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モフモフ禁止令?!〜忠実な大型犬と腹黒な黒猫に挟まれて〜  作者: 猫塚ルイ


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10/10

第10話

あの「雨宿りの密室」から、数日が経過した。


結局、公爵令嬢としての威厳を賭けて私が発動した『モフモフ禁止令』は


二人の執事たちの理性を焼き切るという暴走を招き、跡形もなく粉砕されてしまった。


今日の午後は、柔らかな春の日差しが心地よく注ぐサンルームでのお茶の時間。


けれど、そこにかつてのような「平穏」という二文字は存在しない。


私の左右には、以前にも増して執着心を隠さなくなった二人の獣人が


影のように、鎖のようにぴったりと張り付いている。


「アリア様、あーんしてください。このベリーのタルト、僕が今朝一番に生地を練って焼き上げた自信作なんです!甘酸っぱくて、アリア様にぴったりだと思って!」


右側では、ルカが黄金の尻尾をちぎれんばかりに左右に振り


風を切る音を立てながらフォークを差し出してくる。


その瞳はキラキラと輝き、褒め言葉を待つ大型犬そのものだ。


「……ルカ、甘やかしすぎです。アリア様、タルトの前にこちらの冷製スープを。喉越しが良く、あなたの今日の肌のコンディションに配慮して、秘伝のハーブを調合いたしました」


左側では、セシルが至極涼しい顔をしながら


銀のスプーンを差し出す。眼鏡の奥の瞳は


私の一挙手一投足を、毛穴の一つまで観察するかのように鋭く、熱い。


私は、左右から交互に差し出される、重すぎるほどの「愛」を必死に嚥下しながら


ふと、ずっと胸の奥に引っかかっていた疑問を口にした。


「……ねえ、二人とも。結局のところ、私に一番『懐いている』のは、どっちなの?」


その瞬間


ピキィィィン、と空気が物理的な音を立てて凍りついた。


「……アリア様。それは、あまりに愚問ですね」


「私ほど、あなたの分刻みのスケジュールから健康状態、そして誰にも言えない『秘密』までを完璧に把握し、管理している者が他にいるとお思いですか?」


セシルが眼鏡のブリッジを指先でクイと押し上げ、瞳の奥に冷徹な、けれど情熱的な火を灯す。


「何言ってるんだよセシル! 僕の方が、アリア様と一緒に野を駆け、共に笑い、どんな外敵からも命懸けで守り抜いてきたんだ!」


「懐いてる度合い……つまりアリア様への忠誠と愛情なら、僕が世界一に決まってる!」


ルカも一歩も引かず、唸り声を上げながら、鋭い牙を微かに覗かせてセシルを睨みつける。


一触即発。またあの、避難小屋での「生存競争」が再演されそうな空気に私は小さく溜息をついた。


「……はあ。やっぱり、こうなるのね」


私は呆れ半分、愛しさ半分で、左右へとそっと手を伸ばした。


まずは、右側にいるルカの、黄金に輝くふわふわの耳。


次に、左側にいるセシルの、艶やかでひんやりとした黒猫の耳。


「ひゃうんっ!? あ、アリア様…ぁ……」


「……っ、アリア、様……不意打ちは、卑怯です…」


同時に「モフり」を開始した瞬間


二人はそれまでの殺気などどこへやら、一瞬で骨抜きになったように私の膝元へと崩れ落ちた。


一週間の禁止令という名の渇きを経験した彼らにとって


私の指先の感触は何よりの猛毒であり、聖薬なのだ。


指が毛並みに沈み込むたび


彼らは狂喜と安らぎが混じり合った、とろけるような熱い吐息を漏らす。


「……もう、喧嘩はダメよ? 私は、ルカの太陽のような明るい忠誠心も、セシルの静謐で深い独占欲も、両方ないと困るんだから」


私が母性にも似た慈しみを込めて微笑むと、二人は一瞬だけ顔を見合わせ


それから奪い合うように私の手の甲に同時に誓いのキスを落とした。


「……わかりました。アリア様がそう望むのであれば、この野蛮な駄犬とも『一時的に』手を取り合いましょう。あくまで、あなたを満足させるためだけに」


「えへへ、アリア様が喜んでくれるなら、僕、セシルとも仲良くできます! …たぶん、一分くらいなら!」


……たぶん、という言葉通り


彼らの視線は相変わらずパチパチと火花を散らしている。


それでも、私の左右を陣取って離さない二人の重みと温もりは、何よりも心地よく私を包んでくれる。


「アリア様。今夜の寝支度は、我々二人で担当させていただきますね。一秒たりとも、あなたを寂しくさせはしません」


「そうですよ! 僕たちが、最高に気持ちよく、幸せにして差し上げますから。覚悟しておいてくださいね!」


「えっ……二人同時に!?それはちょっと、私の体力が持たないのだけど……っ」


私のささやかな抗議など、二人の完璧に組み上げられた「愛の包囲網」には届かない。


これからも、私の平穏な令嬢ライフは彼らによって壊され続け


そして、誰よりも甘く、狂おしく満たされ続けるのだろう。


『モフモフ禁止令』。


それは、私と二人の執事が、単なる主従を超えた 


「歪で、けれど誰よりも幸せな絆」を自覚するためのちょっとしたスパイスに過ぎなかったのだから。

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