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元公爵家の長男は、意図せず国の重要機密を知る  作者: 感動する異世界恋愛が書きたかったのにどうしてこうなった
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1.没落貴族の長男

轟音と共に放たれた炎塊が、離れた場所にある木人形に命中する。

それと同時に女生徒達の歓声が耳に飛び込んできた。


『きゃージュリアン様、素敵!!』

『お付き合いされている女性はいるのかしら?もしいないなら私……』

『貴方では無理よ、あのミレーネ様ですら振り向かせる事は出来なかったのよ?』

『ミレーネ様でダメならば、ジュリアン様に釣り合う方はこの学園だと他には……』


俺にとっては見慣れた光景。演習場で魔術の練習をする時は決まってこうなる。

誰もがこの俺の魔術を、そして容姿を褒め称える。

色めき立つ女生徒達へ、軽く手を挙げて微笑む。

そんな俺の仕草を見て、より一層騒がしくなる演習場。

隣で魔術の練習をしていた、男子生徒の舌打ちが聞こえた。


『モテないからと言ってその態度は見苦しいと思うぞ』


そう言いながら、私は隣にいる男子生徒に侮蔑の眼差しを向ける。

この男の名は、シオン=オルファラン。オルファラン家は元公爵家であり、この国に住む者で知らぬ者はいない。

 誰もが侮蔑の眼差しで彼らを見る。なぜなら、オルファラン家はこの国で最も腰抜けの貴族だったからだ。


少し前に隣国クラリノルン皇国との間に戦争が起きた。あろうことか最後の当主の長男が、戦時中に逃亡したのだ。

当然ながら、このわが身可愛さの行動が、国王の逆鱗に触れた事は言うまでもない。爵位を剥奪され、先の戦争で活躍した一族が公爵と成り代わった。

この男は、確かその腰抜けの弟の息子だったはずだ。生まれも育ちも平民、視界に入る事すら不愉快だ。


平民まで成り下がったにも関わらず、幼馴染の公爵令嬢のおかげでこの誉れ高き魔術学園に通う事を許されているらしい。

大した実力もないくせに嫉妬だけは一人前、どうしようもないクズだ。そんな彼には幼馴染の彼女は本当にお似合いである。


 公爵家令嬢、クリス=イルレフォン。高い地位にありながら、未だに婚約者すらいない醜い容姿の女だ。顔全体に吹き出物があり、手入れを怠ったせいか凹凸が凄まじい。体形も貧相極まりない。

 そして何よりも不快なのが、いつも演習場で俺に色目を使ってくる事だ。この女は自分の姿を鏡で見た事があるのだろうか?

 地位があるだけに、演習場を出禁にする事こそ出来ないが、あの顔を見るだけで集中力が著しく下がっている。

俺の演習に支障が出ているのはこの学園にとっても損失だろうから、今度理事長の娘のユーシア様に相談してみよう。

 ついでに適当な理由をつけて、シオンも出禁にしてもらおう。そんな考えを巡らせて、俺は演習場を後にした。





「……きて。シオ………….。もう、シオンてば。いい加減起きてって言ってるでしょ!!」

 「うわぁぁぁぁ……って、なんだよクリスか…….」


人が気持ちよく寝ていたのに、無遠慮に耳元で大声を出すのは止めてほしい。


 「なんだ、じゃないわ!!約束の時間がとっくに過ぎてたから迎えに来たのに、まだ寝ているとか信じられない」

 「もうそんな時間か?悪い、ちょっと学園での件が気になったから覗いてた」

 「演習場の事?あのナルシスト、気持ち悪い笑みを浮かべていたわね。それでどうだったの?」


 魔術は、攻撃系とその他に分類される。得意な系統というのは存在するものの、適性がないからと言って全く使えないわけではない。

とは言え残念なことに、俺には攻撃系の魔術に適正はなく、その他に分類される魔術に適性があった。

過去の出来事を自分以外の視点から回想できる魔術、俺は回想魔術と呼んでいるのだが、クリスが言うには悪趣味魔術との事だ。

 もう少し言い方に気を使って欲しいと思うが、俺自身も思い当たる節があるので強く言うことが出来ない。


 「俺とクリスを演習場から出禁にしたいんだとさ。あと、クリスの容姿が醜いってさ」

 「あんな男に容姿を否定されるのは腹立たしいけど、学園での私はそうなるわね。どう思われようと別に悔しくもないけど……」


 そう言いながらも、髪の先っぽを指でクルクル回している彼女。これは気にしている時の仕草だ。

 俺は彼女を引き寄せ、その綺麗な金色の髪に指を通す。


 「クリスは可愛いんだから、気にするなって。それともあんな男に良く思われたいのか?」

 「なっ!?バ、バカじゃないの!?べ、別にあんな男にどう思われようが気にしな……ん?シオン、今……私の事可愛いって……」


 既に何度も言っている事なのだが、その度にクリスの顔は真っ赤になる。まあ、そんな事を言うのは、両親と俺とあの女ぐらいだろうから言われ慣れてないのだろう。


 「そりゃそうだろ。でもあんな奴にバカにされるのは不愉快だよな。なぁ、そろそろ変幻魔術使うの止めないか?」

 「それは絶対ダメ!!」


 彼女は物心ついた頃から、本当の姿を人目に晒さなくなった。俺の変幻魔術で他人から好ましく思われない容姿に見えるように偽装しているのだ。

 幼馴染という贔屓目なしに、本来のクリスは容姿端麗だ。母親譲りの金糸の様な髪、父親譲りの優し気なブルーの瞳。


 欠点を挙げるとするならば言葉使いが悪いところなのだが、外向きには公爵令嬢としての礼儀を弁えている(本人談)との事なので、ここについては俺がとやかくいう事ではないのだろう。


 貴族の令嬢が学園在学中もしくは卒業と同時に結婚する事を考えると、婚約者が居ないというのは問題だと思うのだが、何故かクリスの両親は娘の行動を注意しない。

 結婚せずにやりたい事でもあるのだろうか?これまで何度か尋ねた事はあるが、顔を赤くして狼狽えるばかりで、真相は不明のままだ。


「あの男が余計な事を言い出す前に、お姉様にお伝えしないといけないわね」

 「うーん、別に俺達から何か言わなくても上手いことやってくれそうな気もするけどな……」


 クリスが姉と慕うユーシア=ストライトは、クリスの本当の姿を知っている数少ない人物だ。

公爵家令嬢にして俺が通う魔術学園理事長の孫。肩口で切り揃えられた銀髪、切れ長の赤い瞳。パッと見は怖い印象にも思える容姿だが、罵ってほしいとか訳の分からない事を言う一部の男どもに人気があるらしい。

 俺も旧知の仲ではあるのだが、選民意識の高い彼女とはとても相性が悪い。

 「どうにかあの男を学園から追放できないかしら。シオン、何か妙案はないの?」

 無茶を言わないで欲しい。穏便に世を渡るなら、事なかれ主義が一番だ。この好戦的な性格は一体誰に似たのだろう......


 「さて、少し遅くなったけど買い物に行きましょうか」

 「へいへい、仰せのままにお嬢様」

お目汚し失礼いたしました。3話構成ですので最後までお付き合いいただけると幸いです。

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