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バカ売れ

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「す、すみません! ここからはお一人様五点までにさせていただきます‼︎ 」

「お会計、銀貨八枚になります‼︎ はい、丁度いただきました! ありがとうございます‼︎ 」

「お兄さん! 裏から牛革とミルク四ダース出しておいてください‼︎ 」

「あいよ! 置き場所は同じ所でいいな⁉︎ 」

「大丈夫です! 終わったら金銭整理お願いします! もう釣り銭が少ないんで‼︎ 」

「レイ! 手が空いたら袋詰め手伝って! 」

「了解! こっちが終わってから行く! 」

「こっちにも人で回してください! 」

「分かった‼︎ バックヤードに抜けます‼︎ 」





 予想通り、てんやわんやの店内に俺達四人は忙殺されていた。目につくところに客、客、客。先程の準備が可愛く思えるほどの激務で皆、目を回しながら店を回している。




 確かに死ぬほど忙しい。だが、それでも充実感はある。




 仕事があるというのは良いことだ。何もしないでいるよりよっぽど有意義で価値がある。元より俺を除く三人は商家の跡取り娘だ、これだけ大、大、大盛況な現状を心の何処かで楽しんでいる様子まで感じた。





 荷物を積んでいる裏手に急ぎ、そこから必要な物を必要なだけ取り出しながらそんな事を思っていると、誰かが俺の後ろに立っていた。




「大盛況だな」

「お前……もう怪我はいいのか? さっきまでフラフラだったくせに」

「ああ、飯食って少し休んだら治ったぜ‼︎ 」

「んなアホな……」

「ビラも配り終えたし俺様も店を手伝ってやる。感謝するがいいフハハハハ! 」

「ぐっ……ありがとよ」

「やけに素直じゃんか」

「……今は猫の手も借りたい位忙しいからな……正直助かった」




 四人では回ることは回るが、それでもいつ何処でミスが起きて綻びが広がるか分かったものではない。出来るだけ大人数で捌く方が時短にもなる。




「じゃあ、マサムネは俺がここに張り紙を出しておくからそこに書いてある物をそこの積荷の中から探し出してこっちに持ってきてくれ。色々言ったけど出来るか? 」

「……余裕だぜ! 要はお使いみたいなもんだろ! 」

「ま、まあそんな感じかな? んじゃ、俺は今すぐ戻るから先にコレ、書いてあるの集めといてくれ! 」

「おうよ! 天才にこれ位の仕事がこなせない訳がない! 」




 俺に任せろと胸を叩くが、その勢いと力加減の無さは容赦なく回復していない体にダメージを与えた。




 いや、咳き込みながら親指立てられても……。

 猫の手も借りたいのだが、この脳筋に頼っても良いのだろうか。何だか仕事を間違えそうな気しかしない、そう思っていた時、現れたのは代わりの救世主。




「本当に馬鹿なんですね……怪我してるのに自分の胸を叩くとか……本当に救いようのない馬鹿なんですね……」

「お、おう……チノちゃんか……ゲホッ‼︎ 」

「あんまり無理しない方が良いですよ? 鎖骨肋骨辺りにヒビが入ってても可笑しくないのに……なんで動けるのか不思議なくらいなんですから」

「お、俺様は超人だからよ……これ位の怪我じゃ怪我した内に……ゲホッ‼︎ 入らねぇよ……」

「ふう……、レイさん、ここは私が見ますからどうぞお店に戻ってください。三人とも待ってる筈ですから」

「っ! そうだった‼︎ すまん、ここは任せる‼︎ 」




 急いで取りに来ていた荷物を抱えて表へ駆け出す。その姿が消えるのを確認するとカプリオはマサムネの後頭部を後ろから叩いた。




「い、痛え‼︎ な、何すんだチノちゃん‼︎ 」

「煩いです! 怪我人の癖にあんまりチョロチョロと動き回らないでください‼︎ 」

「え、ええ⁉︎ だ、大丈夫だってチノちゃん‼︎ 俺様は別に……」




 言いかけていた言葉を痛みが遮断し、マサムネは焦る。誤魔化そうと口笛を吹くがもう遅い。




「無理せず休んでれば良いのにワザワザ手伝いなんかして……回復が遅れたらその分隊に迷惑がかかるんです。邪魔ですから端で軽い物だけ持って運んでなさい。上官命令です、返事は‼︎ 」

「は、はい‼︎ 」



 二人は互いに反対方向の荷物を整理し始めた。片や軽い荷物をヨタヨタと片付け、片や重い荷物を訓練で鍛えた体でテキパキと作業を進める。その傍、カプリオは傷口を押さえながら仕事をする男の背中を見つめていた。





 この男は何時だって無茶をする。する理由がある。その理由をカプリオは知っている。だが止められない。




 ふーっと、また溜息が出てしまう。この男を見ていると”あの人”のことを思い出してしまう。そして苦しくて、苦しくて、無理矢理にでも忘れようとする。でも結局は忘れられない。




 あの人がいればあの男はこうも無謀を絵に描いたような生き方はしなかった筈だ。もっと別の道もあった筈だ。だがその可能性は今にしてみればゼロだった。




 ねえ、私は今どうすれば良いのかな……姉さん。

 

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