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好きな人に告白したら、『じゃんけんで私に勝てたらいいよ』と言われた件

作者: 江谷伊月

 俺の名前は楠木(くすき)正也(せいや)。どこにでもいる一般男子高校生だ。


 突然だが、今から俺は好きな女の子に告白しようとしている。誰もいない放課後の教室で、その相手を待っていた。


「やっほ~、お待たせ」


 教室の扉が開かれ、金髪ロングヘアーの美少女が現れた。彼女こそが俺の好きな人、一ノ瀬(いちのせ)胡桃(くるみ)さんだ。


 マイペースで変わり者ではあるが、誰とでも気さくに話すことができる人気者。何の特徴もない俺はそんな彼女に憧れ、その憧れは次第に恋に変わっていった。

 

 だから、告白することにした。正直、勝算なんて何一つない。ただ、この気持ちを一ノ瀬さんに伝えたかった。


「一ノ瀬さん、突然呼び出したのに来てくれてありがとう」


「いーや、全然大丈夫だよ。どしたの?」


 深呼吸して、改めて覚悟を決める。ついにこの時が来た。ここが人生最大の勝負時だ。


「好きです。付き合ってください!」


 大きな声で、一ノ瀬さんの目を見て、真っ直ぐ想いを伝えた。


 一ノ瀬さんは少し驚いたように目を見開いていた。やがてフフッと微笑むと、手をグーの形にしてこちらに突き出してきた。


「んじゃ、じゃんけんで私に勝てたらいいよ」


「へ? じゃ、じゃんけん?」


「そそ。やる?」


 可愛く首を傾げながら、謎の提案をしてくる一ノ瀬さん。


 一体どういうつもりなんだ彼女は……? 変わり者だとは思っていたけど、異性と付き合うか否かという大事な運命をじゃんけんなんかに委ねてしまうほどだったのか?


 いや、さては冗談だと思われているな。ここは本気だと伝えるためにも、改めてちゃんと想いを伝えてみよう。


「一ノ瀬さん、俺は本気なんだ。本気で好きなんだよ」


「楠木くん、そんなにじゃんけんが好きだったんだ~。奇遇だね、私も好きだよ」


「じゃんけんの話じゃないっ」


 いけない。彼女のペースを飲まれてコミカルな雰囲気になっている。一ノ瀬さんが好きだという気持ちをちゃんと伝えなければ。


「俺は君が、一ノ瀬さんが好きなんだ。だから、付き合ってくれ!」


 俺は頭を下げて、一ノ瀬さんに向けて手を差し出す。奇跡的にこの手を握られることを期待して、俺は手の感覚を研ぎ澄ましながら返事を待っていた。


「じゃんけん、ぽん。パー同士だね。あいこだ」


「この手はパーじゃないし何故あいこ!?」


 俺の方が先に出してたのに。後出しであいこになる事例なんて聞いたことがない。


 この人、完全にふざけてるな。俺の真剣な告白をネタかなんかだと思っているのか。


 いや、天然な一ノ瀬さんのことだ。これが告白だということを理解していない可能性がある。まずそこを分からせないと。


「一ノ瀬さん、これはネタじゃないんだ。本当に! リアルに! 事実として! 俺は君のことが好きなんだよ!」


「じゃんけんよりも?」


「比べるまでもないわ!」


「えっ……。そ、そうなんだ。だったらその、本気なんだね」


「何でそこで照れるの!?」


 じゃんけんよりも好きだと伝えた瞬間、一ノ瀬さんは顔を急に赤くして、もじもじと落ち着かない様子になる。正直めちゃくちゃ可愛いけどおかしいだろ。


 俺はそんなにじゃんけんが好きだと思われていたのか? それともこの人の中では、じゃんけんが命と同じくらい大事なのだろうか?


