4話
次の日もその次の日も土屋は弁当を作ってきた。
それに行きも帰りもくっついてきた。
いつも同じようなやり取りをして土屋の告白をあしらって、それで帰路に着く。その繰り返し。
それで土曜日。久々に一人になってなんというか寂しさが込み上げてきた。どうした俺。ぼっちを極めたはずだろ。たった数日で崩れるほど脆いのかお前は?そんなことを考えてたら妹が部屋に来た。
「ごみいちゃんに客が来てるよ。せいぜい嫌われないようにね。このゴミぼっち。」
「はいはいわかりましたよ。あとゴミぼっちは流石に傷つくぞ。」
「本当のことじゃん。外に出すのも恥ずかしいのに。」
「ひっど。お兄ちゃん泣いちゃうよ。」
「勝手に泣いてれば?キモッ。てか早く出ろよ来客来てるって言ってんだろゴミ。」
妹に急かされて玄関に向かうと土屋がいた。
……は?家にまで来るんかい。
「先輩妹さんに嫌われてます?なんか名前出したらすっごく不機嫌になったんですけど。」
「ゴミ呼ばわりはされてるぞ。」
「ひっど!抗議してきます!」
「待って!大丈夫だから!な!落ち着こう?」
「好きな人をゴミ呼ばわりされて黙っていられるほど大人じゃないですし。」
「まあ反抗期なんだろ。相手がなぜか親じゃなくて俺なんだけどさ。」
「兄妹仲どうなってんですか。ラノベだったら妹といえばお兄ちゃんLOVEじゃないですか。」
「ラノベはな。現実はこんなんよ。寂しいけど仕方ないんだよな。」
「やっぱり抗議してきます。」
「待って!お願いだから待って!余計に嫌われたくないし!」
「……先輩がそういうなら仕方ないですね。でも結婚したら義理の妹になるわけですし仲良くなっときたいななんて思うんですよ〜。」
「話飛びすぎだろ。まだ付き合ってもないのに。」
「まだ、ってだけですけどね?」
「はいはい。」
「で、妹さんの部屋はどこですか?」
「話聞いてた?」
「説得してきます〜!」
「待って!なんでもするから!」
「ん?今なんでもって言いましたよね!」
「言ったっけ?」
「妹さん〜!」
「言いました言いました!なんでも聞きます!」
「……なんですか?私巻き込まないでもらえない?」
「なんでもないから!戻って大丈夫だから!」
「あっそ。もう呼ばないでね。」
「……ふぅ。頼むからもうやめて……。」
「仕方ないですね。てか本当に嫌われてません?先輩何かしたんですか?」
「断じてしてないぞ。いやそんな目で見ないで本当になんもしてないから!」
「本当ですか〜?妹に手出したりしてたら軽蔑しますからね。」
「するか!」
「私にならいつでも手出していいですからね!」
「するか!」
「えー。一応ですけど先輩ホモとかじゃないですよね?」
「いやちげーわ。ちゃんと女の子好きだから!」
「まあそれは置いといて遊びに行きましょ先輩!」
「休日は家にいるのが信念なんだすまん。」
「ただの引きこもりじゃないですか。」
「平日は出てるし。」
「そりゃ学校ありますし当然でしょ。……えまじで外出ない気ですか?」
「おう。」
「じゃあ先輩の部屋にお邪魔します。」
「いやいいけど。」
……本当に来た。めちゃくちゃ部屋中見てるんだが。変な本はないぞ電子版派だからな。つまり探しても無駄だ。どや。何がどやじゃ俺。
「先輩エッチな本持ってないんですか!?」
「持ってないぞ。」
「じゃあそこらの女の子おかずにしてるってことですか!?」
「いや違うから。電子版派なだけだわ。」
「へ〜、で、どんなの見てるんですか?ドM向けですか?」
「言わんわ。普通言わねーだろ。」
「じゃあ先輩は胸と足ならどっちが好きですか?」
「……足。」
「うわ、絶対ドMじゃないですか。」
「この話題やめない?」
「なんでもするって……」
「はいはい言いましたよ!」
「じゃあMかSかだけ教えてください。他はいいんで。」
「言わなきゃだめ?」
「言わないならドMってことにしときます。」
「……ちょいMかもしれない。」
「ほらやっぱり先輩Mじゃないですか!私Sなんでお得ですよ!」
「すぐ付き合おうとするのやめろ。」
「やめません。付き合いたいですし。」
「押しが強過ぎんのよ。たまには引くことを覚えてくれ。」
「え〜。先輩ぼっちに逆戻りしちゃいますよ?」
「それはそうだけど……。」
「うわ〜寂しがってる〜!先輩可愛い〜!」
「別にそんなんじゃないから!てかそろそろ帰れ。」
「え〜。また明日来てもいいですか?」
「いやもう無断で来るな。」
「じゃあ事前に連絡しますね!じゃ、そういうことで!」
そういうとさっさと帰って行った。嵐みたいな奴だなほんと。あとで妹にめちゃくちゃ八つ当たりされた。いやなんでなん?反抗期さっさと終わってくれ。俺の心がもたないから。何も蹴ってくることないだろ。お兄ちゃん悲しいよ?
