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因縁 69 お姉様

一度目を伏せてから、ミシェールは落ち着いて口を開く。

「フィビーに、会えますか?」

「良いですよ!行きましょう!」

横に立ち、明るく笑うシモン。

護衛としては、失格だろう。と言いたいが、ミシェールは指摘せずに歩く。

犬のフィビーは、雨の日は馬の厩舎に居る。

フィビーは人が来た事を察知して、尻尾をぶんぶんと振っていた。

「フィビーもミシェールお嬢様が好きなんだな」

シモンは笑いながらフィビーを撫で、ミシェールの視線に気付き顔を赤らめる。

「あ。屋敷の皆、ミシェールお嬢様と、エルバルト坊ちゃまが好きなんです。毎晩、翌日の世話係の争奪戦なんですよ!」

「ありがとうございます」

「いえ」

顔を伏せて退いたシモンに代わり、ミシェールはフィビーを撫でる。サラサラな毛が少しだけ引っ掛かりがあった。

「雨続きでつまらないわね」

「いえ。こいつは喜んで出て行ってしまうので、厩舎に閉じ込めるしかないんです」

何となく口にしたミシェールに、言ってシモンは笑ってから続ける。

「少しでも水溜りを見付けたら寝転がるので、洗うのが大変なんです」

「それは、大変そう」

修道院仲間の男の子達も、水溜りが好きで、泥だらけになってナンジーが悲鳴を上げていた事を、ミシェールは思い出した。

「雨の音は楽しいので、俺は好きです。ミシェールお嬢様は?」

「分からないわ。小雨の音は優しいと思うけど」

シモンが楽しそうに手を一度叩く。

「小雨良いですね!養護院時代に身体を洗うのに使ってました」

「雨で?」

「湯舟に浸かる事が稀だったので、小雨が降ると皆で外に出てました」

過酷だっただろう過去を、シモンは明るく語る。

「それに、雨の音に合わせて、皆で適当に歌うんです。外で遊べないし、本は少ないのでやることがなくて、歌うしかなかったのですが、なんか楽しかったです」

「どんな歌でしたか?」

「決まった歌じゃないんです。いつも適当な歌詞で、喧嘩してるやつらは悪口言い合ってたり、謝ったり、ご飯がマズかったとか、あれ食べたいとか、金持ちになるて言ってたやつも居ましたよ」

シモンが思い出したように笑ったので、ミシェールはそれを想像してみた。

修道院の賑やかな男の子達を思い出したら案外簡単だった。過酷な状況でも、笑っていられたのは、その養護院は貧しいながらも良い環境だったとも想像出来て、ミシェールは興味が出てきた。

「楽しそうですね。見てみたいです」

「えー?狭いし汚いですよ?うるさいだけですし」

シモンが目を見開いて驚いた後、楽しげに近くの馬を撫でる。

ミシェールも犬のフィビーを撫でた後に、馬を一頭一頭撫でて周り、気付いたらお茶の時間がとっくに過ぎていた。

部屋に戻る事にし、ミシェールが厩舎を出ようとすると、シモンが明るく笑う。

「ミシェールお嬢様が元気になられて良かったです」

「え?」

ミシェールが驚いてそちらを見ると、シモンが赤い髪を掻いている。

「勘違いだったならすみません。なんとなく元気なさそう見えたのです」

「ご心配、ありがとうございます」

「いえ。お役に立てるだけで幸せです」

シモンの笑顔が眩しくて見ていられなくなり、ミシェールは部屋へと少し足早に向かう。

シモンが、後を着いて歩き言う。

「楽しそうだと、見てみたいと言って貰えて嬉しかったです。元見習い仲間には、不幸自慢かよと笑われたので」

その言葉に、ミシェールは見知らぬ相手に不愉快な気持ちになった。

「私は、素敵だと思いました。大変だった事を楽しんでらっしゃる貴方方が。貴方のように生きられたのなら、違う人生だったのかも知れません。野外で過ごした日の事とか、差し支えなければ、今度聞かせて下さい」

