表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モフモフ禁止令?!〜忠実な大型犬と腹黒な黒猫に挟まれて〜  作者: 猫塚ルイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第6話

「……アリア様。もう、『お預け』は限界です」


地を這うような、低く、湿り気を帯びた声。


それは、いつも恭しく私の名を呼び


一歩引いて控えていた執事のそれではない。


獲物の喉笛を狙い、静かに、しかし確実に追い詰めた猛獣が漏らす唸りそのものだった。


「ひゃっ……!」


短い悲鳴が、雨音にかき消される。


気づけば、私は背後の冷たい石壁に背を押し付けられていた。


石造りの避難小屋の、ざらついた壁の感触がドレス越しに伝わる。


逃げ場を塞ぐように、右側からは黄金の髪を激しく乱し、肩を荒く上下させるルカが。


左側からは、いつの間にか眼鏡を外し、深い夜の闇を溶かし込んだような瞳を細めるセシルが。


二人から放たれる圧倒的な熱量と、獣人特有の濃密な匂いが


狭く酸素の薄い小屋の中に充満して、私の思考を麻痺させていく。


「ル、ルカ……セシル……? 落ち着いて。喧嘩はやめてって、そう言ったじゃない……っ」


震える声で制止を試みるが、二人の瞳に宿る熱は少しも引かない。


「……喧嘩? いえ、これは生存競争ですよ、アリア様」


セシルが私の耳元に顔を寄せ、熱い吐息を直接流し込む。


その声は、心臓の奥底まで直接響くほどに甘く、そして氷のように冷徹だ。


「執事としてあなたを支える。そんな綺麗な建前だけでは、もう足りないのです」


「……一人の男として、あなたのすべてを奪い、独占したい。そう思わぬ日は、一日たりともなかった」


「そうですよ!僕は、アリア様の忠実な犬でいたい。……でも、それ以上に、あなたの『特別』になりたいんだから」


ルカが、私の右手を強引に掴み取った。


手袋越しでも分かるほど、彼の掌は驚くほど熱く、抑えきれない衝動で微かに震えている。


「執事じゃなくて、一人の男として見てほしい。…僕かセシル、どっちかを選んでくださいっ!」


「えっ……!?そっそんな、選ぶなんて…無理よ…!」


私は困惑し、二人を交互に見つめた。


幼い頃から、ずっと一緒に歩んできた。


太陽のような笑顔で私を元気づけてくれるルカも


静かな知性と献身で私を支えてくれるセシルも


私にとっては魂の一部のような、かけがえのない存在。


「わ、私は…二人とも、同じくらい大好きなのよ……?」


震える唇で、私がようやく絞り出した答え。


しかし、それは火に油を注ぐ結果となった。


二人の瞳が、一瞬で絶望とも怒りともつかない、暗い色に沈んでいく。


「「……同じくらい、ですか」」


完璧に重なった声。その響きに含まれた「不服」の重圧に、私は背筋を激しく震わせた。


「アリア様、それは一番ずるい答えです」


セシルが、私の左手を絡め取るように、指の一本一本を深く握りしめた。


「『どっちも』なんて、そんな強欲な愛…なら、身体でわからせて差し上げるしかありませんね。あなたが、どちらの熱に一番に絆されるのか。どちらを、より深く求めてしまうのかを」


「アリア様…ごめんなさい。でも、もう止まれないんです…っ」


ルカが大きな手で、私の頬を慈しむように、けれど逃がさない決意を込めて包み込む。


そのまま、瞬きをする隙さえ与えず――。


「んっ……!?」


右の頬に、ルカの荒っぽくも切実な、湿った唇が押し当てられる。


左の頬には、セシルのひんやりとした、けれど内側に狂おしい情熱を孕んだ唇が落とされる。


「……あ……」


ダメ。ダメよ、こんなこと。


彼らは私の誇り高き執事。私は彼らの主人。


ましてや今は、私が自ら言い出した「禁止令」の真っ最中で……。


けれど。


左右の頬からダイレクトに伝わる二人の激しい鼓動と、狂おしいほどの独占欲。


拘束された両手から流れ込む、逃げ場のない熱が、雨で冷え切っていた私の体を芯から溶かしていく。


頭の芯がふわふわと痺れ、懸命に抵抗しようとする理性が


とろとろとした極上の快感に塗り潰されていく。


「……はぁ……ぁ…っ」


思わず口から漏れたのは、拒絶ではなく、甘い喘ぎを含んだ吐息だった。


翻弄され、かき乱される快楽。


ダメだとわかっているのに、二人の獣が私に捧げる「猛毒」のような愛が、たまらなく心地よくて。


「……アリア様。声が、甘くなりましたね。私の名を呼ぶ準備はできていますか?」


セシルが、私の耳たぶを薄い唇で愛惜を込めて食む。


「……アリア様。もっと、僕を…僕だけを見て…」


ルカが、私の首筋に鼻先を埋めて、獣の仕草で深く私の香りを吸い込む。


「……っ、ふぅ……二人、とも……」


私は、自分を壁に追い詰めたはずの二人の背中に


いつの間にか震える手を伸ばしかけていた。


執事としての「忠実な仮面」をかなぐり捨てた彼らの


本当の「野生」が、私を甘美な深い底へと引きずり込んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