27・彼の一面
贅沢な食事を終えた私は猫の姿になって、大窓の縁に飛び乗る。
ディルもそばまで来た。
「レナのほしいものは、その窓から見えるのか?」
皇城に来る途中、私が帝都を物珍しそうに見ていたことを覚えているらしい。
「ほしいのはこの窓の縁だよ」
「窓の縁?」
白猫の私は窓辺に座り、あたたかな斜陽に染まりゆく広大な帝都を見下ろした。
「ほら見て。こうして街の景色を一望すると、贅沢な気持ちになれるでしょう?」
「やはり、レナの望みはささやかなだな」
「そう? 魔帝の私室を自分の物にして帝都の風景を楽しむなんて、世界中で私だけしかできない特別なことなのに」
「気に入ったのなら、その窓の縁はレナの席にしよう。でも本当にそんなことでいいのか?」
「もちろん。あとはね、」
私がひょいと跳びはねると、ディルは当然のように受け止めてくれた。
「本当は私がディルを抱きあげたいんだけど」
「やめておくか」
「やっぱりそうだよね。でもこの場所、窓の縁より特等席かも。ほら、最高の眺望だよ」
私をしっかり抱いたまま、ディルは不思議そうに壮麗な都を見下ろしている。
「こんな風に街を眺めることなんて、今までなかった気がする」
「そうなの? 自分の国なのに」
「それは結果としてついて来ただけだ。俺は生まれたときから、力を得ることに憑りつかれていたから」
「……どうして?」
「どうしてだろうな。まともに眠れないほど、常に強さを渇望し続けている」
その気持ちなら、私にも覚えがある。
前世の悪役令嬢だったとき、私は寝る間も惜しんで魔術を習得し続けていた。
とある王子を魅了の呪術から守るために阻害魔術を学んだり。
フラグのために仕方なく階段から突き落とした令嬢を怪我させないため、浮遊魔術を覚えたり。
私がその術を習得できないために、他者を危険にさらすことは望んでいなかったから。
だから彼の膨大な魔力量と卓越された技術が、一体どれほどの執念と苦痛を伴って手に入れたのかと思うと、気が遠くなるようだった。
「そこまで強くなって、ディルは一体なにを望んでいたの?」
「わからない。ただ、そうせずにはいられなかった」
自分でもわからないほど、力を求め続けるなんて……。
理由もわからずに猫が苦手なようだったし、もしかしてカイの、前世の影響を受けているのかな。
でもどうして?
私を包む今の彼の雰囲気は穏やかで、そんな気配なんて微塵もないのに。
「力を求める理由はわからなくても、ディルが国内外のたくさんの人の生活を支えていることは間違いないよ」
「それは買いかぶりだ。俺はいつだって、自分が強くあることにしか興味がなかった。力を得て、他者を凌駕する存在になりたかっただけだ」
「ふふ。謙虚なのはディルらしいけれど……私に嘘をつくの?」
「? そんなつもりはないが」
「だけどあなた、優秀な仲間たちに命じて、冷酷な魔帝の噂を広めさせているでしょう」
私の指摘にディルは一瞬だけ言葉に詰まったけれど、すぐおもしろそうに微笑んだ。
「どうしてそう思う?」




