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33・ほしいもの

「そういえばみんな、近々行われる建国祭のことを話題にしていたよ。建国祭って、帝国の人も楽しみにしている盛大なお祝いなんだろうね」


「ああ。皇城一帯の敷地が開放されて、出店や催し物もあるからな」


 白猫を見にきていた人たちも、遠方にいる家族や友人がやってくることを嬉しそうに話していた。


 他にも帝都にある実家のおみやげ屋さんが建国祭で繁盛することや、給仕中に他国の貴族に見初められたメイドの噂で盛り上がっている人たちもいた。


 みんなが建国祭を心置きなく楽しみにできるのは、ディルが魔帝として君臨することで、国を平和で豊かにし続けてきた結果なんだろうな。


「建国祭で、ディルはなにをするの?」


「式典もあるが、それは時間にするとわずかだ。その後は各国からの賓客たちに、パーティー形式で祝祭を楽しんでもらう。俺の力を値踏みする者がいる場合は、戦意を挫いておく」


「帝国の脅威を伝えつつも、豊かさでもてなすということね」


「ああ。建国祭の規模も年々大きくなっていて、毎年心待ちにしている賓客も増えているようだ」


「ディルの目論見通りだね。大部分の人たちは帝国を恐れつつも、敵対するより協力関係になれたほうがいいって気づいてるみたい」


「それがこれからも続けばいいが……」


 その一心でディルは仲間と知恵を出し合ったり、魔帝の影武者を配備しているんだろうけど。


 ときおり出てくる魔帝の力を疑う無礼者を戦慄させるためには、彼のごまかしのない実力で対面する必要があるのかもしれない。


「だからその日だけは望まれても、従僕としてレナに付き添うことが難しい。一年に一度のわがままを、どうか許してほしい」


「もちろん。争いで苦しむ人をつくらないためだもの。わがままだなんて思わないよ」


 ただ気になるのは、今のディルからほとんど魂が抜けていることだ。


 でも彼は恐ろしい魔帝のイメージを守るために、その不調を隠し通すつもりだろう。


 だから建国祭でもいつも通り怖ろしい魔帝としてふるまい、帝国と争おうと考える者の感情を削がせるつもりなんだろうけど。


 今の状態で無理をするようなことになれば、薄れた魂が危険にさらされる可能性だってある。


 本来なら私が白猫になってくっついていれば安心だけど、それでは猫帝になって完全に威厳が薄れてしまうし……。


 帝都の夜景を見下ろしていると、ディルは私の頬をそっと撫でた。


「俺のことは気にせず、レナも建国祭を楽しむといい」


「私が?」


「ああ。せっかくだから皇城見物を楽しんだり、ほしい物でも買えば国内の経済も回るだろう。レナに必要なものがあれば用意するから、遠慮せず言ってくれ」


「本当? ちょうど私、ほしいものがあったの。あのね……」


 嫌がられるかもしれないと思って控えめに囁くと、ディルは首をかしげる。


「しかし、それは……」


「ダメだった?」


「そうではない。俺は構わないが、一体なにを企んでいる?」


 どこか楽しげに微笑んでいるディルに、私もつられて笑った。


「もちろん。私がしたいことをするんだよ」










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