子供達
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「今日はレイ君に運び屋の仕事をして貰いたいんだけど大丈夫かな? 」
「難しくなければ大丈夫ですけど……」
「なーに、ちょっと此処から反対側にあるお店に商品を運んでもらうだけの簡単な仕事だよ」
「それならできそうですね」
「ついにレイも独り立ちか……感慨深いものがあるねー」
「つってもこんなのお使いと一緒だし、直ぐに終わらせて帰ってくるよ」
「ここに地図と目的地を書いておいたから、くれぐれも迷子にだけはならないよう気を付けてね」
「レイの事だからうっかり地図とか無くしそうだよね」
そんなに信用ないのか俺って……。流石にちょっと悲しくなってくるよこれは。
「それじゃ、コレが運送する荷物ね、一応包装はしているけれど、あまり中を揺らさないよう気を付けて」
「中身はなんなんですか? 食べ物? 」
「うーん、遠からず近からずだね。本当は話しちゃダメなんだけどそれとなく言うならハーブかな? 」
「気をつけて運ばないと行けませんね! 」
「お勤め頑張ってねー」
「直ぐ帰ってくるって……行ってきます」
お店の制服に着替えてから玄関に置いてある小包をリュックに入れて、右手から紐を通して背中に背負う。
ガサリと音がなっているが、この程度は許容範囲で、走ったりし飛んだりしなければ問題ないのだそうだ。
こんな簡単な仕事、わざわざ心配してまで見送る事もないだろうに。
二人は演技派気取りでハンカチ片手に涙ぐむフリだけして行ってらっしゃいと言ってくれたが、返って馬鹿にされている気にしかならない。
いいぜ……やってやる、こんな仕事早いとこ終わらせて二人の鼻を明かしてやるんだ!
そう思っていた時代が俺にもありました……。
それから数分後、地図をマジマジと見すぎて通行人に気付かずぶつかってしまい、その拍子に落とした地図を犬が咥えて走り去り、やっとの事で取り戻したかと思っていたら今度は鳥に奪い去られ、追いついた先で鳥に飛びついた後、下が川だった事を忘れて地図諸共盛大にダイブした男の姿があった。
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「ヤバイよ……これ迷子だ……」
全方位どこを見ても知らない建物&知らない人達。
そこに加えての全身びしょ濡れという悪条件に次ぐ悪条件。身も心もボロボロだ。
貰っていた地図も、水で滲んでバラバラに破れさり、自分が今どこの現在地にいるのかすら貞さではない。
はて、どうしたものか……荷物は無事なんだけど俺が無事じゃなさそうなんだよなあ……。
「ここから俺が取ることのできる選択肢は三択存在するが、どれを選んだものか……」
選択肢一覧(三択)
① 周りの人にルシルフル・エンポーリオまでの道を聞き、一度戻ってから地図を手にして出直す。
② 諦める。
③ 何が何でも探し続ける。
この選択肢の中から自分がこれから取るべき行動を導き出そう。
①……は、絶対馬鹿にされるから嫌だなー。エレナに『やっぱり無くしたんじゃん! 』とか、叔父さんに『本当に迷子になるなんて……予想以上だよ! 』とか、抱腹絶倒されてしまうので却下。
②……は、論外。信頼を損なうし人としてもやりたくないので却下。
③……は、苦渋の決断で、砂漠の中でダイヤを探すくらい困難が予想されるが、この現状ではこれがベターか。
溜息を吐いて重い腰を上げた。これから始まる地獄の仕事に心が打ち震える。
人に話しかけ、建物を周り、動物に聞き込みを続けたが一向に見つかる兆しはなく、道の入り組んだところに迷い込んでしまって袋小路に入っていた。
文字通り路頭に迷った俺は、何もないベンチの上に腰掛けて両手両足を大きく広げて天を仰ぐ。
空は青く、雲ひとつない晴れやかな空なのに、心はどうしてここまで曇天なのだろうか。
「簡単な仕事のはずだったのに……何やってんだ俺……」
不幸とは突然訪れるもので、防ぐ術はない。不可抗力だったのだ、仕方のないことだと自分に言い聞かせた。
「はあ……帰るか……」
「オイ! 早くやっちまえ! 」
「痛い! 痛いって! 」
帰ろうとした間際、壁の向こうの空き地で若い男の子達の怒鳴り声が発せられた。
気になって壁の上に手をかけ覗き込むと、小さな空き地の真ん中にある土管の上に男の子が四人いて、そのうちの一人は首を掴まれて体を宙にばたつかせていて、呻き声を上げているではないか。
「何やってるんだ! 止めろ! 」
「うわっ! 年上が来たぞ逃げろ! 」
「おいニック! 明日は一人でここに来いよ! 」
俺の存在に気付いた三人は驚くほどの早業でその場を立ち去り、空き地には俺とニックと呼ばれた少年がいるだけである。
ニックは何も言おうとはせず、俺にお辞儀をするとその場を去ろうとする。だが、その体は土屋泥で塗れて痣らしき跡が幾つか手足に残っている。
間違いなくこの子はいじめにあっていた。それも複数対一の圧倒的不利な条件下で。
