5話
話は2年前に戻る。
俺が中3の時。文芸部の部長を始めて数ヶ月が経った頃。
俺は風の噂で部員の後輩数名がいじめられてることを知った。当時の俺は何を思ったかそれを解決してやろうと血気盛んに調査を始めたんだ。
まず同じ文芸部の友達数名と一緒に手当たり次第にそこらにいる後輩たちに聞き込み回った。
そこで浮上した奴らが数名。文芸部の後輩以外相手にもいじめを繰り返しては教師から注意を受けてるって不良グループで、俺らはなんとかそいつらと接触しようと試みた。どのみち後輩だし年下だからなんとでも言いくるめられるだろってたかを括っていた部分はあって、注意していじめがひどくなるかもしれないなんて考えすらなかった。
ある日の放課後、いじめの現場に乗り込んで行って初めて事の深刻さに気付いたんだ。それはただのいじめと呼べるほどの軽いことじゃなく、女の子が不良の男たちに服を脱がされかけていて、頭に血が登った俺は一目散に突っ込んで行った。
リーダー格のやつをぶん殴って他の奴らのこともぶん殴って怒鳴りつけた。てめぇらのしてることはライン超えてんだよ!って。やっていいことと悪いこともわかんねーならわかるようにしてやろうかって言って他の友達に無理矢理止められるまで延々殴り続けた。
結果は自宅謹慎3日。俺は納得がいかなくて登校しては毎日廊下に立たされ続けた。相手ももちろん自宅謹慎は食らったのだけどそれ以降、俺を見ると怯えて逃げ出すようになってた。トラウマを植えつけちまったってことだ。そこで初めてやり過ぎたって気づいた。相手は年下で体格も俺の方が断然上で目つきも悪いそんな奴から怒鳴られながら殴られ続けたんだからそうなるよな。そいつらのいじめはそれでなくなったからいいものの他にもいじめがあって解決しなきゃと思ってはこの前みたいになったらどうしようと頭を抱える日々を過ごした。
それに友達以外からは完全にやべーやつとして腫れ物扱いされる羽目になったし、被害を受けた女子の親御さんがそっちが訴えるならこっちも訴えるとまで言って守ってくれたから助かったものの一時は不良の親にPTSDで訴えるとまで言われたりして。育児放棄どころか大事にされてた子ということはただの反抗期だったのだろうがそれでも自分の子が悪さをしたら謝るのが筋だろ。俺はなんとか腹が立つのを抑えて頭を下げた。
でもその時助けたはずの後輩の女の子にまで怖がられててさ、こんなの助けたうちに入んねーなって自嘲気味になってた。
でもどうしても助けたかったから俺は次こそは話し合いでなんとかしようとしたんだ。また同じ目に遭わしたらいけないと思って先生も一緒に同席させてもらってさ。次の奴らは女の子同士でのいじめでそれはもう陰湿なやり方ばっかりだったからさ、見つけるのも苦労したんだけどちゃんと証拠をおさえて話があるって呼び出して。
お前らいじめなんかしてる暇あんなら自分磨けよって諭してさ。色目使ったのが気に食わないんならお前らも自分磨いて色目使えばいいじゃんって。そっちの方がよっぽどお前らにとって有益だぞってさ。俺ならくだらないいじめしてる奴よりちゃんと自分磨いてる奴と付き合うぞって。
今度はちゃんと効果あったみたいでそっちのいじめも無くなったんだ。それどころかいじめっ子たちがいじめられてた子達にメイク教えてとか髪のセット教えてとか言うようになっていつの間にか仲良くなっててこっちが本当の解決法だったんだなって思ったのよ。
文芸部の後輩のいじめ問題もそれで解決できてそれ以降は普通の学校生活送れてたからいまの今まですっかり忘れてたんだけどさ、その時助けたのが種田やら葉山やら後藤やらの後輩たちだったんだよな。
(土屋を助けたっていう話に関しては普通に友達作りのための会話術を教えたり時々話しかけたり他の部員と話せる場を作ったりってだけなんだけどさ。)
もちろん俺単独でやったわけじゃないし後輩たちには気づかれないように裏でやったつもりだったんだけど土屋が言うにはバレバレだったらしくて。
卒業後も文芸部の伝説みたいな感じで伝わってたんだとさ。
なんでこんな話してるかって?
