63・案内
少し気の弱そうな令嬢はリタと名乗った。
「あなたはテセルニア聖国の聖女様ですよね?」
数年前にガラの毒に侵されたリタさんは、助けを求めて大聖堂にたどり着いたころには、かなり衰弱していたらしい。
「私の意識は朦朧としていましたが、白い髪と赤い瞳の聖女様が祈ってくださると身体が楽になり、一命を取り留めることができたんです。今は侍女のお仕事ができるほど健康です。本当にありがとうございました」
私は大聖堂で焚きしめられた香の影響で思考がぼんやりとしていたので、祈りをささげた人のことは細かくは覚えていなかった。
「元気になってよかったですね。でもごめんなさい。私はただのメイドなんです」
その言葉を信じたのかはわからない。
リタさんはそれ以上は聞かずに一礼すると、少し困ったような顔で目を伏せた。
「……人違いでしたか。そうとは知らずに追いかけたりして、申し訳ありません。でも、あの……」
「どうしました?」
「その……」
うつむいたまま口ごもるリタさんの視線の先には、メモ書きのようなものが握られていた。
そこに色々な鉱石の名が羅列されているのが見える。
「もしかしてリタさんは、皇城内で鉱石を購入する予定ですか?」
「えっ! どうしてそれを?」
「すみません。その紙に書かれている魔石の名前が見えました」
「魔石の名前……? 私は宝石だと言い付けられましたが」
「書かれているものは宝石に分類されることも多い魔石です。取り扱いは魔道具店ですよ」
「そうだったんですね。知らずに宝石店を巡るところでした」
「私の友人がよく利用する魔道具店は魔石の品ぞろえもいいんです。よろしければ一緒に行きませんか?」
リタさんはほっとしたように表情を緩める。
「ありがとうございます。今回はじめてラグガレド帝国に来たんです。街並みも皇城もとても広くて、ひとりでは不安でした」
「帝国にはおひとりでいらしたんですか?」
「いいえ。私は雇い主の付き添い侍女として来ました。先ほど宝石類の購入を命じられたのですが、魔術関係の知識はほとんどなくて……。名前だけでは魔石と判断できなかったので、教えていただけて助かりました」
私はリタさんとともに、イザベラとよく行くようになった魔道具店に向かう。
リタさんは私と一緒にメモを確認しながら、すべての魔石を見つけることができた。
「魔石もたくさんありますし、一緒に運んでもいいですか?」
「本当に、ここまで親切にしてくださるなんて……」
「気にしないでください。私が楽しいからしているだけです。こっちを運びますね」
彼女が希少な魔石を狙う者から襲われることがないように、念のため護衛も兼ねて荷物持ちをする。