 考えれば考えるほど、よく分からなくなっていく。まあそういう不思議ちゃんなところが愛おしくて、好きになったところもあるんだけど。


「とにかく。俺の気持ち、分かってくれた?」


「うん。凄く伝わった」


「良かった。それじゃあ、ちゃんと答えてくれるね?」


「もちろん。私も本気でじゃんけんするよ」


「oh shit!」

 

 ダメだ、何にも伝わっちゃいない。


 結局振り出しに戻ってしまった。どうやらこの人の中でじゃんけんをしないという選択肢はないらしい。


「分かったよ。それじゃあ、じゃんけんしよう。俺が勝ったら本当に付き合ってもらうけど、それでもいいの?」


「うん、いいよ~」


「そんなあっさり決めていいの?」


「うん。そもそも私から提案したし」


 じゃんけんに勝てたら付き合ってもいいって、実質付き合ってもいいって言ってることになるんだけど……。まあこの人を一般人の枠で考えることはできないよな。深く追及はしないでおこう。


「よし、じゃあ行くよ」


 改めて気合いを入れ直す。まさか人生最大の勝負の結果が、じゃんけんに委ねられることになろうとは。冷静に考えると訳が分からないが、やるしかない。


「じゃあ、私グーを出すからね」


「なっ!?」


 まさかの心理戦だと!? 普段も今もまるで何を考えているのかさっぱり分からない一ノ瀬さんの心理を読めというのか。あまりにも難易度が高すぎる。


 いや、諦めるな。こういうときはまず相手の表情を見るんだ。少しでも動揺している様子がないか確認してみよう。


 俺はまじまじと一ノ瀬さんの顔を見てみる。うん、とんでもなく可愛い。透き通った青色の瞳がとても綺麗だ。


「どうしたの? じゃんけんやらないの?」


「はっ!? や、やるよ? 何を出そうか考えてたんだ。こっちは人生かかってるからね」


「そっか」


 思わず見惚れていたら、一ノ瀬さんに不思議がられてしまった。いかんいかん、相手の様子を(うかが)うはずが邪な感情に支配されてしまった。


「出すの決まった?」


「お、おう」


 結局一ノ瀬さんの心理は全く読めなかったが、考えても無駄だろうし適当に出すことにしよう。


「じゃ、行くよ~。最初はグー。じゃんけん、ぽんっ」


「ぽぉん!!」


 俺は全力で魂を込めて手を繰り出した。その結果はというと……。


 俺:チョキ

 一ノ瀬さん:グー


「私の勝ちだね」


「ちくしょおおおおおおお!!」


 負けた。つまり振られたと同義だ。あまりに残酷な現実に、俺は慟哭した。


「……ねえ、楠木くん」


「うう……何ですか」


「私、じゃんけんに勝てたら付き合うって言ったよね?」


「はい、言いました……」


 はあ、これから俺は振られるのか。振られた理由がじゃんけんに負けたからって何だよ。くだらなすぎるだろ。友達に話したら鼻で笑われるわ。


「じゃあ何で私に負けたの」


「え」


 一ノ瀬さんの顔を見ると、何故か不満そうに頬を膨らませていた。


「何でも何も、ただ運がなかっただけだよ。じゃんけんって運で勝敗が決まるものじゃん」


「でも私、グーを出すって教えてあげたよね? 何でパーを出さなかったの?」


「え……あれって心理戦を仕掛けたんじゃないの?」


「心理戦? そんなつもり全くなかったよ」


「へ!? ということは、あれはただ、出す手を親切に教えてくれてただけ?」


「そうだよ。分からなかったの?」


「いや分かるか!」


 まさか付き合うかどうかをきめる大事なじゃんけんで、八百長を仕掛けてくるとは。想像の遥か斜め上過ぎる。やはりこの人は宇宙人並みの変わり者だ。


 …………って待てよ。このタイミングで八百長を仕掛けてくるってことはつまり。


「ねえ、一ノ瀬さん。手を教えてくれたってことは、俺に勝って欲しかったの?」


