稽古
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「取り敢えず、今の所決まったのは、次の街には明日行くことと、そこでお金の一部を使って旅の調度品を揃えること、最後に、課せられたノルマをこなすの三つでいいかな? 」
「異議なーし! 」
「……今日は色々あって疲れたから、早く休みたいです……」
「そうですね、荷物も全て捌けましたし特に積荷もないならゆっくりしましょうか」
「なら、今から女性隊員用のテントに行きませんか? そこなら同性も多いですし、むさ苦しくありませんよ? お風呂もあります」
「そうだよー、お姉さん達も一緒に行こー」
「本当それ、このおっさん達と居ると息が詰まるもん」
「だよねー、息が詰まるし加齢臭はするしー」
「本当それ、マサムネは訓練し過ぎで汗臭いし、ハイネは真面目臭いし、特に隊長とか体からオヤジエキスが染み出してて、その癖直ぐに抱き締めてくるしー」
「嫌がっても止めないし、本人は気にしてない所とか……」
「「駄目駄目だよねーwww」」
「おまっ! 俺はまだ十代だぞ⁉︎ それに隊長は兎も角……この部隊は比較的若手で構成されてるの忘れたのか! それに真面目臭いって何だ⁉︎ 」
「儂……そんなに臭うか? ……ふぅん、自分で嗅いでも全然分かりゃせんわい‼︎ ワハハハハ‼︎ 」
「俺様は何時でも最強を目指してるから、訓練終わりで汗臭いのは当たり前だろうが‼︎ ワハハハハハ‼︎ 」
「ば、馬鹿だ……貶されているのに気付いてない」
何となくだけど、シドさんとマサムネは似ている。剛毅な所とか細かい事を一々気にしない度量の深さとか。唯一違うのは、シドさんは大事な部分では抜け目なく物事を見ているという点だ。
まあ……パンイチ二人で豪快に笑ってられる馬鹿さ加減は親子そっくりである。
「まっ、俺様の漢力が高過ぎるばかりに、むさ苦しくて悪かったな! 」
「いや……別に褒めてませんけど」
「な、何ぃ⁉︎ 」
「馬鹿は放っておいて早く行きましょう。他の隊員達もきっと興味津々な筈ですから楽しいですよ」
「そうだぞ、儂も話は通してあるからゆっくりしてきなさい。今日はよく働いたから疲れているだろうから」
「じゃあ……行こっか! 」
「あ……レイはどうする? 流石に一緒にって訳には行かないけど……」
「俺は、マサムネ達といるよ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
そっか、と言うとエレナ達はテントから必要な荷物を持ち出してカプリオに連れられて行った。テント内に残っているのは男と男と男と男。何ともまあ、むさ苦しく暑苦しいのだろう。
だが、これでいい。皆んなに聞かれたくない話をするには今をおいて他ないのだから。
「シドさん……少しお話し良いですか? 」
「分かってる。だが、その前に少し体でも動かさんか? 最近体が鈍って仕方ない。付き合え」
「つ、付き合えって言われても……俺がですか? 」
「ああそうだ。付き合ったらお前の求めている黒衣の男について少しだけ助言をやろう」
「な、何故それを⁉︎ 」
「良いから黙って付いてこい‼︎ マサムネ‼︎ ハイネ‼︎お前らも来るか? 」
「是非ご指導お願い致します‼︎ 」
「やってやんよ! 次は一撃入れるかんな‼︎ 」
「あ、そうそう、マサムネは見るだけにしとけ」
「ええー! 何でだよ! 俺様もう動けるぞ! 」
「貴様は既に今日やっただろうが! 肋骨辺りにヒビも入ってるだろうから大人しく見学だ。分かったか」
「……はーい」
「よし、じゃあ裏にある訓練場に行くか」
言うと、シドさんは尻を掻きながら悠然とテントから出て行き、遅れて俺も剣を背に提げて後を追った。
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「広い野っ原に男が四人。女の子が居らんのがちと殺風景だな」
「そんな事言ってるとまたチノちゃんにチクられますよ? 」
「うっさいわ! お前は黙ってそこで見とれ! 」
「うーい」
「ルールは無用で制限時間は……そうだな、十分でどうだ? 」
「構いませんよ? 隊長の胸を借りるつもりで行きますから覚悟してください」
ニヤリと笑いながらハイネは武器を取る。形がとても細くて剣の柄に針みたいな刀身が嵌っている武器だ。武器を取り出す雰囲気だけでも強い事が分かる。
「言うようになったじゃねーか。儂に傷一つ付けられたら大したもんだ。坊主、ハイネと一緒で良いからかかって来い。一撃入れられたら何でも答えてやる」
「シドさんは何も使わないんですか? その……危ないと思うんですけど」
「儂か? んな物要らんよ。使ったらお前らが死んでしまうからな、ガッハッハ‼︎ 」
「大丈夫。悪い意味であの人には多分攻撃は早々当てられないから。思い切りやらないとアイツみたいになる」
「は、はい……」
パンツ一枚の大男に一撃入れるだけでいいのか? これが訓練? 案外すぐ終わりそうなんだけど。
歴戦の猛者と言えど無防備な状態で二人掛かりで来られたら手傷の一つ位は与えられる。そう確信していた俺は剣を握りしめ第七独立戦闘部隊の隊長に斬りかかった。