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54・どう見ても両想いだと

 慎重な陛下が自ら防音魔術を施している執務室は、恐ろしく静まり返りました。


 父親に暗殺者を送り込まれて返り討ちにしたときですら、平然としていたというのに。


 数々の縁談が持ち込まれても絶対零度の眼差しで興味を示さなかったあの陛下が、はじめて見るほど深刻な様子で言葉を失っています。


 私などからすればどう見ても両想いだと思うのですが、やはり陛下は自分に向けられる好意に鈍いようです。


 長い白髪をひとつに結ったレナ嬢はときおり執務室にやって来て、陛下の身の回りのお世話をしたり、ハーブティーを淹れています。


 魔帝を見つめる彼女の眼差しは恐れるどころか思いやりに溢れていて、深い愛情すら感じられました。


 まるで衰弱した猫を助けたい一心で、栄養のあるミルクを与えて喜んでいるような……ん?


 ともかく、陛下さえその気になれば、レナ嬢と結ばれることはありえない話ではありません。


 それに陛下は帝国の指導者として帝国に暮らす者、他者のことを気づかって自分のことを後回しにする癖があるので、レナ嬢に対しても動けなくなっているように思えるのです。


「いいですか。陛下が思いを伝えれば、レナ嬢も喜んでくれると私は踏んでいるのです。嫌がっているのならともかく、彼女にとっても幸せな話ならばよいのでしょう? もちろんそうなれば、帝国を支える側の私も大賛成ですよ!」


「……つまり俺がその提案にのれば、レナは幸せになるし、帝国のためにもなると?」


「はい」


 この大作戦が成功すれば、レナ嬢や帝国の民……いえ、私はもちろんのこと陛下や皇城に仕える者たち、誰にとっても喜ばしいことです。


「彼女がいてくだされば、帝国はますます住みよい場所になることは間違いありません。しかし私は陛下のことも忘れていませんよ。あなたが魔帝として振る舞い、常に気を張られていることは存じております。しかし幼いころから帝国と民に仕えてきた陛下にも、安らぐ場所が必要だと思っていました。そこにレナ嬢が現れたのです」


「やはり本音は俺への配慮か」


「それだけではありません。しかし陛下はレナ嬢のためになる、帝国民のためになるとまで言わなければ、自分のことなどそっちのけですから」


 陛下は私の命の恩人。


 父の罪により極刑を受けるはずだった私は陛下によって救われ、今も生きているのですから。


 世界中で私だけは、助けられた命で恩人に尽くしたいと、心から願っていることは本当です。


「それに私が皇城内で見聞きした限り、レナ嬢の才覚はもちろん、分け隔てなく接する人柄も好まれているようです。彼女さえ望んでくれれば、帝国にとっても望むべき御方です。おそらく陛下にとっても……そうですね?」





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