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エピローグ

 エピローグ


 破壊神ラヴォナーダとの戦いを終えた僕たちは無事に地上へと戻ってきた。

 出口の門を潜り、抜けるような青空と黄金色の太陽を見た僕は本当に生き返ったような気持ちになる。

 生きていることの喜びを、ここまで噛み締められた時はない。

 もし、何か一つでも歯車が狂っていたら、ラヴォナーダに打ち勝つことは不可能だっただろう。

 全ては共に戦ってくれた仲間たちのおかげだ。これには感謝してもしきれない。

 ちなみにティアの遺体はアルフィーヌが綺麗に火葬してくれた。跡形もなく、消えてなくなったティアを見て、僕は天国があれば良いのにと思う。

 そして、重傷を負っていたディエゴとラルフもセフィアの回復魔法のおかげで何とか助かった。

 まあ、ティアのことは無念だとしか言いようがないが、それでも、みんなと共に生きて帰って来れたことには僕も心の底からほっとしていたのだ。

 なので、これで全てが終わったのだと思いたいところだが、残念ながらラヴォナーダ、いや、ラヴォナートはまだ死んではいない。

 ティアの体から出て来た光りの球はラヴォナートの魂だろう。おそらく、別の誰かに取り憑く気に違いない。

 クリフも魂のままでいると、いずれは消滅してしまうと言っていたからな。

 それを考えると、せっかく倒したラヴォナートの魂を取り逃がしてしまったのは痛かった。

 また、ティアのような目に遭う人間が現れるのかと思うと悔恨の念すら沸いてくる。

 あと、魔界のゲートはちゃんと封印を施すことができた。これで、モンスターが増えることもないという。

 封印ができただけでも迷宮の中に入った価値はあったと言える。この王都の人たちの役に立てたということだからな。

 とにかく、宿に戻ってきた僕たちはマティーの振る舞ってくれたご馳走をたくさん食べると、ゆっくりと休息を取る。

 ただ、僕はなかなか寝られずにベッドの上で色々と考えてしまった。

 そして、次の日になると、僕はある決心をしながら、誰にも見られないように、そっと部屋を出る。

 それから、革袋を肩にかけると、こっそりと宿を後にしようとした。すると、不意に横合いから声をかけられる。


「旅支度なんかして、どこに行くんですか、坊ちゃん?」


 建物の壁に背を預け、ニヤニヤと笑っているディエゴが僕に声をかけてきた。


「ディエゴじゃないか。どうして、こんなところに立っているんだよ?」


 僕は心臓を鷲掴みにされたような気分になる。


「坊ちゃんのことだから、ラヴォナートを完全に滅ぼすまでは屋敷には帰らないとか言い出すと思ってまして」


 ディエゴは僕の前までやって来ると、神妙な顔で僕を見た。その視線を受け、僕は極まり悪そうな顔をする。


「やっぱり、ディエゴはお見通しだったか。お前の言った通り、僕はラヴォナートを完全に滅ぼすまで旅を続ける。ティアのカタキは取りたいし」


 僕はギュッと握り拳を作る。

 ティアの最後の笑顔は目に焼き付いて離れないし、それが消えるまでは僕も死ぬ気でラヴォナートを追い続けるつもりだった。


「それだけですか?」


 ディエゴの声には揶揄するような響きがあった。


「もちろん、この世界を守りたいという気持ちもある。これ以上、ラヴォナートによる犠牲者は出したくないからな」


 だが、僕は勇者ではない。守れる人間もたかが知れているだろう。ただ、ディエゴは僕の言葉に満足したようだった。


「なら、俺も付いていきますよ。ティアのカタキを取りたいのは俺も同じですし、駄目だと言っても無駄ですからね」


 ディエゴは剣の鞘を手で叩いて笑う。ここで付いてくるなと、命令できるほど僕も無粋にはなれない。