「……うん」


「てことは、俺と付き合いたいってこと?」


「そんなはっきり言われると、恥ずかしいよ……」


「っ……ごめん」


 顔を赤くして照れているところを見ると、どうやら俺の考えは当たっていたらしい。


 まさか両想いだったとは。嬉しすぎる。好きな人と両想いって、こんな夢みたいなことあるもんなんだな。


「じゃあ一ノ瀬さん、俺と付き合ってくれる?」


「今はダメ。私がじゃんけんに勝っちゃったから」


「そこは律儀に守るのか……。じゃあもう一回じゃんけんしよう。今度こそ俺が勝つから」


「それも今はダメ。一日一回勝負だから」


「え、そんなルールあったの!?」


「うん。何で負けたか明日までに考えといてください」


「ペ〇シジャパンコーラのCMじゃねーか!」


 とにかく一日一回勝負という謎ルールが設けられている以上、明日また挑戦するしかないか。


 今日のところは両想いと分かっただけでよしとしよう。じゃんけんは毎日挑戦していればそのうち勝てるだろうし。


「じゃ、帰ろっか。一ノ瀬さん、一緒に帰る?」


「うん」


 下校する準備をして教室から出て行こうとしたとき、ふと一つ、気になることを思い出した。


「そういえば一ノ瀬さん、一つ聞いてもいいかな」


「なーに?」


「俺が告白して手を差し出したとき、一ノ瀬さんはパーを出してあいこにしたよね」


 まあ俺としてはパーを出したつもりはなかったけど。と心の中で付け加える。


「うん」


「そのとき一ノ瀬さんがグーを出してくれてたら、俺たち今日から付き合えたんじゃないか?」


「……ぎくっ。そ、それは」


 お、動揺するとは一ノ瀬さんにしては珍しい様子だ。


 一ノ瀬さんは何やら目を泳がせて迷うような素振りをしたあと、遠慮がちに口を開いた。


「……私が後出しして負けたら、それこそ告白してるみたいになるじゃん」


 絞り出したような小さくか細い声で、恥ずかしそうにそう答える。その様子はとても愛らしかった。


「な、なるほど……だからあいこにしたのか」


 確かに一ノ瀬さんの言っていることは分かる。でもそうなると、新たな疑問が浮かんでくる。


「でも、八百長じゃんけんを仕掛けるのも告白してるようなものだと思うんだけど」


「それは違うよ。私に勝つかどうかは楠木くんが決めてるから」


「そ、そうなんだ? 基準がよく分かんないな」


 やっぱりこの人の考えることは全く分からない。不思議で、変わり者で、可愛くて、話していて飽きない。それがこの人の魅力だ。


 それに今日は、案外分かりやすいところもあることに気付くことができた。


「一ノ瀬さん、話は変わるけど」


「どしたの?」


「改めて俺、一ノ瀬さんのことが好きだ。見た目が可愛いところも、ちょっと変わってるところも、全部好きだよ」


「っ……!? いきなりそんなっ……」


 俺がそう言うと、一ノ瀬さんは瞬時に顔を耳まで赤くさせた。


 恥ずかしがっているとき、照れているときの一ノ瀬さんは、とても分かりやすくて可愛らしい。


「……そんなに私のこと好きなんだ」


「もちろん」


「じゃんけんよりも?」


「もちろん。でもいい加減じゃんけんと比べるのやめない?」


「ふふっ。嬉しい」


「だから喜ぶところおかしいだろ!」


「じゃあ、明日はちゃんと私に勝ってね?」


「……ああ、絶対勝つよ」


 そんな意味不明なやりとりをしながら、俺たち二人は一緒に下校したのだった。

閲覧ありがとうございました。

※この作品はフィクションです。『他人から告白を受けて、付き合うかどうかをじゃんけんに委ねるなんて失礼だ!』といった至極真っ当な御意見は受け付けておりません。

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