Episode1―ニンゲンと暮らす死神―
ラウルは今日も美術室に向かって歩いていた。
―ニンゲンなんて…醜くって脆弱なニンゲンなんて大嫌い。でもボク…ニンゲンに教わった『絵』にはまっちゃったな―
整いすぎた顔を軽くしかめ、ラウルはドアを開けた。…途端に彼女を安心感が襲う。―油絵の具のニオイだ…ボクの大好きなニオイ。…やだな、ボクってばニンゲンみたい―
「ティム、今日はナニ描いてるの?」
ラウルが後ろから話し掛けると、少し哀しげな蒼い瞳をした青年が振り向く。
「ラウル、来てくれたんだね。見て。これは人間の心の中」
ティムが指し示す、描きかけの絵。
極彩色の絵は、ラウルに疑問を抱かせた。
「キミも…ニンゲン、でしょ?」
ラウルは人間ではなかった。
「あははは…ラウル、変なこと言うよね。僕も君も人間だよ」
―ううん、違うよ。ティム。ボクはね、死神なんだ。びっくりでしょ?―
「ボクもニンゲン、か…」ラウルはキャンパスを手にとった。
―ボクだけのセカイが創れる。…だからボクは絵が好きなんだな、きっと―
絵の具を広げていく。
澄んだブルーと綺麗な純白で、ラウルは湖を描く。
―ボクが生まれた場所、生命の湖…ボクの存在を認める、大きな存在―
ラウルが絵を描く間、ティムは黙ってその後ろ姿を見つめていた。
決してラウルの……若き死神の邪魔なんて、しなかった。