第三章:執事と騎士がやってきた
魔王と勇者が初めて訪れてから数日が過ぎた。
それ以来、村の人々も興味を持ったのか、ぽつぽつとカフェを訪れるようになり、少しずつ常連客が増えてきた。魔王と勇者が「店の料理が絶品だ」と広めてくれたおかげだろう。
「魔王と勇者が宣伝担当って、異世界のカフェってこんなもんなのか?」
俺は妙な感慨にふけりながら、今日も厨房でコーヒーを淹れていた。
そんなある日の昼下がり。扉が勢いよく開き、俺は慌てて顔を上げた。
「失礼する。」
低く渋い声が店内に響く。
現れたのは、黒い燕尾服を身にまとった長身の男だった。白髪混じりの髪を完璧に整え、その瞳は冷徹な鋭さを持っている。
「お前がこの店の主人か?」
男はカウンターの俺を睨みつけるように見下ろす。
「あ、はい……そうですけど。」
少し圧倒されながら答えると、男は軽く頭を下げた。
「私は魔王様の執事、ゼルフィードだ。魔王様より、この店の状況を視察するよう命じられている。」
「え、執事!? 魔王にそんな細かい世話をする人がいるのか?」
思わず口に出してしまったが、ゼルフィードは眉ひとつ動かさず続けた。
「魔王様の生活全般を管理するのが私の務めだ。そして……」
彼は俺をじっと見据える。
「魔王様が満足するこの店の料理。その実力を見極めさせてもらおう。」
「そ、そんなプレッシャーかけないでください!」
この執事、見た目通りの厳格さだ。
さらに事態はややこしくなった。
ゼルフィードがカウンター席に腰を下ろしたその時、再び扉が開いた。
「こんにちはー! 店主さん、また来たわよ!」
入ってきたのは、銀髪をなびかせた甲冑姿の女性。彼女は元気よく手を振りながら店に入ると、ゼルフィードを見て怪訝そうな顔をした。
「……あれ、魔王の執事じゃない。こんなところで何してんの?」
「それはこちらのセリフだ、勇者殿の騎士よ。」
ゼルフィードは冷ややかに答えた。
どうやら、彼女は勇者の側近である騎士のようだ。軽い口調と豪快な笑顔が印象的で、甲冑をまとっているのにどこか親しみやすい雰囲気がある。
「騎士さん、今日はどうされたんですか?」
俺が尋ねると、彼女は甲高い声で笑いながら言った。
「いやぁ、勇者様が言ってたでしょ? この店の料理が最高だって! だから今日は、私が味を確かめに来たのよ!」
「……なるほど。つまり二人とも、俺の料理を査定しに来たわけですか。」
妙に競り合う視線を交わす執事と騎士を見て、俺は頭を抱えた。
結局、二人にそれぞれ違う料理を出すことになった。
ゼルフィードには、香り豊かな「エルフハーブのスープ」。騎士には、特製の「ドラゴンステーキサンド」を用意した。
ゼルフィードは無言のままスープをすくい、慎重に口に運ぶ。そして、ほんのわずかだけ頷いた。
「……悪くない。素材の持ち味を活かしつつ、香草の香りが絶妙だ。」
その冷静なコメントに安心しかけたのも束の間、騎士は豪快にステーキサンドを頬張り、大声で叫んだ。
「うまい! これ、最高にジューシーじゃない!? 勇者様、こんなもの食べてたのね!ずるい!」
「騒がしい女だな。」
ゼルフィードが騎士を冷ややかに睨む。
「何よその態度! あんたこそ楽しんでるくせに!」
二人はどんどん言い争いを始める。
「ちょっと待ってください! ここはカフェなんですよ! 静かにしてください!」
俺は慌てて二人をなだめた。
その後、二人は口論を続けながらも料理を平らげ、「また来る」と言い残して帰っていった。
俺は店の片付けをしながら溜息をつく。
「……異世界の人間関係、複雑すぎないか?」
魔王、勇者、そしてその側近たち――俺のカフェは、今日も騒がしい一日だった。
しかし、不思議と悪い気分ではなかった。これが異世界での「日常」なのだと、少しだけ実感した気がする。
次に来るのは誰だろうか? そんなことを思いながら、俺は明日の準備を始めたのだった。
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書き溜めていた物語なのですが興味もっていただけていたら反応あるとすごくはげみになります。お願いします。