「分かったよ。僕も一人でラヴォナートを倒せるなんて思ってないし、ディエゴが付いてきてくれるなら心強い」


 みんなを巻き込むまいと一人で旅に出ようとした自分が馬鹿みたいだ。


「そう言ってくれると、嬉しいです。こうなったら、とことん坊ちゃんの冒険に付き合いますよ」


 ディエゴは僕の胸に拳を軽く当てた。それはディエゴが僕を友として認めてくれた証のようにも思えた。


「うん」


 僕が軽快に頷くと、宿の入り口からラルフとセフィアとアルフィーヌが現れる。僕と目を合わせると、ラルフはくすぐったそうに頭を掻いた。


「おいおい、何も言わずに俺たちを置いていこうとするなんて、随分と冷たいな。俺もお前とは良い友達になれたと思っていたのに」


 ラルフは大袈裟なリアクションで言った。


「ラルフじゃないか」


 僕たちの話は聞かれていたのか。だとしたら、少し恥ずかしいな。


「そうですよ。ラヴォナートを討ち滅ぼしたいと思っているのはあなただけではないんですよ。なのに、一人で何もかも背負い込もうとするなんて」


 セフィアは説教でもするように言った。だが、その目は穏やかに笑っている。


「そうよ。あたしたちは仲間なんだから、もっと頼りなさいよ。まったく、水臭いにも程があるわね」


 アルフィーヌはやれやれと首を振って、肩を竦めた。


「みんな」


 みんなの言葉を聞き、僕の胸に熱い物が込み上げてくる。気を抜くと涙が溢れそうになった。

 ティアのカタキを取るまでは、二度と泣かないと誓ったのに。


「みんな、俺と同じように坊ちゃんに付いていきたいんですよ。どうか、その思いは汲み取ってやってください」


 ディエゴの言葉は僕の胸に深く染み渡る。

 僕としてもその気持ちは十分に理解していたはすなんだけど、僕はみんなを危険に晒したくないとか思ってしまったんだよな。

 我ながら水臭い。


「でも、危険な旅になるよ。ラヴォナートがどれほど恐ろしい奴かは分かったはずだし、次に戦ったら僕たちの命もないかもしれない」


 僕は念を押すように言った。迷宮の中で勝てたのは運が良かったに過ぎないのだ。


「だとしても、ここで逃げるつもりはない。そんなことをしたら、一生、心にしこりを残すことになるからな」


 ラルフは遙か遠くを見るような目で言葉を続ける。


「どんなに危険でも、逃げてはいけない戦いがあることは俺も理解しているつもりさ」


 ラルフの言葉には冒険者としての矜恃があった。


「私も同じです。神官長のカタキは取らなければなりませんが、それ以上にもっと多くの人をラヴォナートから守らなければ。それが聖女としての使命です」


 セフィアは胸に手を当て、薄く目を瞑りながら言った。


「あたしはご大層な理由はないけど、ラヴォナートに一泡、吹かせてやりたいと思ってるのは事実だし、付いてくわ。だから、改めて言うけど、よろしくねっ」


 アルフィーヌは本当に可愛らしく笑った。これには僕も苦笑するしかない。すると、最後にすっかり忘れていた奴が口を開いた。


「おいらはラヴォナートの魔力をある程度、感じ取ることができる。だから、奴を追いかけるって言うなら連れて行かない理由はないぜ」


 クリフはラルフの肩で、鼻を高くしながら言った。

 確かに、僕は宛てのない旅に出ようとしていたし、クリフにラヴォナートがどこに向かったのかを聞かなかったのはかなり軽率だな。


「分かったよ。そこまで言うなら、みんなでラヴォナートを倒し、この世界を救ってやろうじゃないか」


 僕の言葉に、みんなは眩しい笑みを浮かべながら頷いて見せる。

 こうして強い絆で結ばれた僕たちは世界を救う旅に出ることになったのだった。



(FIN)




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