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因縁 71 天然女王

暑い夏となり、ミハエルはだらしない服装で、デューとヴィヴィアンナに、毎日怒られている。

シャツは第2ボタンまで開けられ、袖は肩まで捲られて、ズボンは膝上まで折り曲げていて、こんな大人も居るのか。とミシェールは少しだけ学習した。

侍女長は執事を睨んで、ミハエルがミシェールの視界に入らないようにと行動する。執事は仕事をしていない訳ではなく、朝にしっかり整えても、昼には気付いたらそうなっていたのだ。

恋人達がミハエルを説教するのは、気遣いなのだろうが、ミハエルの肌は彫刻のようで、ミシェールは気にして居なかった。

一応、恋人達には『大丈夫』と言っているが、ミシェールが遠慮していると、思っているようだ。

ミハエルは、ミシェールが平気なのを気付いているようで、説教をする二人を尻目に、ミシェールにウインクを送って、二人にさらに説教をされる。

あれはあれで楽しんでいるのだろうと、ミシェールは騒がしい大人を放っている。

エルバルトは、午後の勉強の前に、騎士見習いに混じって身体を動かすようになり、顔から幼さが抜けてきて、侍女達がこっそり嘆いたり、別の良さを見付けて悶たりしている。

ミシェールも他の場所でこっそり真似をしていた。

騎士見習いは十代前半の男の子ばかりなので、ミシェールが練習に加わると集中出来ないと、監督官の騎士に断られてしまったのだ。

それが何だか納得出来ず、練習を覗いて内容を後で真似していた。

こっそり練習の真似をしていると、デューや、騎士団長、副団長がたまに様子を見に来てくれて、こうしたら良いと助言をくれて、デューは一緒に練習をしてくれる時もある。

そしてシモンが、よく現れる。ミシェールと少し離れた場所で、自主練習をしているのだ。

シモンが初めてそこに来た時は、キレの良い動き、足の上がる高さ、しなやかな腕が風を切る音に、ミシェールはあんな風に動きたくなった。

真似をしようとすると、シモンがピタリと止まり、一つ一つをゆっくり丁寧に見せてくれて、野生の狼のような美しさに、髪の赤がとても似合っていて、あの赤を少しでも隠すのは勿体無い。とミシェールは渡した布を後悔していた。

確かに、ミシェールも、初めて見た赤に緊張した。

だが、それを嫌だと感じた事はない。

動いていると、赤い髪の間から、真剣な赤茶の目がチラリと見えて、狼に睨まれた小動物の気持ちが良く分かるのだ。

社交ダンスのような優美さはないが、生命の美しさに、ミシェールは感動していた。


今日もシモンは離れた場所で自主練習をしていた。

その動きに合わせて、ミシェールも真似て身体を動かす。

ふと、ミシェールは動きを止めて、シモンに近寄る。

それに気付き、シモンも動きを止め、明るい表情を見せた。

ミシェールは勿体無い事をした。と思いつつ、シモンの左腕を触ろうとして、一歩退かれた。

シモンの顔が少し赤くなる。

「ミシェール、様?」

「お怪我、されてますか?」

「いえ」

「見ても?」

即答され、ミシェールは目を細めた。

シモンが手をわたわたさせて言う。

「いや、そんな、ミシェール様、恥ずかしいです。デューさんほど、身体が出来てないですし、異性ですから」

「では、バルに見て貰います。あの子もまだ全然のようですから、参考になります」

「俺なんて見なくても、」

「シモンさん?」

ミシェールがゆっくりと言うと、シモンが両手で顔を覆ってしゃがんだ。

「ズルいです」

「何がでしょう?」

「大した怪我じゃないです。なので気になさらないで下さい」

顔を隠したまま言われ、ミシェールは静かに赤い後頭部を見る。

普段見上げる髪が、視線の下にあるのが、少し新鮮に見えた。

何故か撫でたくなったが、ミシェールは堪えて待つ。

ソロリと、シモンが見上げてきて、赤茶の目と視線が合ったので、再び言う。

「見せて下さい」

「面白くないですよ」

「兄が、どんな仕事をしているのか、確認したいだけです。兄には頼めません」

ミシェールのその言葉に、シモンが長く息を吐き、地面に直接座った。

左腕を袖から抜き、襟ぐりから外へと出され、左肩と腕が顕になった。肩から上腕部に、引きつったような新しい怪我の跡があった。

「大した怪我じゃないですよ。痛くなかったし、ちょこっとひっかけただけなんです。騎士ならこれくらい怪我に入らないです。もう血も出ません」

じぃと怪我を見られ、シモンは素肌を晒している事に、恥ずかしいのと、見せてはいけない物を見せている背徳感に、早口になっていた。

「脱いで貰えますか?」

ミハエルで慣らされて、ミシェールは、少し超えてはいけない所を見失っていた。

「さすがにマズいかと。ミシェール様はお嬢様ですから。デューさんに怒られます」

シモンが慌てて後退り、首を横に振る。

側には侍女と、護衛が一人ずつ控えているので、シモンがそちらに向かって無言で助けを求める。

侍女は良い顔をしてくるりと背を向け、騎士は大きく頷いて下を向いた。

裏切られた。と思った時、ヒヤリと冷たい物が左腕にあたり、シモンはそおっとそちらを見る。

ミシェールは真剣な目で、シモンの古傷を触っていた。

慌てて距離をとり、シモンは襟ぐりから腕を入れる。

「ミシェール様!今のは駄目です!」

「痛そうで」

「昔の傷なので、全然痛くありません!叩いても平気です!」

シモンの慌ててる様子に、ミシェールは少し冷静になった。

肘から手首に向かって大きな刀傷が痛々しく残っていて、気付いたら手が伸びていた。

令嬢だったら、はしたない事だと、後ろ指を刺された事を、ミシェールは無意識でしてしまい、自分自身に驚いていた。

シモンの腕には小さな傷跡が沢山あって、戦う人なのだと実感すると共に、どう戦うのだろう?と想像し、胸がザワザワした。嫌なのではなく、その姿を見てみたいと思った。

線は細いけど、その細さが余計に野生の狼のようで、浮かぶ汗も、傷跡さえも、野生さを感じて、大きな傷跡に痛くないのだろうか?と触りたくなって、実行してしまっていた。

表情に出なくて良かったと、ミシェールは自分の表情のなさに、ありがたく思った。

とんでもない恥ずかしい事をしたと、心の中では猛省していて、穴があったら入りたいくらいだ。

「痛くないのなら良かったです」

しれっと言い訳を言い、ミシェールは頭を下げる。

「お怪我を見せて頂きありがとうございます。勉強になりました」

「お役に立てたなら、良かったです。はい」

呆然と返したシモンに、一度礼をし、ミシェールはその場を離れた。

「あの、秘密にして下さい。あのようなはしたない事、知られたくなくて」

離れた場所で小さな声でミシェールに請われ、侍女は微笑み、

「私は何も見ておりません」

「害虫に気を取られておりました。申し訳ない」

護衛騎士は生真面目な顔で頭を下げた。

ここの話が

なんでこうなった?!と(・o・;)


ミシェールにこんな奇行させるつもりなかった筈

出来上がったらこうなってて、

自分を律してきたミシェールが

思わず動いたてのは意味があると思って、

奇行は残しました。

初期構想では、クールでツンツンなお嬢さんの筈だった。


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