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24・魔帝の私室

「ヴァレリーちゃん! よい名ですね!」


 ハーロルトさんはディルがつけた私の白猫名を気に入ったらしく「ヴァレリーちゃん」「にゃーん」の、特に意味のないやりとりを三回ほど繰り返す。


 それから再び隠し通路を利用して、ディルの私室にたどり着いた。


 室内は十分すぎるほどの広さがある。


 選りすぐりの調度品がしつらえられていて、すっきりと洗練された佇まいをしていた。


 でも冷たい印象はなくて、大窓から届くやわらかな陽の光がほんのりあたたかい。


「落ち着く雰囲気というか……。世界中の富が集まる帝国の皇帝なのに、贅の限りを尽くしているとは程遠い私室だね」


「そういうのを期待している来客には、それ用の部屋を別に準備している。レナも欲しいものや不要なものがあれば、遠慮せずに言うといい。お前の望む部屋や物ならすべて用意する」


「私はここが一目で気に入ったよ。私のために用意してくれていたのかと思うくらい」


 前世の悪役令嬢だったときはイメージを保つため、それらしく豪華に見えるような部屋で暮らしていた。


 でも全然好みでもなかったし、そこで眠るのも落ち着かなかった。


 だからカイだけに自分の理想の部屋について話したことがあったけれど、それを覚えていたのかと錯覚してしまいそうなほど、ここは私の望んでいた空間に思える。


「あのね、ディル。どうして私の猫の名を、ヴァレリーにしたの?」 


「ふと浮かんだだけだが……問題でもあったのか」


「ヴァレリーは、私の前世の名前なの。それに出会ったときのディルは毒が回って朦朧としていたけど、あなたは私を見て迷わずその名を呼んだから……前世の記憶を取り戻したのかと思ったんだけど」


「いや。前世のことは覚えていないし、別に思い出したくもない。ただレナに会えたのがそいつの影響なら、それだけは感謝している」


 確かに前世の影響で記憶を失ったり、魂剥離になったり、色々大変だったもんね。


「もう少しだよ。前世の思いが満足すれば魂が戻ってきて、つらい不調に苦しむこともなくなるから」


「いや、レナの利用価値の話をしているわけではない。お前といるだけで、すべてを与えられている気がするのは事実だが」


 ディルは腕の中にいる私に頬を寄せてくる。


 このかわいい仕草には覚えがあった。


 私は肉球付きの手に思いを込めて、ディルの頬をぽんぽんと叩く。


「ふふ、わかってるよ。そろそろごはんがほしいこと」


「……」


 あれ、なぜだろう。


 ディルから送られてくる無言の視線から、私の返事に納得していないことが伝わってくる。


「念のため確認するが。もしかするとレナは今、俺が前世の猫だったころのように餌をねだっていると思っているのか?」


「え、お腹空いているでしょう?」


「……それはそうだが」


「ごはんが来たら、すぐ食べようね。ここには突然やって来たし、準備は少しかかるだろうけど」


 そう思ったけれど、ほどなくハーロルトさんは私たちが通ってきた隠し通路を利用して、二人分の食事を運んでくれた。


「本当にヴァレリーちゃんも、陛下と同じ食事でいいのですかにゃん?」


「にゃーん」


「ハーロルト、これからも俺の主の食事はそうしてくれ。ただヴァレリーは食事をする姿を基本的に見せたがらない。見たらどうなるか……わかるな?」






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