兄妹&姉弟モノ。(仮) 6
中庭に来ると、秋を迎えようとしているかのような、涼しげな風が頬を撫でた。
兄さんは、私を壊れ物のようにゆっくりと降ろした。
「・・・・・・」
「・・・・・・兄さん、どうしたの?なんか、いつもと違う気がする」
沈黙を破ったのは私だった。
思ったことを口にしただけ。
兄さんは少し驚いた顔をして、すぐにいつものように笑った。
「・・・そうか。やっぱり、君は鋭いね。だけど・・・鈍い」
私の頬をそっと撫でながら、兄さんは言った。
「訳わかんないよ、兄さん」
「その呼び方も・・・僕が苦しくなる理由の一つなのにね」
そして、一瞬顔を歪ませて、私を抱き寄せた。
「混乱させてしまうかもしれないけれど、僕は言うよ」
「・・・君が好きだ。誰よりも、何よりも愛しい。兄妹愛なんかじゃない。恋愛感情だよ。誰にも渡したくない。僕以外を見て欲しくもない。・・・黎夜にもね」
兄さんの言葉は、耳に響いてくるようだった。
いつもと違うのは、これを言おうとしていたから・・・?
―――何で。
何で、こんなにも、兄さんの言葉が聞き逃せないのだろう。
だけど、意味は理解できなかった。
「言わないつもりだったけど―――さっき、黎夜にキス、されてたよね」
「あ、あれはフリで―――」
「嘘。僕を見くびらないでよ。黎夜がどんな気持ちなのかなんて、少なくとも君よりは分かる」
何、これ―――
心臓が、痛い。
息が、苦しい。
動け、ない。
「僕は―――ただ、君が好きなんだ。君が僕を悲しみから救ってくれた時から。ずっと、好きだったんだ」
兄さん、何言ってるのか、分かんないよ。
"好き"って何―――?
"愛しい"って何―――?
分かんない。
分かんないよ。
「訳分かんない!!!!」
私は、叫んだ。
兄さんを突き放して。
「何、恋愛感情って―――好きって、何!?いっつも言ってた"好き"と、今言った"好き"は同じなの?!」
何だよ、これ。
本当、訳分かんない。
頭が、痛い。
頭が、割れそうだ。
「翡翠・・・泣かないで」
―――泣く?
あれ、泣いてたんだ。
涙・・・流れてる。
何で?
「何、これ・・・」
自分の気持ちなのに、自分の心なのに。
ワケガ―――ワカラナイ。
「やっぱり、混乱させてしまったね」
寂しそうな顔で兄さんは言った。
いやだ。
そんな顔、しないで。
「―――翡翠」
それでもなお、兄さんは私に近づいてきた。
私は反射的に、拒絶した。
・・・拒絶、した―――?
―――そうか。
そういうことか。
「翡翠・・・」
「兄さん」
うつむいたまま、私は言った。
「私、さっき泣いてた理由が分かった。―――いやだったんだ。今の関係が壊れるのが。兄さんがいて、黎夜がいて、二人はいつも仲悪そうで、でも私のいうことは聞いてくれて。―――私のことを、好いてくれていて。どっちも大切で、かけがえのないもので―――私は、それを手放したくないんだ」
きっと、そういうこと。
兄さんは寂しそうだったけど、それでも、私の話を頷きながら聞いてくれた。
でも、私の言いたいことはすべて分かっているんだろう。
だって、"兄さん"だから。
「―――待って」