そして日曜日。
当然のように届く土屋からの「先輩家行っていいですか?」という連絡。当然「だめ。」と返す俺。「じゃあ遊びにいきましょ〜よ!」と来るが当然「嫌。」と返す。とりあえずもっかい寝よ。
そんで起きた時には連絡めっちゃ来てた。メンヘラ彼女か?怖っ。夕方なので風呂に入って夕食を摂る。その間も続く連絡の山。
[先輩無視ですか〜?]
[いやほんとずっと無視とか酷くないですか?]
[私なんか怒らせることしちゃいましたか?]
[悪いことしたのなら謝りますから無視しないでくださいよ〜]
[なんかごめんなさい。]
[そうですよね。こんなに連絡して迷惑ですよね。]
[今後は控えます。本当にごめんなさい。]
なんか勘違いさせちゃってる気がしてきてとりあえず怒ってないことは伝える。
[別に寝てただけだから。怒ってないからそんな謝らなくてもいいからな。]
[でも嫌って言ってたのに連絡し続けたのは私ですし、本当にごめんなさい。]
[本当に大丈夫だから。気にすんなって。お前らしくないぞ。]
[私らしいってなんですかね。元々の私暗いですしこんなもんですよ。今まで迷惑かけてごめんなさい。]
あー逆に面倒臭い感じになり始めたぞ。
こいつでもネガティブモード入ることあるんだなとか思いつつ明日からどう接しようか悩んで返信も忘れて眠りについた。
月曜日。もちろん登校日だ。
何故だか昨日のことがやけに気にかかる。あいにくの雨で心なしか気持ちも沈んでしまう。
俺が駅に着いても土屋はいなかった。仕方ないし一人で登校する。昼休みになっても迎えに来ることはなくてあれ、これほんとに俺がやらかしたやつかなんて思っていると例のあいつが近寄ってきた。名前なんだっけ。
「おうお前今日は彼女いねーのな。そういう態度だから嫌われたんじゃね?」
「お前に関係ないだろ。」
「わーキレてる〜!図星かよ!ざまあwwww」
「うっせぇな。」
こいつのことは無視して購買に行って久々にパンを買う。土屋今日は来てないのかな?なんだか気になって探してしまうが購買にもいつもの席にもいなかった。
まあ俺は元々ぼっちだしいつも通りに戻っただけだと言い聞かせて階段の上でパンを齧る。くそ、味もわかんねーし食べた気がしないな。それもこれも土屋のせいだ。部活に来たら文句言ってやろと思いつつ昼休みも終わった。外の雨は強くなるばかりだった。
放課後部室へ向かう。やけに足取りが重く感じた。もしいなかったら俺はどうすればいいんだろう。確かに冷たい対応ばかりしてきたのは俺なのだから嫌われても当然だろうしでもあのあそこまで執拗に着いてきた土屋がこんな簡単に諦めるのか?なんて思ってしまう。いや、俺がそう思いたいだけかもしれない。たった数日だけど土屋の存在が大きかったことに気付かされる。次期部長なんだからしっかりしないと、と自分に喝を入れて扉を開ける。
土屋はいなかった。
「杉田くんこんちゃー!」
「あー次期部長こんちわです!」
「こんにちは杉田先輩……。」
「あ、ああ。」
みんなの挨拶をうわの空で返すと席についた。
きっと遅れてるだけだと言い聞かせるがこんなに遅れるものなのか?昨日のことは関係なく普通に友達と遊びに行っただけだったりして。自分に都合のいい想像ばかり浮かんできてはそれらを消し去る。やっぱり気にしてんじゃねーか俺。
部長が近寄ってきて一言、
「あのね、土屋ちゃんもう来ないってさ。せっかく楽しい部活になるかなーって思ってたのに残念だよね〜。」
……は?どういうことだ。
「今朝会った時に部活辞めるって言ってきたんだよね。私も必死に説得したんだけどね……?やっぱり杉田くんからも説得してくれないかな?だめかな?」
