70・注目の判定
「見解が一致しているのは、加害者が魔術を使って雷撃を発現したことだな」
リタさんとユリウス殿下が同時に頷く。
「つまり魔術で雷撃を発現した人物はまだ、放出しきれなかった雷を多少なりとも身体に残しているだろう」
周囲の視線が、身体中に小さな稲妻を走らせているユリウス殿下に集まる。
「聖国の王太子は多少でなく、見て明らかなほど雷をまとっているようだが」
ディルの指摘に、ユリウス殿下の背中がぎくりと跳ねた。
「お、俺のこの姿は……そ、そうだ! つまり、その……髪の毛が立ち上がっているのは静電気ではない。身体がパチパチ言っているのも雷撃の残りではない!」
「認めないつもりか」
「これはテセルニア聖国で大流行中の、最先端ファッションだ! どうだ、しゃれてるだろう? くり返すが、身体に魔力を戻しきれなかったせいで、雷が溢れているわけではない。だいたい王太子を疑うなんて、ありえない話だ! 侍女を攻撃したのはその白髪のメイドだ! 俺の言葉に、人間性に、生きざまに偽りはないと、聖なる教会に誓おう!!」
「ではこれから判じることにする」
「判じる!?」
なぜかユリウス殿下は目を剥いて驚いているけれど、ディルは淡々とした様子で頷いた。
「帝国の初等科の魔術書にも載っていることだ。雷撃魔術を使ったあとは水に……例えば雨に濡れると感電の危険がある。大事故につながる恐れもあるため、雷撃を扱う場合は気を付けなければならない」
ディルが視線を古井戸に向ける。
彼は浮遊魔術を使って、そこからバケツに抱えるほどの大粒の水の塊を空中に浮かせた。
水はスライムのような形を保ちながらふよふよ宙を飛んで、ユリウス殿下の頭上あたりで止まる。
「なっ、なにをするつもりだ!!」
「誰が見てもわかる、簡単な実験だ。水を浴びてなにも起こらなければ、魔力に雷撃が含まれていない。つまり無実が証明される。感電すれば、発現させた雷撃が体内に残っている。つまり有罪だ」
「待て待て待て! 感電は痛いだろう!」
「ああ、痛いな。もし身体に雷撃が溢れているのなら、全身が無残に焼け焦げるほどの激痛だ」
「死ぬのか!?」
「その方が楽だろうが、うまくいくかはわからない」
「まっ、待て!! 俺は紳士だから、レディファーストだ。先に水を浴びる権利をレナーテに譲ろう!!」
「王太子、もう一度だけ聞く。お前はレナを陥れ、自分が侍女に雷撃で攻撃した加害者だと認めるのか?」
「だから違う! 俺はやっていない! すべてレナーテが仕組んだことだ!!」
水の塊がユリウス殿下の頭上で弾ける。
降り注ぐ水の塊を見上げながら、全身からバチバチ雷を弾かせているユリウス殿下は絶叫した。
「うわああああっ!!」
彼は降ってきた水の塊を顔面で受けると、その水量に押されて仰向けになって倒れる。
ディルの背後に控えていたハーロルトさんが駆け寄った。
そしてずぶ濡れのまま動かないユリウス殿下を確認する。
「陛下、聖国の王太子殿下は……」
「白目を剥いて気絶しているな」
「ええ、感電していないようです」
集まっていた人々は、信じがたい様子で互いに顔を見合わせている。
「間違いなく水を浴びたというのに、感電していないだと?」
「魔帝陛下は一体なにを……いや、王太子をどうするつもりだ!?」




