支給
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仲間を一人探し出す。確かにそれは自分でも薄々感じていたことで、シドさんの助言で確信に変わった。
俺達には新しい仲間がいる。
元はと言えばこの旅ではギルドを頼る事は禁止されており、その点は理解していたつもりだった。普通の旅ならば護衛は俺とチビだけで事足りるし、叔父さん達もそう考えて送り出した筈だ。
だが、現状を鑑みればそうもいかない。敵は姿しか分からず、いつ何処で命を狙ってくるかも分からない。一人ならば対処も出来るが、もしも仲間がいたら? 前みたいに誰か別の人間を雇って来たら? とてもじゃないが捌き切れない。俺としても常に休まず監視を続ける事は不可能だからだ。
確実に護衛を一人、最低でも一人増やしたい。
ギルドが使えないならどうやって人を探すのか。
答えは簡単だ。ギルドという組織を使わずに雇う。
やり方は如何様にでもあるが、要はギルドに関わらずに個人対個人で契約を結べば良いのだ。
抜け道というか何というか、正道ではない策。
その為、エレナ達には何とか事情を伏せつつ雇うしかない。
多い程心強いのは事実だが、シドさんは言っていた。頼れる仲間を一人だけ探せと。それは何故なのか。
外から雇う人間を信じ過ぎてはいけない。人が多ければそれだけ人目に付くし、情報の漏洩だってあるかもしれない。このエレナ達三人を守るだけならあと一人交代で護衛がいれば大丈夫だと考えての事だろう。俺も同じ考えで最低限が好ましい。
金なら潤沢にある訳だし、金に糸目を付けなければ優秀で信頼に足る人は雇う事はできる。多分エレナ達も多少の融通は聞いてくれる。次の目的地であるアリアハンでは俺の役目は人探しと情報収集がメインになるだろう。
そんな事を考えながら夜は更けていくーー
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次の日、朝早くから荷物の確認をした俺達は第七独立戦闘部隊のテントを出ようとしていた。
「もう出発するのか? 」
「マサムネか。カプリオや他の人達は? 」
「まだ寝てる。俺様は朝のトレーニングがあるから朝は早起きなんだ。時間なんてまだ日も昇ってないのにゆっくりしてけば? 」
「あまり長居するとまた訓練に付き合わされるからな」
「ふふふ、そりゃそうだ。俺様みたいなタフさが無いお前なんて直ぐに根を上げるだろうよ」
そうだな、と言いかけて背後に殺気を感じて反転した。直ぐ側に居たのは第七独立戦闘部隊の隊長にして俺に稽古を付けてくれた男だった。テントの陰に隠れて姿が見えなかった所為もあるが、殺気を感じるまではまるで察知出来ないほどの隠行術に驚かされる。
「儂の言った言葉は覚えているな? 」
「はい。やれるだけやってみます」
「守れ。大事なモノを、人を、全て。力を持つ者にはそれだけの責任がある」
「必ず……守り抜きます」
「よし、それでこそ男だ! 昨日の褒美も兼ねてこれをやる」
「何ですかこれ? 丸い銀時計? 」
手渡された物は小さな銀時計。小綺麗な新品で、表面に獅子と六枚花が形取られていた。不思議なデザインだがしっくりくる重さが気に入った。
「それは証だ」
「何のです? 」
「それは儂ら軍人が常に手放さない仲間の印よ。開けてみろ」
言われるがまま中を確認すると、中の時計は壊れているようで止まっており、見慣れぬ短い文章だけが蓋の裏に刻まれていた。
『The first and best victory is to conquer self』
「一つ目の時間が止まっている意味は時間感覚を体に刻め。見ずに感じろという意味がある。二つ目の文章については詳しい事は儂も知らん。その文章を読むことは今となっては誰にも出来んが、遥か大昔の偉人の残した言葉だそうで、我々軍人は自分を律する為に肌身離さず持っている」
もう一つのその言葉の意味はーー
シドさんが言葉を放つ前に口は動いていた。
「自分に打ち勝つことが、最も偉大な勝利である」
誇り高き軍人として、常に自らを高め続けよ。敵は外ではない。内なる自分こそが越えるべき壁であり、強固な壁を打ち破り、乗り越えた先にあるものが己にとって最大の誉れである。
「お前……なんで? 」
「……あれ? なんでだろ、言葉が勝手に」
「どこかで聞いたことでもあるのか? いや、この言語は既に廃れて今は読むことができるものは一人もいない筈だろ隊長? 」
「その筈だ。この言葉と意味だけが後世に語り継がれているのだから読める筈が無いだろうが! 」
「じゃあなんでレイは読めたんだ? 」
「分からん。だが、読めるという事は何か原因があるに違いないのだが……ま! 気にしても仕方が無い、それを見せるだけで新政府軍の軍人は多少の事は協力してくれるからとっておけ」
「良いんですか!? 結構良い物だと思うんですけど……」
「娘の友は儂の友も同じ。友を助けぬ道理はない」
シドさんはそう言って頭を掻きながら何処かにフラッと消えていった。去り際の後ろ姿に会釈すると見えているのかいないのか、向こう見ずで手を振ってくれていた。
受け取った銀時計を大切に鞄の一番奥に詰め込むと少しだけ重さが増した気がする。さあ、次の目的地へと歩を進めよう。