今そいつらに囲まれててだな……。
「あの時の杉田先輩本当かっこよかったよね!」
「杉田先輩がいなければ今の私はないと思う……。」
「うちらのこと陰で助けてくれてたってあの時先生から聞いたんだけど本当ですか?」
「いや話したのあいつかよ!散々口止めしたろうが!あの口軽ハゲが!」
「きゃー!本当なんですね!杉田先輩ありがとうございました!」
「私こっそり見てたから全部知ってる……本当にありがとう……。」
「さすが私の先輩!私以外にも助けてたんですね!」
「いやなんでそれでうちの高校に来ようと……?」
「それはもちろん恩人である杉田先輩の彼女になれたらなーなんて思ったりして。」
「杉田先輩……付き合って……?」
「あー!みんなずるい!うちも杉田先輩と付き合いたい〜!」
「わ・た・し・の先輩ですからね。抜け駆け禁止だからねみんな。わかった?」
「いや待て待てどいつもこいつもいきなり過ぎるだろ。頭冷やせ。あと土屋、まだお前とも付き合ってないからな。」
確かに土屋とは色々あって今距離が一番近いとはいえまだ付き合ってないし、とはいえこんなに一気に告られるとか考えてもなかったし、どうするよ俺。囲まれてて逃げるに逃げられないし。
そういや土屋が言ってたもんな、その子達文芸部にもういるって。でもよ?昨日まで話しかけてこなかったじゃん。なんで今日みんな揃って来たの?談合でもしたのか?不正競争防止法どこ行った。
「いやなんで突然こんなことになってるんですかねぇ。」
「いやだって今日は上級生杉田先輩だけだったし放っておいたら土屋ちゃんか部長に取られそうだし。」
「右に同じ……。」
「そうですよー!土屋ちゃんいつの間にか抜け駆けしてるし!一緒に登校してるの見たし!部長もいつも手握っててずるい!」
「まあわ・た・し・の先輩ですからね!」
「ずるい!」
「土屋ちゃん……友達だよね……?」
「うちのことを捨てるんですか!?」
「いやそもそも誰とも付き合ってないからね?」
「なら付き合ってくれていいじゃないですか!二股でも三股でもいいので付き合ってくださいよー!」
「さらっと酷いこと言うな。」
「私の恩人だし……好きだから……駄目?」
「俺そんな軽く見える?」
「軽くなってくれてもいいんですよ?土屋ちゃんとなら二股でいいので!駄目ですか?」
「うん、駄目だね。」
「「「杉田先輩そこをなんとか!」」」
「いや私は二股とか許しませんからね先輩。」
「いやだから付き合わないしみんなそこまでの関係値ないでしょまだ。」
「私は家まで行きましたよ?」
「勝手にな。」
「「「土屋ちゃんずるい……!」」」
「私と先輩との仲ですしそれくらい当然です♪」
「いや何この子達怖い。」
誰か助けて。土屋だけで精一杯なのにこんなに増えたらどうしたらいいのかわかんないよ俺。てか話すの自体中学以来だし連絡先も知らないんだが。
「いやだってさまだ連絡先すら知らないじゃん俺ら。」
「私は知ってますけどね!」
「土屋はな。」
「「「ずるい!」」」
「ずるくないもんねー!先手必勝でしょ!」
「土屋も半ば無理矢理交換させられたんだけどな?」
「じゃあ私とも交換してください!」
「私も……はいこれ……。」
「うちもー!杉田先輩お願いしますよー!」
「いや連絡先くらいならいいけど……お前ら期待はするなよほんとに?」
「「「やったー!」」」
「めちゃくちゃ息ぴったりだなお前ら。むしろお前らで付き合えばいいんじゃね?」
「いや私レズじゃないですし。」
「普通に無理……。」
「うちらライバルなんで無理です。」
「いや冗談だぞ真に受けんな。……ほら、連絡先。」
LINEのQRコードに群がる女子三名。何この絵面。
餌に食いつく鯉か?肉食系女子怖っ。
