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21・見たことのない景色

 気付けばすでに帝都の中心地へ近づいている。


 わぁ。


 澄んだ青空の下に広がる景色を前に、私は心を奪われてしまった。


 シックな石造りの街には、レストランやブティックなどの洗練された外観が整然と並んでいる。


 舗装された広い道を大きな馬車が走り、行き交う人々の装いも華やかだった。


 ラグガレド帝国が私の暮らしていたテセルニア聖国より豊かだとはわかっていても、実際に来ると心が躍る。


 通りにはたくさんの人がいるし、猫の姿ではあまり不用意に話せない。


 耳を動かしながら、あちこちを見回して帝都観光を楽しんだ。


 あ、おいしそうなカフェがある。


 見たことのない魔術式馬車も走ってる。


 おいしそうなレストランがある。


 巨大な武器防具のお店だ。


 おいしそうなケーキ屋さんがある。


 私の様子に気づいて、ディルは名物レストランや観光名所、帝都ではやっている食べ物などを教えてくれた。


 恐ろしい魔帝の治める帝国といっても、帝都の雰囲気は活気があるし、街並みはきれいだし、様々な商品が溢れているし、食べ物もおいしそう。


 あとは窓から見晴らしのいい景色が見える場所に住めたら最高だけど。


 ディルって、どんなところに住んでいるんだろう。


「それで、ディルの家はこの近くなの?」


「ああ。あれだ」


 街路を歩きながら、ディルが顔を上げる。


 私は数階建ての建物が並ぶその先、青空にそびえる建造物に唖然とした。


 街の中心部に、威厳と壮麗さを兼ね備えた巨大な城がそびえている。


「この荘厳な建物は……世界遺産の要塞とか?」


「皇城だな」


「え」


 あまりにも規模が違いすぎて、ユリウス殿下がよく自慢していた王城が犬小屋サイズにしか思えない。


 ディルは慣れた様子で路地裏に入ると、古びた建物の陰にある隠し扉を利用して狭い道を進んだ。


「ここは?」


「隠し通路だ。迷宮のように入り組んでいて、知らずに入れば戻れなくなる」


 薄暗い道を振り返ると、その意味が真に迫ってくる。


 ついディルに身を寄せると、安心させるように背中を撫でてくれた。


 だけど自分の家に戻るだけなのに、どうしてこんな隠し通路を使うんだろう。


「ディルって皇城に住んでいるんだよね。こそこそ帰らないといけないなんて、悪いことでもしたの?」


「いや、仲間を困らせないためだ」


 そういえばディルの仲間は優秀だし、誰かが任務に欠けても問題が無いような仕組みを考えて改良し続けている、って言ってたけれど、それと関係あるのかもしれない。


「ディルのこと、ますますわからなくなってきたみたい」


「そうか?」


「だって皇城に住んでいて、魔術が使えて、剣技と筆記作業もできる人なんて、どこにでも配属できるんだもの」


「いや、その推測で合っている。俺の役割は、他の者に任せるのが難しいと言われているな」


 帝国にはたくさんの人がいるのに、ディルにしか任せられないこと……?


 ディルが通路の途中で止まり、壁をノックした。


 少し待つと壁が横にずれて開き、明るい光が差し込んでくる。


 扉の奥には上質な官服を身に包み、褐色の髪を後ろでひとつにまとめた、気品の漂う男性がいた。


 年齢的にディルのお父さんくらいだと思うけれど、家族はいないと言っていたし、仕事でいえば上司に当たる人なのかもしれない。


 でも男性はディルに向かって膝をつくと頭を垂れ、深々と敬意と恭順の意思を示した。





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