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お金の使い道

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 ゼイニックの所から無事脱出した俺は、再び大通りを歩くのが嫌で、通ったことのない裏道を通って帰ろうとしていた。



 手には、男の首を掴んだ感触は残っているが、先ほどまで暖かさを持っていた者を殺めたという罪悪感など微塵も感じない。なぜなら、奴は死んで然るべき存在だからである。



 俺は今日、ある確信を得た。それは、この世界には死んでも仕方のない人間が多くいる。なら、俺はその人間達を殺しても何も問題は無いだろうという確信だ。



 いない方が周りにとって幸せになれるのであれば、俺で言う所のエレナ達を悲しませる奴らに対して、俺はこの力を際限なく振るおう。



 それが、俺にできる恩返しにもなるし、周り回ってエレナ達の為にもなる。

 俺は弱き者達を見捨てない、自惚れた強者を倒すべき力を得たのだから。



 その為の証拠隠滅に、この面は本当に役に立つ。

 懐から取り出したのは、何かの骨で出来た無骨な面。ドクロ頭の両端から先の曲がった巻角が出ていて、見るからに凶悪な見た目である。



「これじゃ、俺が悪者に見えちゃうかな……」



 目には目を歯に歯を。

 俺は大事なものを守る為なら悪魔にだって悪鬼羅刹の使者にだってなってみせる……。



 決意と共に、面を服の中に戻し、俺は闇の中を一人進んだ。





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「ただいまー」

「レイ君!? 」

「レ、レイ! どこ行ってたの、心配したよ!? 」

「あれ? ちょっと出掛けてくるって言わなかったっけ? トイレだよトイレ」

「いつの間にか居なくなったから気付かなかった……」




 やはり、そこまで追い詰められていたのか。

 俺は奴に然るべき報いを受けさせたからもう大丈夫だぞ、もう二度とアイツに虐げられる事は無い。



「商都に行く為のお金を失ってしまったのは大きな痛手だが、やり直せる、もう一度みんなで頑張ってやり直そう! 」

「……そうだよね! 私達なら何度だってやり直せるよね! 」



 この人達は本当に強い人達だ。どんなに辛い状況でも前だけを向いて生きようとしている。希望を持って生きる人は強い、何よりも強いのだ。



「あの……すみません」

「やあやあ、貴方は隣の店のオーナーさん。如何なさいましたか? 」

「実はこれが裏手に置いてあったんですけど……もしかして……」

「これは……私達の売り上げと同じだけの金貨が入っている! だが、一体どこでこれを? 」

「我々が盗んだわけではありません! 少し前にこの袋が店の中に置かれているのを見つけて、よく見るとこの店の名前が書いた紙が入ってあったので持ってきたのです! 」

「それは本当ですか! 誰がこんな事を……」

「誰でも良いじゃないですか、親切な人が届けてくれたんですよきっと」

「そうだよ! あるならあるでそれで良いじゃん! このお金があれば今日にでも商都に行けるし! 」

「……そうだな、これも私達の日頃の行いの現れなのかもしれないな」



 良かった……妙な勘繰りは無いようだ……。

 この店の前に直接置こうかとも思ったが、下手に心配されても後が面倒だし止めておいて正解だった。



 だから、帰ってくる前に自分でこっそり隣の店に置いておいて、自身の目で警戒していたのだ。隣の店の店主は人が良さそうで叔父さんとも仲が良かったので賭けたのだ。



「それでは私はこれで失礼します」

「ああ、本当にどうもお世話になりました」

「「ありがとうございました」」



 三人は隣の店主に深々と頭を下げ、これからの事について話し合う事にした。俺としても、なるべくここから離れてくれる方が足も付く可能性が低くなって助かるのだが……。



「よし、今夜にでもここを発つから、エレナとレイ君は最後の見納めでそこら辺を軽く見回ってきなさい」

「え、良いの? でも、お店の商品は……」

「そんなのは年寄りに任せて、若い二人で楽しんできなさい、ほら行った行った! 」



 叔父さんの謎のウインクにどんな意図が含まれていたのか定かでは無いが、少なくとも悪意は無い事だけは見て取れたので従った。





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「今日でこの場所も見納めだねー! なんだか寂しいけど仕方ないよね」