「あー!先輩私だけじゃなくて他の子にも手出すんですか!?」
「いやそもそもお前にも手出してないだろまだ。」
「まだってことはいつかは手出すんですね。待ってますね。」
「「「土屋ちゃんずるい!」」」
「いや土屋とはまあ色々関わりあるし色々あったから……。」
「色々ってなんですか!てか土屋ちゃん!?もうそういう関係になってたの!?」
「先輩に泣かされました。」
「杉田先輩そんな人だったんですね……最低……。」
「語弊があるから!頼むから落ち着いてくれ。」
「じゃあなんだっていうんですか!土屋ちゃんを家に連れ込んで何したんですか!」
「連れ込んだんじゃなく勝手に来たのよ。それにちょっと話してすぐ帰ったし。」
「一緒ですよ!どんな話したんですか!」
「猥談……?」
「きゃー!杉田先輩のエッチ!最低!」
「あれなんで俺告られた後に罵倒されてんの?そういうもんなの最近って?」
「いや先輩流されやす過ぎでしょ。そんなことあるわけないじゃないですか。」
「あー土屋がめちゃくちゃまともに見えるー。」
「私はずっとまともです!みんなが焦りすぎなんですよ。私がいるから。」
「確かにな。土屋なんとかしてくれ頼む。」
「しょうがないですね先輩は。はいはいみんな落ち着こうねー。」
「ゆっくり親睦を深めてゆくゆくは付き合おうなんて思ってたのにもう土屋ちゃんに関係作られててこんなん落ち着けるわけないでしょ!」
「土屋ちゃん私達を裏切るの……?」
「ほんとですよ!段階すっ飛ばし過ぎでしょ!」
「まあ私と先輩は特別ですし。」
土屋と三人が睨み合ってて怖い。友達って話どこ行った。今日は部活どころじゃないなこりゃ。
「まずお友達になりましょ?」
「それならいいけど。」
「駄目です。私が許しません。浮気するとか最低ですよ。」
「いや付き合ってないし付き合わないし。」
「友達……杉田先輩……好き……。」
「単語で話すのやめて怖いから。」
「うちのことも友達として始めてくれたらいいんで!そんでいつか一線越えましょ!約束です!」
「そんな約束結んでたまるか。てかみんなそんなに俺なんかしたか?あんまり記憶にないんだが。」
「いやいや!めちゃくちゃ助けてくれたじゃないですか!」
「助けてくれた……私の恩人……。」
「うちのことも助けてくれたし!なんで覚えてないん?酷い!」
「いや少しくらいは覚えてるけどさ。そこまでのことじゃなくない?」
「てか先輩は私が上書きしといたんで。」
「「「何したの……?」」」
「いや特に何もされてないし変なこと言うのやめろ。」
「先輩の好物私の得意料理なんですよね〜!」
いやその目やめてくれ頼む。ハイライトが仕事してないですよ皆さん。もっと目キラキラさせてくれプリクラくらい。いやそれはやり過ぎか。どっちでもいいけどマジで圧がすごいんだけど。気圧されそう。こないだまでぼっちだった俺にはきついっす。土屋に先を越されて云々はわかるけど土屋だけで十分だからほんと。当の土屋はドヤ顔してるしなんやこいつ。自称彼女らしく守ってくれ。自称だし無理か。オワタ。
「まあとにかくこれからは覚悟しててくださいね、杉田先輩!」
「私も……諦めないから……。」
「うちのこともちゃんと見ててね!先輩にふさわしい彼女になるから!」
「だからー、わ・た・し・の先輩だから。いくら友達と言えどこれだけは譲らないからね。」
「絶対負けないからね!」
「私も……絶対落とすから……。」
「うちも杉田先輩のことメロメロにするから!これから楽しみにしといてくださいね!」
「時間の無駄だし諦めた方がいいよ。先輩最近私のことめちゃくちゃ意識してるし。」
なんで気づかれてんの?土屋お前やっぱりエスパーなのか?カバンに入れるのか?いやそれはエスパー伊東な。自分でボケて自分でつっこむの虚しくない?ソースは俺。
