表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

逃げ足(シスキの画と共に)

〈冬の夢月は逃げたか二度寢する 涙次〉



【ⅰ】


アレキサンデル・シスキはウクライナの画家である。喘息の發作で若くして亡くなつた。彼は本質的には修道院でイコンを描く、まあアウトサイダー・アーティストと云つていゝ繪描きであつた。* 怪盗もぐら國王が盗んで失敗した「呪ひのイコン」で世に知られてゐる(牧野の體内から飛び出た「龍」が、その「呪ひのイコン」は齧み砕いてしまつたのだが)シスキ。カンテラの知人で富安數央(とみやす・かずひろ)と云ふ、某美術館勤務のキュレーターがゐて、富安はアルバイトとして私設画廊のアドヴァイザリー・スタッフを方々でしてをり、そのアルバイトの方でも彼は髙名だつた。



* 前シリーズ第27話參照。



【ⅱ】


この度、澁谷の画廊・ギャラリーカバシマと云ふ會場で、富安監修の元、シスキの回顧展が開かれる事となつた。カンテラ、じろさん、そしてもぐら國王が富安に招かれた。國王は、「『呪ひのイコン』を盗んだ男」としての招待である。富安にはさう云ふ茶目つ氣があつたのだ。カンテラはぴゆうちやんをギャラリーに連れて行つた。展覧會のフライヤーを見て、ぴゆうちやんが「ワーイ、神サマノ繪」と喜んでゐたからである。大體幼い子供(ぴゆうちやんは*「永遠の仔」である)と云ふのは、大人より、神と云ふ存在を身近に感ずるものである。もしかしたら、シスキの拙い筆致に、子供の落書きに似たものを観てゐたのかも知れない。



* 前シリーズ第141話參照。



【ⅲ】


そのギャラリーで、ぴゆうちやん連れのカンテラは、或る老婦人に聲を掛けられた。「あら、可愛い。フェレットかしら」-カンテラは正直に「いや鎌鼬の仔ですよ」と答へたが、老婦人は理解してゐなかつたやうだつた。「シスキの画はやつぱりいゝね」とじろさん。カンテラ、じろさんと國王は、手頃な展示品があつたら買ひ上げるつもりでゐた。老婦人は「観るだけ」の客だつたやうだが... と、ぴゆうちやん「アノヲバサン、【魔】ノ臭ヒガスルヨ」と云ふ。ぴゆうちやんは動物の妖魔であり、彼には動物的勘と云ふものが備はつてゐた。老婦人の付けてゐる香水の下に、【魔】を嗅ぎ取つたのだ。



※※※※


〈腕時計見紛ふたりや夜更け起き後に殘れる厖大な時〉



【ⅳ】


カンテラはカンテラで、重大な發見をしてゐた。一般の客に混じつて、ルシフェルの姿を見掛けたのだ。他の客には、だうやら彼は見えてゐないやうだつた。カンテラ、ルシフェルに近付き、「こゝはあんたのやうな者の來るところぢやないよ」と小聲で囁いたが、ルシフェル、「儂の肖像画が展示されてゐる」と云ふ。確かに惡魔の繪が數葉掛かつてゐる。で、ぴゆうちやんの云ふ「【魔】の臭ひ」、實は謎【魔】こと鰐革Jr.のものだつた。Jr.はルシフェルの來場を確信してゐたのである。先の老婦人が、今回のJr.の「乘り物」だつた譯。Jr.はルシフェルに憑依して、より場を混乱させやうとしてゐたのだ。それは魔界の新盟主としては、當然の行動だつた。



【ⅴ】


カンテラ、【魔】と聞いて、直ちに斬つてしまひたくなつた。が、最近は(老婦人のやうな)無辜の人を斬るのは、カンテラ、差し控へてゐた。ついこの前迄の彼だつたら、老婦人ごと【魔】を叩き斬つてゐたところだつたが... じろさん、「念の為に* 目隠しを持つて來た」と云ふ。術を使つて、【魔】の動きを察知してやらうと云ふ、じろさんなりの策である。鰐革Jr.がルシフェルに乘り移らうとしたその瞬間を、目隠しをしたじろさんは逃さなかつた。「カンさん、今だ!!」



* 當該シリーズ第184話參照。



【ⅵ】


カンテラ、ぎらりと輝く大刀を拔いた。「こりやいかん」。Jr.は消えた。老婦人はその場に倒れた。氣絶したのである。ざはめきが卷き起こる會場。-ルシフェルは、惡魔の「肖像画」をかつ攫ふと、こちらも幽冥界に逃げ込んだ。流石のルシフェルも、亡靈生活に疲れ(前回參照)、出來る事と云つたら、それぐらゐなのだ。カンテラ逹は富安に詫び、ギャラリーカバシマを辞した。だうにか最惡の事態は免れた。だが、鰐革Jr.の逃げ足の早さは、如何ともし難かつた、と云ふのも、また眞實であつた。因みに、今回仕事の代金は派生しなかつた。當然と云へば、當然なのであるが...



※※※※


〈烟吐けば未明の人の咳きか 涙次〉



【ⅶ】


今回はこれで終はる。未だ鰐革Jr.の正體を摑めぬカンテラ一味。ルシフェルならぬ疲勞が、彼らを襲つた。あともう少しなのだが... お仕舞ひ。



PS: 最近、「神的存在」に興味を持つてゐるテオ=谷澤景六も一行に付いて行きたかつたが、『或る回心』の執筆に追はれて、それどころではなかつた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