いつもみたいに手を握ってお願いしてくる部長をよそに俺は呆然としていた。嫌われたんなら仕方ないし切り替えなきゃなんだけど土曜日あんなに積極的だった土屋が一日でこんなに変わるものなのかが腑に落ちなくて。確かに昨日の連絡では謝りまくってたけど。あれほど気にするなって言ったのに土屋のやつ思いっきり気にしてんじゃねーか。俺はどうすればいいんだろうな。
「それが土屋とちょっと色々あって説得できるかはわからないです。すみません部長。」
「そっか。でも次期部長は君なんだからしっかりね!これ以上部員が減るようなことしちゃだめだからね!土屋ちゃんともちゃんと仲直りするんだよ?じゃまたね〜!」
部長が去っても俺の頭の中はこんがらがってしまっていて部活どころじゃなかった。
そうだ、土屋のクラスに行けば何かわかるかも……いや、土屋のクラス知らねーわ。こんだけ一緒に話しててクラスさえ知らないんだ俺は。
無力さが込み上げてきて読んでる本の中身なんか一切頭に入ってこなかった。一応携帯で連絡はしてみたものの既読もつかなかった。ブロックされてんのかな俺。
そうだよな、高校デビューとか言ってたけど本当の土屋は自分に自信がなくて人から嫌われるのが怖いっていつも言ってたオドオドしたやつだったもんな。全部俺のせいじゃねーか。クソが。
非情にも時間だけが過ぎていき下校時刻になった。部室を出ると遠くで行ったり来たりしてる土屋がいた。今を逃せばもうチャンスはない気がして俺は走って土屋の元に駆けつけた。
「土屋!」
「え、先輩……?」
逃げようとする土屋を捕まえる。
「離してください!私が迷惑ばっかかけたから先輩に嫌な思いさせちゃって、私先輩にそんな思いさせるくらいなら先輩の前から消えますから……!」
「だから聞けって!俺は嫌な思いなんてしてないし土屋といられて毎日楽しかったんだよ!今日いなくてどんだけ心配したと思ってんだよ!」
「でも先輩いつも嫌そうにしてたじゃないですか!」
「それは照れ隠しで本当に嫌なら最初から無視してるっての!」
土屋の抵抗が止まる。廊下に立ち尽くす二人。
「……先輩は私のこと嫌いじゃないんですか?」
「嫌いなんかじゃねーよ。」
「……先輩は私がしてること迷惑じゃないんですか?」
「迷惑なんかじゃねーよ。」
「……じゃあまだ一緒にいてもいいんですか?」
「居てくれよ。お前がいないとなんていうか調子が狂うんだよ。」
「先輩……先輩のバカ!」
土屋は泣いていた。可愛い顔に似合わず周りも気にせずボロボロと涙を流しながら俺を見ていた。
俺は土屋が泣き止むまで頭を撫で続けた。
しばらくして泣き止んだ土屋が聞いてくる。
「……本当に嫌じゃないんですか?」
「昔も言ったろ。俺は嫌な時は嫌って言うタイプだって。」
「こんな私のことなんか嫌なんだと思ってました。」
「嫌なら一緒に食事したり話したりしないわ。」
「……改めて昨日はごめんなさい。」
「だから気にすんなって送ったろ。本当に寝てただけだからな。信じてくれ。」
「毎日うざい後輩でごめんなさい。」
「お前元々そういうキャラじゃないし精一杯頑張ってたんだろ?」
「それはそうですけど……。」
「前に言ってた高校デビュー、すればいいじゃねーか。昔も言ったけどお前には笑顔の方が似合ってんだよ。」
「今だけは笑えませんよ……。」
「それでも逃げずにいてくれてありがとな。」
「それは先輩がそんなこと言うから……。」
「下ネタは控えてくれると助かるけどな。」
「……今言うことですか?」
「でも少なくとも俺はここ数日お前と話してて初めてこの学校で楽しいと思えたんだよ。それは信じて欲しい。」
「いつも適当にあしらうくせに。」
「それは正直悪かったと思ってる。すまん。」
「私いつも傷ついてたんですからね?」
「今度からはなるべくちゃんと対応するからさ。」
「本当に?」
「ああ、約束するから。だから部活も辞めないで欲しい。」
