を込めて本気で打ってこい! 」

「は、はい! 」



 何度も何度も、諦めずに立ち向かってきた。



 その日の日が暮れるまで行った特訓が終わった時、ニックは汗の雫が地面に垂れるほど集中していた。



 地面に大の字になって倒れているニックの両手は、握り込んだ豆が潰れて赤く血で染まっている。



「はあ、はあ、疲れた! 」

「まあ、ここまでやれば少しは強くなったんじゃないかな? それに、他の部分も鍛えられたと思うし」

「他の部分? 何ですかそれ? 」

「明日になれば分かるよきっと」



 俺にはこの修行、考えがあって、その分の積み込みは終わった。後はニック次第になる。



 その日はニックに地図を書いてもらい、無事に家に帰って、エレナと叔父さんの揶揄を掻い潜って明日になるのを待った。






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「よく来たな……お前一人か? 」

「そ、そうだ! お前らはまた三人で来たのかよ」

「言うようになったじゃねえか……なあお前ら? 」

「ニックの癖に生意気だよな」

「ああ、ウザいしまた昨日みたいにやっちゃおうぜ? 」

「一対一で僕と闘えよ! 怖いのか卑怯者! 」

「……何だと? いいぜ、弱虫ニックにそこまで言われると俺も我慢の限界だ。お前らは手を出すな」

「良いのか? 加勢した方が……」

「黙れ! 俺が負けるとでも思ってんのかよ? 」

「い、いや……すまない」



 死角になる地点から事の一部始終を俺は見つめていた。



 計画通りにニックといじめっ子達のボスの一騎打ちに持ち込むことは成功している。



 後はニック次第だ……。



「武器はどうする? お前は何か使っても良いぜ? 」

「お前相手なんか、武器は必要ない! 来いよ! 」

「あ? ふざけやがって……ならお望み通りにボコボコにしてやるよ! 」




 怒りに身を任せて突進してくる男の子。動きは昨日の俺よりも格段に遅く、ニックは反応できていた。



 俺が昨日教えたかったのは、何も剣術修行じゃない。だって俺は剣術の先生になる為の技術は無いのだから。



 だかこそ、勇気を持って戦う自信と、その為の反応と間合いをつかませる為にあえて木刀を使わせた。



 自身の間合いを掴んでいるニックは、男の子が殴りかかってくる瞬間に半歩前へ進み、その拳を躱した。



 勇気ある一歩、その一歩が勝負を決める。



 力の弱い攻撃でも相手の力を乗せれば大きな力に変わる。



 相手の勢いをそのままに、ニックは自分の拳を男の子の顎に当てて殴り飛ばした。



 予想外の攻撃に顔を顰めて、男の子は地面を転がる



「クッソ! ニックの癖にやりやがった……」



 子供は自分の格で相手を見定めてしまうので、時に相手が急に自分より立場の上の者になってしまうと極端に脆くなる。



 この一撃は、必然によるものだが、それでも彼の中ではニックの持つ強さに内心驚きを隠せていない。



「クソが! あんなのマグレに決まってる! 」

「僕はもう、お前になんか屈さない! 」



 今度は迫り来る蹴りを半歩後ろへ下がって躱し、空いた背中に向かってタックルをかませる。



 軸の安定しない男の子は、それだけで受身が取れずに地面に再び転がった。



 取り巻きの二人も、この異様な事態が何なんのか飲み込めず、目がキョロキョロしていた。



「ほら、さっさと掛かってこいよ! 」

「なんでお前なんかがぁ! 」




ーーーーーーーー




「お、おい、アイツやられちゃったぜ……逃げろ! 」

「なんでニック如きに負けたんだよ! 」




 自分達のボスが負け、そこ姿に失望した二人はその場から離れていった。



 その場には仰向けになって倒れている男の子と、両手を膝につけて、肩で息をするニックがいた。



「何で……何でトドメを刺さない……」

「どうして刺さなきゃいけないの……? 」

「だって俺はお前を苛めていたのに……悔しく無いのかよ……」

「全然思わないよ……だって約束したんだもん」

「はあ、はぁ、何を……? 」

「僕は君とずっと仲直りしたかっただけなんだ……ウチはお母さんが仕事をできなかった分、僕が手伝っていかないといけなくて……でもそうしたら今度は君との仲が悪くなっちゃったから……」

「お前は俺の事が嫌いになったから遊ばなくなったんじゃ無いのか? ……知らなかった……」

「だから、僕と仲直りしてくれないかな? 」

「へっ、負けた俺に向かってそんな台詞を言うなんて変わってないよお前は……ごめんなずっと意地悪してて……」

「良いよ、僕だって何も言わなかったのがいけなかったんだ、その所為で君を勘違いさせてしまっていた。ごめんよ」



 和解した二人は握手を交わし、互いに笑い合っていた。



「子供って単純だなー」

「だよねー単純だからこそ可愛いんだよきっと」

「……エレナさん? ドウシテココニ? 」

「ずっと見てたから……ごめんね? 」



 事の顛末は、俺の仕事ぶりを見る為に家を出てから全ての行動を監視されていて、当然、昨日の事も全て見られていたのだ。



 お釈迦様の掌の上で転がされていた気持ち。



「レイが想像通りに地図を無くすし、本当心配しながら見てたんだよ? まあ、仕事はちゃんと出来てたからオッケーだったけど」

「無くした時に教えてくれればこんなに迷わなくて済んだんじゃ……」

「いやー、後ろからコッソリ覗いていたら、何だか子供の初お使いを見守ってる母親みたいなシチュエーションが楽しくて……つい」



 ペロリと舌を出してゴメンねと謝られるが、そんな可愛いポーズをしたからって許さないぞ!



「ま、まあ良いけどさ……でも良かったよあの子が仲直りできて」

「子供同士の喧嘩の仲裁役に手伝ってあげるなんて良いお兄さんですなー」

「馬鹿にしてるだろそれ! 」

「違うよー! 褒めてあげてるんじゃん! 」



 無事仲直りした二人の近くで、新たに起こる諍い。

 この諍いは俺が折れてあっさりケリがつくのだが、男の子達はもう大丈夫だろう。そう思って何も言わずにその場から去った。







ーーーーーーーー






 筈だったのだが……。



「アニキ! 昨日はありがとう御座いました! 」

「俺達はアニキのお陰で仲直りできたんです! 」

「そのアニキってのはどうにかならないの? 」

「「アニキ! 」」

「それが言いたいだけだろもう……」

「お兄さんはモテモテですねー」

「ギィ! 」



 次の日、朝起きて店に出ると昨日の二人がいて、知らない間に自分達が子分になるとか言い出して……。



 それに便乗したエレナが囃し立てて、事態は収拾がつかなくなってしまっていた。



「これからアニキの言うことなら何でもやりますから僕達を使って下さい! 」

「腕っ節ではアニキに負けるけど、やる気なら負けません! 」

「あ、ああ、分かったよ……ありがとう」



 子供の無垢な気持ちには断れないじゃないか。



 二人は既に肩を組むほどに仲良くなっていて、要は互いに歩み寄りがなかっただけなんだと分かる。



 取り敢えず、これで一件落着なのかな?



 こうして俺に二人の子分ができた。




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