14・にゃんにゃんにゃー!
「にっ、にゃーん」
「ひいっ、やめろ!! 呪わしい鳴き声で牙を剥いて、俺を威嚇するな!」
突如、風が吹き抜けた。
風属性の魔術だ。
でも私じゃないってことは……。
ユリウス殿下は護衛たちとともに突風に揉まれ、小屋の外へ放り出される。
「な、なにをする!?」
ディルのいやに落ち着いた足音が、地べたに尻餅をついて後ずさるユリウス殿下へ近づいた。
「王太子、わかるだろう? 帰ったほうが身のためだ」
無感情な物言いに、ユリウス殿下は青ざめて体を震わせる。
「っ、うるさいっ! そうやって誤魔化して、レナーテを隠しているのか!? あいつが逃げられるところなんて、ここくらいしかないはずだ!!」
「それは勘違いだ。望みさえすれば、彼女はどこへでも行く」
「なに!? お前、レナーテのことを知って……」
私は大きく口を開くと、ありったけの心を込めて猫になりきった。
「にゃんにゃんにゃー!」
「うわあああっ!!」
ユリウス殿下は目を剥いて地べたに伏せると、あわれなほど真っ青な顔で震え上がった。
「獣語でおぞましい呪詛を吐くな! 見逃してくれえっ!!」
そして山の麓を転げ落ちるような勢いで、一目散に逃げていく。
「どうやらレナの鳴き声は、便利な虫よけになるらしい」
白猫の私はディルに撫でられながら、逃げゆくユリウス殿下を見送った。
「レナはあいつから逃げてたのか」
「逃げるというより、かくれんぼね」
「隠れている側にしては、鳴き方に勢いがあるな」
「それはディルの魔術もだよ」
それはユリウス殿下たちを小屋から追い出した、あの風魔術だけではない。
「殿下たちがなかなか帰らないからあなた、魔術で火炎を発現させて追い払おうとしたでしょう?」
しかも恐ろしいほどに練磨されていた。
「俺が魔術を発現させる前に、使おうとした魔術の種類や質まで判断できるのか? すごいな」
「驚いたのは私の方。あなたは昨日死にかけていたのに、あんな魔術を使おうとするなんて……体に負担がかかるとよくないよ。まだ療養中なのに」
「こうしていれば楽だから、すっかり忘れていた」
ディルは両腕で包んでいる白猫の私を、しっかりと抱きしめた。
やっぱり私にくっついていると、ディルの体調が安定している気がする。
記憶喪失になってしまっているから確認できないけれど、さっきの魔術の気配から考えると、ベルタさんのように名のある魔術師かもしれない。
ただ治療中に気づいた通り、手には硬い剣ダコとペンダコがあった。
魔術に、武術に、筆記作業もたくさんこなしている人……。
「ディルは一体何者なんだろうね」




