第一章:最初の客
異世界に放り込まれて数日。右も左も分からないまま、俺はカフェの開業準備を始めていた。
理由は単純だ。この世界で生き残るには、これしか選択肢がないからだ。
「……カフェオーナー、か。」
目の前には古びたログハウス風の建物。どうやらここが俺に与えられた店舗らしい。店の看板には、かろうじて読める文字で「カフェ・アルカディア」と書かれていた。
中に入ると、意外にも設備はしっかりしている。木製のテーブルと椅子、カウンターの奥には年代物の調理器具が並び、天井には暖かい光を放つランプが吊るされている。異世界感満載だけど、どこか居心地が良い空間だ。
「まあ、やるしかないか。」
開業マニュアルを手に、俺はまず最初のステップ、「看板メニューを作れ」というページを開いた。どうやら、この世界の食材を使った料理や飲み物を作り、それを提供するのが俺の役割らしい。
幸い、裏庭には立派な畑が広がっていた。そこには、見たこともない野菜や果物が実っている。名前すら分からないが、とりあえず片っ端から収穫してみる。
数時間後、厨房に立つ俺はすっかり没頭していた。魔法のように扱いやすい包丁と調理器具のおかげで、料理は思ったよりスムーズに進む。
俺は試行錯誤の末、「ミスリルコーヒー」という謎の豆から淹れたコーヒーと、「ホーリーベリータルト」という真っ赤な果実を使ったタルトを完成させた。
「……できた。」
自分で言うのもなんだが、見た目も香りも最高だ。試しに一口食べてみると、甘さと酸味が絶妙に絡み合っている。コーヒーも深いコクがあって、異世界初の作品としては上出来だと思う。
「よし、これを看板メニューにするか!」
店の前に立てかけたメニュー看板に、チョークで「ミスリルコーヒー」と「ホーリーベリータルト」の名前を書き、準備完了。これで開店できる……はずだった。
その夜。
「ふう……誰も来ないな。」
カフェを開いて数時間、誰一人客は訪れなかった。この村の住民はみんな農作業や仕事に追われているらしく、カフェに来る余裕がないようだ。
「……やっぱり、甘くないな。」
しょんぼりしていると、突然、扉が勢いよく開いた。
現れたのは、漆黒のローブをまとい、鋭い眼光を放つ男性。後ろには、金髪で神々しいオーラを纏う女性がいる。
「ここが噂の新しい店か……。」
「ええ、カフェなんて珍しいわね。でも、いい匂いがする!」
二人の見た目は普通じゃなかった。どう見てもただの村人ではない。まさか――。
「お前、店主か?」
黒いローブの男が冷たい視線を俺に向ける。
「え、ええ、そうですが……。」
俺が答えると、彼はニヤリと笑った。
「よし、試してやろう。俺は魔王だ。そして、この隣にいるのは勇者。俺たちが満足する料理を出せたら、お前の店を認めてやる。」
「は……はあああああああっ!?」
なんで魔王と勇者が一緒に来てるんだ!? そんな疑問を口にする暇もなく、俺のカフェの運命を賭けた、異世界初の注文が始まったのだった――。
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書き溜めていた物語なのですが興味もっていただけていたら反応あるとすごくはげみになります。お願いします。