眼下
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「ア、ア、アリアハンーーーー‼︎‼︎ やっと着きましたよ初の目的地に‼︎ アリアハン‼︎ アリアハン‼︎ 」
「やったねミハルちゃん‼︎ 」
「エレナさんもやりましたね‼︎ 」
「「うわぁぁぁ〜〜‼︎ 」」
辿り着いた一つ目の目的地に歓喜する二人は互いに抱き合い、ピョンピョンと跳ねたりしていた。
可愛いはしゃぎ様の二人とは真反対に、ポーシャは冷静に時間の確認をしていた。
「現在時刻は昼前ですね、駐屯地が近くにあった事で日が落ちる前に辿り着けたのは僥倖です」
「だな。夜に着いてたら周りも見辛いし、泊まれる宿が限られるのは手痛いぜ」
「と言っても時間は限られています。早めに用事を済ませて疲れをとりましょう」
「チビも疲れたか? 」
「ギィギィ‼︎ 」
「チビちゃんはまだまだ元気ですね。疲れたら何時でも私が抱き締めて癒してあげますからね? 」
「ギ、ギギィ……」
チビは半ば遠慮がちに俺の頭の上に避難をしつつ、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回す。それもそのはず、この街アリアハンは別名『始まりの街』と呼ばれていて、周辺の冒険者や職を探す人が多く立ち寄る多種多様な街らしい。
街のセールスポイントは『何かを始めたいなら、ここから始めよう。何でもあるよアリアハン』と、街の入り口横の表札にも書かれている。
至る所に軒を連ねるのは外から来る人向けの宿屋や道具屋その他多くのお店で、商業に特化したジェノヴァとはまた違った活気に溢れていた。
旅行客に外貨を落とさせることにコンセプトを置くタイプの街らしい。外から得る資金で街を潤し、その潤いを求めてまた外から客は来る。農産や牧畜に優れない街や都市は代わりに発展する為の試行錯誤をする。そんな街の完成系がこれなのだ。
この分なら、酒場なんかに人員募集の張り紙もしてそうだ。話は道中でエレナ達にも付けてあるし。
「これからどうする? 今日中に出来るなら済ませる事は済ましておきたいんだけど? 」
「俺は人探しをやるよ。多分、実力とかも見れば凡そ分かるだろうし」
「じゃあ、私達三人は残りの調度品探しと到着印を貰ってこようか? 」
「そうしてくれ、チビ、三人の護衛は頼んだぞ」
「ギィギィ‼︎ 」
「チビちゃんがいれば心強いですね! 私が責任持って抱き締めっ……預からせてもらいますっ‼︎ 」
「ギュゥ……」
「お金はこれ位で足りるかな? 」
「十分だよ、雇用するに当たって何かリクエストみたいなのあったら言ってくれ」
「はいはい! ミハルはイケメンをオーダーします! 」
「却下。次他にない? 」
「酷くないですか!? じゃあ、ナイスガイで! 」
「ポーシャとエレナに聞いてんの、お前は黙ってろ」
「扱いが雑ですよ! もっと丁寧に扱ってください! ぶーぶー! 」
取り敢えずデコピンを額に食らわせてミハルを大人しくする。ポーシャとエレナは真剣に考えているのかそれぞれ顎に手を当て眼差しは深く沈んでいた。
「あ、では私から一つ。年齢は近くて物騒でない性格の人がいいですね」
「なるほど、なるべく近くで話し易い人っと。エレナは? 」
「んーと、出来れば……女の子がいいなぁ……なんて」
「な、何言ってるんですか! 折角の出会いのチャンスを不意にするなんて! ぐぁぁぉぁぉ! 痛い! 痛いですよお兄さん! 頭ガァァァ! 」
ミハルには黙っていてもらうためにデコピンからアイアンクローに変更して喋れない体にしておこう。
「やっぱり、同性じゃないと怖いかなーって。あっ、レイは別だよ? 頼りになるし優しいし! 」
「幾ら腕が立っても、男の人じゃ迂闊に話しかけづらいですし私も賛成です」
「えー! ミハルはっ! ……も賛成でーす……」
やはり年頃の女の子達なのか、異性を恐れる気持ちは分からないでもない。男でさえ少し分かるのだ、女の子なら尚更気になってしまうのだろう。
「よし分かった。同い年位の女の子で護衛をしてくれそうな人を探してみるよ」
プランが決まり、やることが明確になってくるこの感覚。自分に任された仕事の重さが責任感になって良い具合のストレスになっている。ミハルは少しの間落ち込む風でいたが、スイッチの切り替えでコロッと元の明るい表情が浮かんだ。
「買い物っ! ふぅ♪ かーいものっ! いぇー! 」
「そんなに買い物がしたかったのか? 」
「当たり前ですよ! ミハルはこれでもうら若き乙女なんですからね? 化粧道具に小道具にあれもこれも欲しいお年頃なんですから! 食べたいものもあるし服だって買いたいんです! ガサツな男の人には分からないでしょうね! 」
「自分でもうら若き乙女とか……引くわぁ」
「だまらっしゃい! 女の子の気持ちは女の子が一番分かりますもの! ええ! ねぇお姉様方? 」
「あ、勿論、財布は私が預かってるからね? 」
「無駄遣いは嫌いです」
「ええー! 何でですか!? 買い物しましょ〜よ! ショッピングしたいですー! 」
「じゃあ、三時間後にこの先の広場に集合で」
「話聞いてくださいよ! 無視ですか!? 」
「分かった、一人だけど気を付けてね? 」
「泣いてやる! ミハル泣きますからね! 」
ああ、と返事をしながらエレナ達と反対の方向に分かれ、道を一人で歩く。断末魔のようなミハルの惜声が木霊していたが、聞けば甘やかしてしまいそうなので、耳に手を当てて聞かないように足を速めた。
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何はともあれ、先ずやるべきは情報収集。人を集める前に、奴がこの街に来た痕跡はないか、何処に何をしに向かったのか等、聞けることを聞いておかなければ。人が多そうな通りを見つけ、辺りを観察しながら一息吐く。
さっきから多くの人とすれ違うのだが、特徴的なのが殆どの人間が何かしら剣やら弓やら棍棒やら、武器を手当たり次第一つは持ち歩いているのが見受けられる。流石は始まりの街、冒険者が多いのも伺える。
まだまだ装備が真新しい駆け出しの新米から、歴戦の貫禄ある格風のベテランに至るまでより取り見取りじゃないか。時間を掛けずにさっさと用件だけを済ませて、エレナ達を探した方が有意義だ。
ぎゅむ。ぎゅむむむむ。
初めて聞いたこんな擬音。
周りばかり見てて足元への注意が散漫になり、何か柔らかいものが土踏まずと地面の間に挟まっていて、思わず踏んづけていた。
最初は土が盛り上がったものか石の塊が置いてあってそれを踏んづけてしまったのかと思った。だが、この街の街道は全て石畳で舗装されていて万が一にも荒れている部分なんて無い。では何故足元から絵も言えぬ違和感を覚えるのだろうか。
何度も頭を捻っても、この感触には覚えがない。やけに生暖かではあるが不思議と嫌ではない質感だった。
視線を下ろすと簡単に答えは見つかった。
俺が踏みつけていたのは土でもなく石でもない。見当違いも甚だしい答えがそこに転がっていたんだ。
人だ。俺が踏みつけていたのは黒い服を着た女の子だった。