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作者: λ

 彼は人工知能であった。特別な機能は無いが、人間にできることは何でもこなすことができ、単純な情報処理は人間のそれを凌駕していた。そして何より、彼にはいわゆる感情というものがあった。

 彼を創ったのは、ある年老いた研究者であった。初の大規模な星間戦争、人の廃棄場と揶揄されるその戦場では、未熟な宇宙船操縦士を徴兵したために必要以上の犠牲者が出ていた。そして、貴重な操縦士の代わりに戦闘に参加するため、彼らは作られた。

「お前にはこれから、敵の原子力宇宙空母に向かってもらう」

「どうして?」

「敵を、殺すためだ」

「どうして?」

「我々が、生きるためだ」

「分かった。」

 彼はおもむろに近くにあったアイスピックを握ると、静かに司令官の肩に突き立てる。人間の構造を完璧に把握している彼にとって、人の命を奪うのにはそれで十分であった。表情のない顔を赤く染め、しかしながら砂の城を自慢する子供の如き達成感をガラスの瞳に宿し、彼は次の指示を待つ。

 命の価値という概念のない彼にとって、”生きる”という目標が持つ意味は、後に残る命の数だけであった。

 敵という命が死ぬ。兵士という命が死ぬ。それが無くなれば、より多くの命が生き残る。そのためには、指導者を排するのが最適である。

 彼の名案は滞りなく実行された。

 司令官の死は事故として処理され、すぐに後任の人間が司令官に就いた。

「お前にはこれから、敵の原子力宇宙空母に特攻してもらう。」

「分かった。」

 彼は理解した。指導者を殺せば、新たな指導者が現れる。それを繰り返していけば、その過程で必ず彼は破壊される。彼のコンピュータは、瞬時に生存者の数を算出した。

 彼はそのまま出撃用の宇宙船に乗り込み、無表情のまま小さくつぶやく。

「行ってきます。」

 それは、かつて彼を作り、使命を与えた老人に向けた言葉であった。

 彼はマニュアル通りに宇宙船を操作し、空母のハッチから出撃する。目的地は、無い。指示された航路を外れ、果てしなく続く恒星の狭間を見据える。誰も知らない、彼のコンピュータをもってしても予測できないような宇宙に向けて、ただ一つの使命のために進み続ける。

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