「ここより商都の方が賑わってるんだろ? だったらそっちの方が楽しいんじゃないのか? 」

「……それもそうだね♩ 」



 最後の見納めという事もあり、俺とエレナは今までに通った事のない道を選んで進んでいた。

 曲がりくねった道が多く点在し、その間にチラホラと怪しげな店が軒を連ねている。



「なんだこの店……動物販売店……? 」

「凄い……怪しいよね……? 」



 店の外観はおどろおどろしく、不気味な看板が一枚だけポンと立てかけられており、中は遮光でもなされているのか薄暗く奥が見えない。



 それだけが怪しげなポイントではなかった。

 一番の特異さは、店の奥から聞こえる生き物の鳴き声なのである。それも一匹二匹の問題ではない。かなりの数でそれぞれ種類も違う。



 頭で入るな、止めておけと信号がバシバシ出ているのだが、好奇心とは消し難い真理である。頭は駄目でも体が奥に行こうと進むのだ。



「え、ちょ、入っちゃうの? 止めときなよー」

「なら、外で待ってていいよ、直ぐに出てくるから」

「それは……怖いから付いていくしかないのか……」

「何事も経験さ、面白いものが見られるかもよ? 」

「いや、記憶喪失な人に経験と言われましても……」



 俺はずんずん進み、それを後から彼女が一人は寂しいと急いで追ってくる。二人は店内に入店した。



 中の温度は外よりも高めで、店の中は檻のついたゲージが所狭しと並んでいた。どのゲージも、奥に何かが潜んでいて、じっと息を潜めてこちらに爛々とした眼光を見せつけている。



「ホッホホ、いらっしゃい。若いお二人さん」

「うわっ、そんな所に人が居たのか……」



 カウンターの前に人が居なくて不在かと思っていたら、その下にちょこんと小さな老人が座っていて話しかけていた。頭に皺が複数刻まれていて、細い目つきといい、なんと言うか……胡散臭い。



「ここには色んな珍しい動物が沢山いるよー。ほれ、そこの一番上の棚には、ハンターイーグルの雛。その隣には匂いが良いと評判のモモモンガがいて、反対側の端にはベーコンスターまで。どれでも好きなの見てきてごらん」

「どれも聞いたこともない生き物ばっかりだー」



 俺よりも知識のあるエレナも、希少な動物達には会ったことが無いそうで、目を子供みたいに丸くして楽しんでいる。



 俺も軽く見てみることにすると、なるほど、確かに他では見られなさそうな奇妙な動物が多い。



 ハンターイーグルの雛は子供なのに自身の体よりも大きな鋭い鉤爪を持っていたり、モモモンガは近づくと囮用のデコイなのか体から甘い桃の香りを放ち、ベーコンスターは、平べったいベーコンの様な形に星型の痣のあるネズミだったりと、まあ珍しいこと。