「先輩にそんなこと言われて断れるわけないじゃないですか。……ずるいですよ。」
「あと時々でいいから話してくれると嬉しい。」
「私が時々じゃ嫌です。」
「じゃあ沢山。飽きるまで話そう。」
「……!ずるいですほんと先輩は。なんで先輩なんか好きになっちゃったんだろ。」
「あと、俺は人として土屋のこと好きだから。」
「でも付き合ってはくれないんですよね。」
「せめて一ヶ月はくれ。それは悪いと思ってるけど、けじめというか。」
「いいですよ。元々いつまででも待つつもりだったんで。昨日今日は先輩のこと諦めようと頑張ってましたけど。」
「……諦めないでくれてありがとな。」
「先輩のバカ。ほんとずるいですよ。そんなこと言われたら諦めきれなくなっちゃうじゃないですか!」
「すまん。俺の悪いところだな。直すように頑張るからさ。」
「直さなくていいです。私が受け入れるんで。」
「……すまん。ありがとな。俺なんかと一緒にいてくれて。」
「なんかじゃないんです。大好きで大切で私の恩人なんです。むしろそういうとこ直してください。」
「俺も自分に自信ないからさ、土屋もそうだったろ?」
「今でもそうですけど。でも先輩は私だけじゃなくていろんな子を救ってたんですよ?中学の時の先輩はみんなの憧れでヒーローだったんです。そんな先輩が自信ないんなら誰が自信持てるんですか。」
「なんかそう聞くと恥ずかしくなるな。俺はできることをしただけだしさ、それで誰かのためになったんならよかったってくらいで、あの時もそこまで大それたこと考えてたわけじゃないんだよ本当は。」
「でも本当のことですよ?実際先輩に会いたくてこの学校選んだの私だけじゃないですし。」
「……え?嘘?」
「多分他の子からもアタックされると思いまして先を越されたくなくて頑張ってたんですよ?」
「そっか。それで初日からあんなグイグイ来てたわけか。理由はわかったよ。」
「てかもうみんな文芸部にいますし。」
「え!?まじで?だからかあんなに部長即決したの。」
「そうですよ。みんなはライバルですけど友達だし先輩が他の誰かを選んでも私は受け入れますけど、やっぱり諦めきれないっていうか最初種田ちゃんたちの名前の方が先に出た時も悔しかったですしこんなに頑張ってキャラチェンとかしたんですから少しくらい先輩のそばにいたかったんです。無理矢理でごめんなさい。」
「別にいいっての。すぐ謝る癖やめろって昔も言っただろ?ごめんなさいよりありがとうって言った方がコミュニケーションは上手くいくって。」
「……ありがとう、ございます。」
「それでいいんだよそれで。明日からは元通りになってくれよ?」
「保証はできませんけど頑張ります……。」
「じゃあ帰るか。」
「……ですね。」
俺からしたら一大事件だったがなんとか丸く収まって本当に良かった。ただこの一件で俺の中で土屋がどういう存在なのかはっきりしてしまった気がして胸が落ち着かない。なんだかそわそわする。
帰り道は二人していつもよりよそよそしくなってしまったが明日にはお互い戻ると信じて帰路についた。
翌日。
土屋はちゃんと駅で待っててくれた。
本当に昨日ありったけの勇気を出して良かった。あの時話しかけられなかったらきっとこの関係も終わっていただろうと思うと胸がチクチク痛む。俺はもう完全に土屋のことを意識している自覚があった。
失いそうになって初めて気づくなんて俺は馬鹿野郎だ本当に。俺も変わらなきゃ。あの土屋がこんなに勇気出して変わったんだから。次は俺の番だろうが。
そんなことを考えながら何気ない話をして一緒に登校する。昨日の雨もすっかり上がり4月の晴々とした空がまるで俺らの気持ちを代弁してるようだった。雨降って地固まるじゃないけどさ、そんな感じだったんだ。