「先輩いつも私の弁当食べてるし。」
「えー!明日から私も作ってくるから食べてください!」
「私も……。」
「うちも得意料理作ってくるから食べてくださいよー!」
「いやそんな大食いじゃないし俺。せめておかずひとつとかにしてくれ。」
「おかずなら私が提供しますから!」
「お前の言うおかずは下ネタだろ。」
「そういえば土屋ちゃん下ネタ増えたよね。杉田先輩の影響なの?」
「そうだよ?やっぱり男の人ってエッチな女の子の方が好きって言うじゃん。」
「いや俺はそんな要求したことないからな。清楚な方が好きって言っただろうが。」
「杉田先輩……私の胸見る……?」
「見ないから。」
「先輩は足の方が好きなんですもんね〜!」
「そっちも見ないから。」
ツッコミ役が俺しかいないからツッコミに忙しすぎる。全員暴走すんな。誰か止めてくれ。
「うちの足どうです?ほらほら!」
「いや座ってるしここからじゃ見えないし見る気もないからな。」
「先輩は私のことが一番好きですもんね!」
「……今んとこ関わりは一番あるから仕方ないだろそれは。」
「否定しないんだ……。」
「梨沙どこまでしたの!?」
「あんなことやこんなことですよね先輩!」
「いややましいことは一切してないぞ。普通に話して一緒に登校してるくらいだわ。」
「「「ずるいー!」」」
「えへへ〜♪」
「私も先輩と一緒に登校したいー!」
「私も……駄目……?」
「うちも!」
「いやお前らの最寄駅知らないしたまたま土屋と家近いだけだから。」
「運命って奴ですよ絶対!」
「偶然って奴だから。」
「てかなんでみんな揃いも揃って俺なの?助けたの俺の友達も一緒だったろ。そっちじゃ駄目っすか?」
「「「駄目です。」」」
「いやなんで?俺の友達可哀想過ぎない?」
「だって最初に言い出したの杉田先輩って聞きましたし。」
「杉田先輩……私のタイプだから……。」
「うちも杉田先輩がいいなーって。他の先輩には悪いですけど。」
「友達ならいくらでも紹介するからさっさと気が変わってくれ。」
「「「無理です。」」」
「俺も無理なんだが……。」
「そこをなんとか頼みますよー!」
「私の先輩だし友達と言えど譲らないからね。」
「梨沙と二股でいいからさ!ね?」
「だから私は二股とか許さないし。先輩も分かってますよね?」
「だから俺も二股とか無理ってさっきから言ってんだろ。分かれ。ね、少しくらい俺の話聞いて?」
その後も延々とアタックされ続けてはかわし続けて、やっと帰る時間になって正直めっちゃ助かった。ありがとう下校時間。今日だけで一生分のツッコミをしたんじゃないかと思うくらいだわ。なんで俺なの?確かに主導したのは俺だけどさ俺以外にも一緒に助けた友達いるはずだよね?なんでみんな俺のとこに来たの。一人くらい友達のところに行ってあげてよぉ。彼女募集中らしいし。
なんなん?モテ期なの俺?土屋はなんだかんだあったがすっかり元に戻ってくれたからいいとしてもこんなに増えると正直面倒臭いんだが。
明日からどうなるんだろなマジで。土屋だけでも手一杯なのに四人相手は無理だぞ流石に。
結局四人で帰る羽目になった。それで知ったのだが他の三人は最寄駅が違ったから登校を気にする必要はないし少し助かった。これで全員最寄一緒だったらどうなってたんだろうな。俺学校休みたくなってきたわ。家を知られてるのが土屋だけで本当助かったわ。押しかけてきそうだもんあの勢いだったら。また妹に嫌われちゃうじゃん。俺それが一番嫌だからね?俺は妹のことが大事だし好きだからな。当然妹としてだぞ。シスコンじゃないし。
今後の学校生活を考えては頭を抱えることになった。やっぱり孤独慣れしてる俺に恋愛はめんどくさい。