「どうだエレナ、この店に入って良かっただろ? 」

「百聞は一見に如かずってやつだったね! 」

『誰か……痛いよ……助けて……』

「ん?」


 すっかりご満悦なエレナを見ていると、ふと、頭の中に声が聞こえた。

 悲痛な声は、どこか人ならざる感じがして、今にも消えそうな程弱っているのを感じた。



『辛い……痛い……苦しい……』

「まただ、エレナは聞こえないかこの声? 」

「声? 何のことだかさっぱり分からないんだけど、何か聞こえるの? 」

「ああ、頭に何かこう……誰かが話し掛けて来るんだ……辛そうに」

「でも、この店には私達と店主さんしか居ないみたいだけど、どこから聞こえるの? 」

『暗い……お腹も空いた……』

「店の奥からだ、店の奥から声が聞こえる」



 このまま放って置くわけにもいかない、俺はカウンターで惚けていた店主に問いただす。



「爺さん、この店の奥に誰か怪我でもした人がいるのか? さっきから向こうで声がするんだけど……」

「ほぉあ? 向こうには誰も人などおらんがのう……」

「じゃあ、怪我してる生き物とかは? 」

「何じゃい、さっきから変なことを聞いてくるが」

「声が聞こえてくるんです、痛い、苦しいって」

「ふうむ……店の奥には動物達の寝床があるんじゃが、一匹だけ、問題のある子がおるんじゃ」



 やはりだ、やはりこの声は誰かが俺に助けを求めている声だったのだ。それも人ではなくモンスターの。



「見せて頂いてもよろしいでしょうか? 」

「まあ、何で気付いたのか知らないが、見るだけなら見てみるかいの」

「はい! 」


 店主に続いて奥に進むと、奥は少し狭くなっていて、一つだけ大きな檻が影に隠れていた。

 暗闇から臭うのは獣の強い匂いと、土の匂い。近付こうとすると低い唸り声で警戒されているのが分かる。



「この子がそうですか? 」

「そうじゃ、この子は山狼の子供で最近猟師に捕まってここに来たんじゃが、他の子に比べて格段に凶暴でな、手がつけられずにここに置いとるんじゃ」



 山狼……俺が殺されかけて殺してしまったモンスターの子供……。



 心にくるものはあるが、今は過去の事は流そう、この子は関係ないのだし。



『誰だ……人間か? 』

「ここだ、この檻の中から声が聞こえる」

「本当? 私には何も聞こえないけどなー」

「本当だって、なあ、そこの君、俺に痛いって言ってたよな? 」

『お前……俺の声が分かるのか……? 』



 会話が成立している、お前とは俺のことを指していて間違いない。



 唸り声も止み、部屋は静寂に包まれている。



「さっきから俺に話しかけてきたろ、何だ、何かあるのか? 」

『足が……足の付け根が……痛い……』

「足の付け根? 怪我をしているのか」

「此処に来た時に健康診断をしようとしたが、何分暴れるもんでちゃんと見れてない部分があったが……そうか足か……盲点じゃったわい」

「傷を治す事はできるんですか? 」

「可能じゃが……危険が大きいぞ」



 治療するという事は、即ち、獣を一時的に解き放つ事と同じだ、もしもその際に襲われるとこちらが危険を被る事になる。



 他の動物と違って、コイツは体も大きく、危険度が高いので逃げ腰になっているのだろう。



「なあ、今から外に出して治療をしてやるから暴れないでくれるって約束できるか? できるなら出してやるんだけど……」

『なんでだろう……お前の言葉……信じられる……分かった……動かない……暴れない』

「大丈夫、暴れないってさ」

「会話ができてるのか……信じられん」

「エレナは一応外に出ておいてくれるか? 万が一の事もあってはいけないし」

「分かった……気をつけてね」



 何故だろう、不思議と危険を感じないのだ。前はあれだけ命の危険を感じていたのに……変だな。



 店主を壁に下がらせてから、渡された鍵で檻の錠を外す。

 すると中からのそのそと、巨躯を動かして山狼の子供は出てきて伸びをした。



「傷口を見てやるから動くなよ絶対」

『分かってる……頼む』

「爺さん、早く診てやってくれ」

「お、おう」



 俺が山狼の正面に立ち宥めて、その間に店主が足の状態を確認すると、やはり足の根元の見え辛い所に猟師の罠の時に着いたのか、鉄片が刺さっていた。



 手際の良い治療が進み、あっという間に傷口は縫合されて治療は済んだ。



「よし、これで処置は終わりだ」

「だってさ、良かったな。檻に戻りな」

『分かった……ありがとう……』



 余程怪我が治療されて良かったのか、何事もなく山狼は檻の中へと戻っていった。店主は額に大粒の汗をかいてホッとしている。外で見ていたエレナも、胸を撫で下して中へと入ってくる。



「コイツってこれからどうなるんですか? 」

「この子は恐らく富豪の元でペットとして飼われる事になるじゃろうな……」

「そうですか……なら、このお金でコイツを山へ返してやってくれませんか? 」

「本気か? これだけあれば十分だが良いのか? 」



 エレナも仰天して目を丸くしているが、俺のお金はアムールで稼いだお金だし、多少使ってしまった残りだったので別に良かった。



「何だか放って置けないんですよ……」

「山狼も言う事を聞いておったし、お主はもしかしたらモンスターテイマーの資質でもあるのかもしれんな……」

「何ですかそれ? 」

「モンスターテイマーは、ある一定のモンスターと心を通わせられる能力者の事じゃよ」

「それってあの盗賊と同じ……」



 待て待て、俺の能力は白狼と同じ力を得られるだけのものではなかったのか? だとすると、俺の能力は一体……。



 謎が深まる中、老人は俺に一つのガラスケースを差し出した。中身はスモークガラスに覆われていて見る事はできない。ずっしりと重く、中からドクン、ドクンと鼓動のような音がリズム良く響く。



「これは? 」

「なに、ちょっとしたお礼じゃよ。山狼の分のお金を払ってくれたのもあるしの」

「いいんですか? てか、中身が気になる……」

「まあまあ、中は心配せんでも明日の内に分かる事じゃろうて、ホッホッホ」

「中身についてはノーコメントなんですか……」

「分からない方が楽しみが深まるってものじゃよ」



 老人から渡された謎の物体を持って店から出る時、奥の方から声が聞こえた気がした。

 いや、俺には分かる。この声はきっと山狼のものだ。



『ありがとう……』


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