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半殺し祭り

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「パパ? 一つお願いしたいことがあるんですけど……聞いてくれますか? 」

「聞く聞く! パパは何でも聞いちゃうぞ! だからママには言わないでくれ! 」

「じゃあ……パパは勿論レイさん達に協力してくれるんですよね? 」

「あ、ああ! 勿論だとも! 」

「あ、当たり前ですけど全面的にバックアップして、人も集めてくれますよね? 」

「集める! 沢山集めるから! 」

「こ、怖えぇぇぇ‼︎ 」

「何がです? 」

「い、いえ何も! 」




 人の弱みを完全に握り、場の空気を掌握した上で交渉するとか鬼かよコイツ。そこらの商売人よりもよっぽど抜け目が無い。と、見ていて思う。




 隊長も隊長で、頼れそうな見た目に反して少し天然が強いのか、自分から墓穴を掘ってそのリカバリーにそれ以上の犠牲を払おうと構わない具合で。




 それにしてもこの狼狽えよう……よっぽど奥さんが怖いのかな……。娘のカプリオがその才覚、性格を引き継いでいるとすればなるほど、納得してしまう自分がいた。




 尻に敷かれる……尻どころかこの敷かれっぷりは最早足で踏まれていても不思議に思わないレベル。




「痛てててて、隊長は戦場では俺様を差し置いて阿保みたいに強いくせに家族には弱いんだよ」

「ま、マサムネ! お前もう歩けるのか⁉︎ 」

「お、おう……俺様は超人だからな……これぐらいどうって事ないぜ……」

「とか言って体が小刻みに震えてんじゃねーか……」




 うるせっ、言いながらマサムネは手近にあった椅子に腰掛け荒く一息をついた。




「そう言えば、何でお前はこんな所でこんな怪我してるんだ? 」

「そりゃ……修行したからに決まってんだろ……」

「誰と? 」

「筋肉ゴリラ……じゃなかった、隊長だよ。不意をついて後ろから切り掛かったつもりだったのに、看破された上に攻撃をあっさり見切られてカウンター越しに一発……んでこれだ」




 ほれ、と鳩尾辺りに添えてあった手を退けると、あろう事か人の、それもとても大きな熊ほどあろうかという位にデカイ人間の拳の跡が残っていた。




 サイズから見合わせて、そこでカプリオに頭が上がらず、奥さんに報告されない為に嘆願しまくっている大男のモノと相違ない。




「そもそも何でお前は不意をついてまで後ろから切り掛かってるんだよ。修行だろ? 」

「ああ、修行だ。隊長に『好きな時に昼夜を問わず儂を殺しに来い。それがお前に課す修行だ』って言われて以来かれこれ数年はこんな感じだし」

「こ、殺しに来いってマジかよ……? 」

「マジも大マジ。週に一度は挑んでるんだけどなぁ……手応えが全然無い。……因みにまだ一度も体に傷付けた試しが無い……怪物だぜアレは」

「傷付けた試しが無いって、お前がか? 」

「……大抵は半殺しだ。だが……次こそはイケる気がするんだ」

「うわぁ……」




 思わず声が出て引いてしまった。それは毎回半殺しにしているシドさんに対してではなく、毎回半殺しの目に遭いながらも未だに挑戦し続け、修行を行っているこの男の常軌の逸し方に対して引いていた。




 普通の人間なら手痛い目にあっただけで再び同じ事をしようと考えるものは少ない。それは脳が自ら結果を知ってしまっていて自然にブレーキがかかるからだ。俺の場合は貝の砂抜きを怠った所為で砂利が口に中に入り、それ以来、貝は暫く食べれなかったし、時間が経って貝を食べる時も常に最新の注意を払って恐る恐る食べている。




 にもかかわらず、この男、マサムネという男は半殺しという生半可じゃすまないレベルの目に遭っているのに懲りず挑み続けている。




 飽くなき強さへの探究心に思わず背筋が凍った。




「……おい、そこ。男二人で何をコソコソしておるんだ? 」

「は、はい! 何もしてないぜ隊長! 」

「嘘ばっかり言っても無駄だぞ? 儂にはお前が儂の悪口を言っている”気が”したんだがなぁ? 」

「そ、そそ、そんな事あるわけが無いじゃないか! 俺様があろう事か隊長の悪口を陰で言う訳がない! なんせ俺様は正直者だからな‼︎ 」

「……ハイ嘘ついた。これは嘘吐きへのペナルティな

「グエッ‼︎ 」




 椅子に座ったままのマサムネの額に繰り出されたのは、女性の腕の付け根程あろう太い指を引き絞って放ったデコピン。意識していない分モロに食らったマサムネは椅子ごと吹き飛んで気を失っていた。




 たかがデコピン。されどデコピン。放つ者の腕次第では一撃必殺の凶器と化すことを初めて学んだ。何だよあの指と握力。人の顔くらい簡単に握り潰せそうな腕と指でデコピンなんて危険すぎだろ。




「……ったく、初めから素直に言えばまだ楽に気を失わせてやったに……」

「ちょ、ちょっと! 幾ら何でもこれはやり過ぎでしょ! アイツはもうボロボロだったんですよ! 」

「ガハハハ‼︎ 坊主! 嘘吐きにはこれくらいで丁度いいんだよ。現にコイツはこうやって幾ら半殺しにしても明日にはケロっと生き返ってやがるから面白い」

「面白いって……」

「まあ気にするな。マサムネは何度殺されかけても立ち上がって向かって来る。それはある意味才能なんだ。本人もそれを望んでいる。だから放っといてやってくれ」

「良いんですか? そんな修行してると本当にいつ死ぬか分からない……じゃないですか」

「それでも良いと自分から言ったんだ。アレは何が何でも早く強くなりたいんだって聞かねぇから仕方無くこっちも付き合ってやってんだ。誰だって好き好んで人を滅茶苦茶にしたい訳じゃない」




 困った子供を持った親のような顔をする第七独立戦闘部隊の隊長と、その視線の先で伸びている新進気鋭のマサムネ。

 この二人の関係が俺にはよく分からない。隊長と部下。なのに二人は修行と称して殺し合いをしている。それが俺には全く理解できなかった。

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