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完売

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「これで……完売です‼︎ ありがとうございました‼︎ 」

「またのご来店をお待ちしております‼︎ 」

「ええー⁉︎ もう終わり⁉︎ 」

「そりゃねーよ! まだ商品無いのか⁉︎ こっちはまだ買えてない物も沢山あるんだ‼︎ 」

「本当の本当に完売なんです‼︎ 売りたいのは山々ですが無いものは売れませんので……」




 店の外に完売印の看板を置き、仕事が終了したことをお客全員に大きな声で伝えた。その場の反響は凄まじく、お客の中からはまだ買いたいと訴える声も多く、後ろ髪を引かれる思いで無理だということを伝えた。




 殆どの客はそれで納得してくれたのだが、一部の人はまだあるんじゃないのか、自分達の分を少しでも良いから分けて欲しいと納得していない様子で、見兼ねたシドさんが一喝するとそれもピタリと止んだ。




 言葉通りにすっからかん。あれだけ山程持ってきた商品が今は見る影も無く、物の一時間も経たずに完売していたことに驚きを隠せない。




 集中すると人間は時間を早く感じてしまうもので、疲れを感じる前に商品は売り抜けていた。ボロ雑巾のマサムネとカプリオも良く手伝ってくれたこともあり、店もスムーズに回った。




 全員で売り上げ確認をしたところ、金銭袋からは金貨、銀貨、銅貨が山の様に積み重なっていて、数える作業の方がかえって疲労が溜まる。だが、これだけの売り上げを目に見える形で見ているとそんな疲れも吹き飛ぶのだ。




「ふぁ〜‼︎ こんなにお金がこんなに‼︎ ミハル、まだこんな大金見たことなかったのでテンションが上がりますね‼︎ 今ならなんでも買えそう……欲しかったアレとかアレとかアレとか‼︎ 」

「無駄遣いは一銭たりとも出来ないからね‼︎ 金銭管理は私達年上組がする事にします」

「そ、そんな〜‼︎ ちょ、ちょっとだけ‼︎ ほんのちょっとだけですから後生です‼︎ 欲しい物があるんですよ‼︎ 」

「駄目駄目‼︎ お金の管理は任せてください」

「すこーしも駄目なんですか? 」




 ニッコリ笑顔で頷く二人に、ガックシと肩を落とす一人。お金に関する管理はしっかり者の二人がしてくれる方が心強い。




 ミハルはブー垂れて売り上げを手作り帳簿に書き始め、小言で欲しかった物の名前を何度も何度もうわ言の様に呟いている。あまり話しかけない方がいい。





 結局、金貨三十、銀貨四十、銅貨五十の丁度良い売り上げで、これだけの金銭があれば贅沢さえしなければ数ヶ月は宿屋に泊まれる。それだけ売れに売れた。




 そして、爆発的な売り上げの影にはシドさんの価格上昇の指示があったからで、契約書に書いてあるまま売り上げの一割を袋に詰めて渡した。





「確かに。しっかし、物は試しでやってみるもんだ! 結果的には万々歳、良かったな」

「は、はい……でも、この後のが……」




 言いながら現実問題から目を背けようとするエレナとポーシャ。乗り気なミハルは良いとして、二人は売れ行きからして嬉しいのに、この後の件が尾を引いて微妙な表情を見せていた。




「なーに、彼奴らなんて少し声でも掛けてやれば喜んで飛び上がるウブな奴らだから、直ぐに終わるぞ。ほれ、三人ともこっちに来なさい」

「ちょ、ちょっと! まだ心の準備がっ……」

「準備なんかいらん‼︎ その場のノリで切り抜けろ」

「キャッ⁉︎ 」

「坊主! 残りは任せるぞ‼︎ 」




 何だが分からない内に三人は拉致され、俺はその場に取り残された。二人は驚き、断末魔のような声を上げながら抱えて連れ去られてしまう。




 あの筋肉の前では逃げるだけ無駄というもの。片手ずつにヒョイと持ち上げられてそのまま肩に担がれて行った。ミハルは端でブツブツモードだったが、何とか前もって言っていたイケメンワンチャンの可能性に掛けているのか、フラつきながらその後を追っていった。






 取り敢えず……片付けだけでも終わらせるか。





 帰ってくる三人の負担を少しでも減らす為、俺は一人で黙々と片付けを進めるのだった。












 ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎





「おう、今戻ったぞ‼︎ 」

「お、おかえりなさい」

「は、恥ずかしかったよぅ……」

「あんなに盛り上がった所に放り込まれるとは……」

「た、大変だったんだな……」

「た〜だ〜い〜ま〜です〜……」

「うおっ⁉︎ どうしたんだミハル‼︎ 」




 やつれ顏で戻ってきた二人を迎え入れ、残ったミハルの帰りを待つ。すると、何故か二人よりも乗り気だった筈のミハルは行きよりも更に暗い表情をして帰ってきた。




 自称で天真爛漫を言うほどの女の子がここまで落ち込むなんて……何か言われたのだろうか。それとなくでも聞いてみよう。




「……何かあったのか? 」

「うう……お、お兄さんんんんんん‼︎ 聞いてくださいよ‼︎ アイツったら酷いんです‼︎ 」




 軽い気持ちで聞いた俺が馬鹿だった。





 俺の迂闊な一言が、優しさが、胸の内に溜まっていたミハルの心の堰を切ったように、鬱憤込みの愚痴が火蓋を切った瞬間だったのだ。


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