「ねえ、良かったら俺と話でもしないか? 」
「……何で? 」
「何でって……誰かと話したいのに理由はいるの? 」
「変な人……いいよ、話をしてあげる……」
「その前にそこの水道で手と足を洗って土埃を落としておいで、でないと傷口からばい菌が入っちゃうから」
「うん……」
水道で体を綺麗にした少年は、坊主頭を撫でながら話し出す。自分の思いを誰かに吐露したくて。
「アイツ等……いつも僕を苛めてきて……僕は何もしていないのに……変だよね」
「あの三人は友達なの? 」
「昔は一緒に遊んでいたんだけど、最近は家の事が忙しくて遊べなかったんだけど、その腹いせに苛められるようになった……」
「そっか……辛かったんだな。それでニック、君は一体どうしたいの? 」
「どうしたいって? 」
「だかさ、昔みたいに皆んなで遊びたいのか、それとも復讐してやりたいのか、そのどちらでもなく現実から逃げたいのか……どれ? 」
少年は俯き、自問自答をしている最中で、話しかけずにそっとしてやると、十秒ほど経ってから答えを述べた。
「僕は……できればまた皆んなで仲良く遊びたいんだ……」
「ならどうしたいの? 」
「苛めに負けたくない……! 」
「そっか、なら俺もニックがあのいじめっ子達に正面切ってまともに戦えるように手伝ってあげるよ」
「え? お兄さんがどうして手伝ってくれるの? 見ず知らずの他人同士なのに……」
「俺は世の中の不条理が許せないんだ。だから、君みたいな弱い立場の人の味方で居たいと思っている」
「そうなんだ……何だかヒーローみたいでカッコいいね! 」
「そ、そうかなー//」
「それじゃあ、僕の家に招待するから昼飯でも食べに来てよ! 母さんも喜ぶし」
俺は待てと叫ぶが、歳下の男の子というのは力が強く、一度決めた事は中々曲げないやんちゃ坊主で俺は引っ張られていった。
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「ゴホッ、お帰りなさいニック……そちらの方は……? 」
「お母さん! 無理にしないで転んでなって! ただでさえ体が弱いのに病気にもかかってるんだから! 」
「ごめんね……私が働けたらいいんだけど……ゴホッ! 」
「ほら、手を貸すからベッドで休んでなよ」
「……ありがとう。それで……貴方はどちら様でしょうか? 」
「俺はレイです。訳あってニック君の計らいでお昼をご馳走してくれる言われて……帰りましょうか? 」
「いえ……どうぞお構いなく……ウチは何もない辺鄙な家ですが、お寛ぎください……」
「お心遣い、痛み入ります」
「こっちこっち! とびきり美味しいパンがあるから食べようよ! 」
「分かった分かった! 落ち着けよ全く」
椅子に腰掛け、テーブルの上に手を置いて待っていると、バスケットに布がかけられて運ばれてきた。
「これは僕のお母さんが焼いたパンなんだ。ちょっと日にちは過ぎちゃってるけどとっても美味しいんだ」
「……本当だ。美味しいよこのパン! 味がしっかりしててパンの食感も良い! 」
「でしょ!? お母さんの作るパンは世界一だったんだけど……体が弱くて病気がちなのが災いして体調が崩れて中々元に戻らないんだよ! 」
なるほど、それが最近この子があのいじめっ子達と遊べなくなってしまった大きな理由なのか。
床に伏せる母の代わりに自分が粉骨砕身して家庭を少しでも助けているのだ。その心がけはとても立派で、彼の心は綺麗に澄んでいた。
この子を助けたい、そう思えるだけの器をこの子は持ち合わせている。
「病院に見せに行ったのか? ここには病院だってあるだろう? 」
「病院は高くて無理だよ……それにこの症状を治すには特別な薬草が必要だって聞いた。この都市にはそんな者は存在しないのに無理だよ」
「薬草? 」
「うん、特別な薬草で手に入れるのが難しいって言ってたんだ」
「薬草……何処かで聞いたような……」
頭を捻り、記憶の海馬から今日一日の出来事を思い起こす。すると、確かに叔父さんがハーブとか薬草とか言っていたような……。
これはただの偶然か? それとも……。
「あの、ニックってファミリーネームは何て言うの? 」
「へ? えっと、ファーガソンだよ」
「ファーガソン、ファーガソン……っとやっぱりだ……」
足元に下ろしていたリュックの口を広げ、中に包んで入れていた緑の包装紙取り出すと、そこには確かに宛名がファーガソン様へとなっている。
間違いない、この荷物の届け場所はここなんだ。
「ニック、偶然だけど、この荷物は実は君の家宛に送られた物なんだけど開けてごらん? 」
「どうして? でも、分かった……これは! 」
中には薬草のハーブが何枚も重ねて蔓で縛られており、薬草独特の香りが部屋中に広がる。
更に中を調べてみると、中に一通の手紙が入っていて、差出人は叔父さんの名前が入っている。
俺は得てして幸か不幸か、道に迷いながらも無事に初の配達任務をクリアさせていた。