「はい。喜んで」

シモンの嬉しそうな声に、ミシェールの不愉快な気持ちが晴れた。


ミシェールが客室に戻れば、トレーは片付けられていて、デューは部屋におらず、侍女長がヴィヴィアンナの側に控えていた。

侍女長は一度、外と話して、ドアを閉めてドア脇に佇む。

ヴィヴィアンナは座って窓際でレースを編んでいて、ミシェールを見ると小さく謝罪を口にした。

綺麗に塗り直されたそれに、ミシェールは少しだけ安堵し、首を横に振る。

邪魔をしてしまったのかも知れない。と思うと、ミシェールの胸が痛む。

ここはミシェールとエルバルトの部屋だが、恋人でいられる時間が少ない二人を邪魔するのは、なんだか悪い事をしてしまった気分になった。

何も知らぬ歳でもなし、と自身に言い聞かせ、ミシェールはヴィヴィアンナに歩み寄る。

「お邪魔してすみません」

「貴女が謝る事じゃないでしょ?私が悪かったのよ。侍女長に叱られたわ」

「脱いだから、ですか?」

編み棒を出窓に置いたヴィヴィアンナに、小さな声でミシェールが問えば、彼女はその口を柔らかく覆う。

「キスを長くしてしまっただけ」

ヴィヴィアンナに口を封じられ、ミシェールはコクコクと頷いた。

「とはいえ、考えなしだったわ。ごめんなさい」

謝罪にミシェールが首を横に振り、口が開放された。

「ヴィア様、」

ぎゅっとミシェールはヴィヴィアンナの手を握った。

『お姉様』じゃない事に、ヴィヴィアンナが眉を下げて、首を傾げた。

「まだ、私達のお姉様でいてくれますか?」

「当たり前じゃない!ヴィア様なんて寂しいわ。嫌いになってしまったの?」

椅子から転がるように降り、ヴィヴィアンナは床に膝を着いてミシェールを見た。

ミシェールは小さく首を横に振る。

「お姉様でなくなった気がしたのです」

「そんな心配をさせてしまったのね」

言って、ヴィヴィアンナは頬、額、鼻と口付けをした。

「日々、シェリーとバルを愛しいと思ってるわ。仕事で会えない時間が、凄く長く感じてしまうのよ」

「兄の、次に?」

「可愛らしい事を言ってくれるのね。デューが居なければ、貴方達とは会えなかったもの。どちらも大事よ。デューだって、私も二人も大事に思ってくれてるわ」

ミシェールを柔らかく抱き締め、ヴィヴィアンナはゆっくりその背中を撫でた。

「要らないと、言われるかと、」

「お馬鹿さんね。そんなに心配なら、もっと愛してるて言って、口付けも沢山して、お揃いの服も作って、お菓子も一緒に作って、お出かけもして、沢山、沢山してあげる」

「服は要りません」

「まあ。困った子」

楽しそうに笑い、ヴィヴィアンナがミシェールを抱き締める。

「要らないなんて、勿体無い事言えないわ。分かってて?今貴方達は、私とミル様に口説かれてる最中なのよ。要らないと言われるなら私とミル様だわ」

「お姉様に、そんな事言いません」

「あら、じゃあ返事は期待出来るわね」

ミシェールの髪を撫で、ヴィヴィアンナは立ち上がる。

侍女がいつの間にか部屋に居て、机にはティーカップが2客、侍女は新しいティーポットを持って待っていた。

「お茶で少しお身体をお温め下さい」

侍女長が、椅子を引きミシェールを見る。

「さあ、愛しいシェリー、一緒にお茶をしましょ」

ヴィヴィアンナに誘われ、ミシェールは小さく頷いた。

その夜、就寝の挨拶に来たデューが謝ろうとしたのを手で制し、ミシェールは静かに首を横に振ってから、頷く事で応えた。

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