つばめの詰まり貝
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
よし、よし、よし……ふう、どうにかタンスへ詰め込めた。
いやあ、なんだか空いているスペースがあるとさ、そこへものを詰めたくなることって、ない? こう、ぎっしり詰まっていることの安心感を覚えるんだよねえ。
――え? スカスカのほうが身も心も楽でいい?
うん、使うものがきっちり決まっているなら、それもいいかもね。断捨離の精神てやつ?
求められるものを選び、余計なものはそばに置かない。そばになければ、そこへ神経を払う必要がなくなり、力を集めやすくなる。分散したままだったら、達成できなかったこともできるかもしれないね。
でも大は小を兼ねるという言葉があるなら、多は寡をまかなうことが可能だ。足りないと分かってから補充するのは難しいが、足りているものを分けることは、いとやすい。
ものをたっぷり用意しておくことの大事さを伝えんとする話は、昔からちらほらある。最近、わたしの耳にした話なのだが聞いてみないか?
つばめの子安貝の話は、君も知っているだろう?
あのかぐや姫に登場した宝物のひとつで、タカラガイの別名でもある。
女性の安産を祈願するものとして、かつては伝説に語られる存在ではあったが、近年では本当につばめが貝殻を巣へ持ち帰っている事例が報告されている。
理由はまだ定かではないようで、ヒナのカルシウムの摂取のためだとか、甲殻を持つ生き物をヒナの餌とするときにすりつぶして使うのだとかいわれているようだ。
しかし、それらは育ち盛りのヒナを抱えた巣でこそ考えられる話。すでにヒナがいなくなった後の巣でも見つかるとなったら、どうだろうか?
わたしの友達の家は、ほぼ毎年のようにつばめが巣を作っていくという。
その真下の地面には、ときおりヒナが取りこぼしたと思しきエサたちの断片があったりして、ちょくちょく掃除をしているそうな。
ヒナたちが育っている最中は、少々さわがしい気配がするものの、巣立ってしまうと巣はそのまま残される。来年も再利用するかもしれないし、そもそもつばめが巣を作る家は幸運が運び込まれる、という言い伝えもあった。
そのため、掃除くらいはするものの、巣は残しておくのが通例になっていたとか。
しかし、その年の巣は違った。
友達いわく、巣が空っぽになってからしばしば、真下に小さな貝らしきものが転がるようになったのだとか。
日によって1つから4つあたりまで。それぞれがおおよそ親指に乗っかるくらいというささやかな大きさだが、確かにうずをまいているのが分かったという。
――感触は陶器のそれに近い……けれども、この形はあきらかに貝がら。
そう思っている間に、またひとつ。ぽとんと、頭上から新たな貝が目の前に降ってくる。
もしや、と友達は脚立を家の外にある用具入れの小屋からとってきて、巣の隣へ届くように設置。上って確かめてみたようだ。
すると、巣の中には同じような貝たちがぎっちりと詰まっていたという。
見えているだけで20個はくだらず、巣の底まで同じ通りであったならば、相当な数になるでしょう。
かの竹取物語で石上麻呂が求めたような子安貝とは似て非なるものだろう。あれは親鳥がヒナを産む際に、同時に現れるとされる希少なものだ。目にしているこれは、あるいは子安貝かもしれないが、伝説にあるようなものと異なる。
しかし、それがどうしてこうも空っぽになった巣へ集められているのだろう?
首をかしげる友達の前で、またひとつ貝が巣からこぼれ落ちていく。
単純にあふれて、落ちてしまったのではない。巣のふちまでは幾分かゆとりがあった。
巣の山自体が、かすかに揺れ動いたためだ。もぞもぞとおしくらまんじゅうをするように動いた連中が、外側にいた貝たちのひとつを振り落としていったにすぎない。
――中に、何かいる?
つい、友達は指を伸ばし、その詰まった貝たちをかき分けていこうとしたんだ。
間違いだった。
数ミリほど指を潜り込ませたところで、友達はその指先をがっちりと何かにつかまれ、引き込まれそうになったという。
痛みが一緒に食い込んでくる。牙か爪を立てられたと、友達が直感できるほどだったらしく、危うく体勢を崩しそうになりながらも強引に指を引き抜く。そのすき間を埋めんとするように、かき分けた貝たちがどどっとなだれ込んでいった。
想像した通りに、指先は血まみれになっている。それも血を拭ってみると、突っ込んだ指の中ほどまで、数十本の針を刺されたかのような細かい穴がわずかな等間隔を開けながら並んでいたのだとか。
ああでもしないと、自分の指を傷つけたヤツを封しておけないのだ。
察した友達は、それ以降かの巣はいじっていない。巣そのものは数年間、つばめたちが全く寄ることなく、その後、戻ってきたときには、貝の姿はどこにもなかったとか。




