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因縁 67 甘え

仕込みが終わると、店主は表に開店を知らせる看板を掛ける。

ミハエルと執事は邪魔にならぬよう、厨房の裏にある庭から中を覗き、ミシェールとエルバルトの奮闘を見守った。

朝食は簡単な物で、小麦粥にスクランブルエッグを乗せた物だけだ。

店主が接客を担当し、二人は盛り付けと皿洗いをこなす。

朝の僅かな時間なので、椅子に座らずに掻き込むように食べる者が殆どで、客は次々と入れ替わり、洗い物が少しずつ溜まっていき、見兼ねて執事が手伝いに入り、なんとか朝食の一陣が過ぎると、二人とミハエル、執事の四人は裏庭で食事を摂る事になった。

お腹が空いているが、どうにも喉の通りが悪く、ミシェールとエルバルトはゆっくりと食べ、ミハエルと執事はそれに合わせてゆっくりと食べる。

「おいしゅうございます。お二人の料理を食べたと、他の者に自慢が出来ます」

執事が嬉しそうに溢し、ミハエルがおかしそうに笑う。

朝食の提供時間が終わると、店主は一度看板を仕舞う。

その間際に、雇用人の青年が食堂へと入ってきた。

こげ茶の短い髪にそばかすのある愛嬌のある顔の青年は、ミシェールとエルバルトの姿に目を瞬かせ、ミハエルの存在に目を大きくさせた。

二人が一日手伝いをするのだと店主から説明されると、青年はカクカクとぎこちなく頷き、エプロンを身に着けた。

一度店内を掃除し、椅子とテーブルを丁寧に拭き、昼食の仕込みを始める。

朝食の仕込みの時から煮込んでいるスープがあるので、あとはメインと付け合せの準備だけだ。

その間、護衛達が順番に朝食の残りを頂き、食べた後にミシェールとエルバルトにお礼を伝えてきた。

青年は魚のウロコを取り、丁寧に捌いていき、店主は一度、階上に様子を見に行き、安心した表情で降りてきて、裏庭に出て燻製肉の様子を確認をする。

昼食は魚と肉のメインが選べて、スープパスタ、温野菜がつく。

ミシェールとエルバルトは丁寧に野菜を洗い、指定された大きさに切り、蒸し器へと並べていく。

「ここで働いて欲しいくらいだ」

一息ついたのであろう、二人の様子を見た青年が、ミシェールを見て微笑みかけるも、その頭を店主が叩く。

「閣下の縁者の方に、なんて失礼な事を。明日には手伝いの者が到着しますので、どうぞ、ご安心下さい」

後半を裏庭に居るミハエルに向けて言い、店主が青年の背中を叩き、仕込みの続きを促した。

魚は香草を効かせたパン粉焼きになり、燻製肉はそれに合わせた特性ソースが添えられ提供された。

店主が厨房を担い、エルバルトは洗い物を任され、ミシェールは接客をする事になってしまった。

接客するには笑顔が要ると思っていたミシェールは不安だったが、来る客は誰も不愉快そうな顔をせず、『頑張って』と声をかけてくれる者までいた。

青年も接客を手伝うが、厨房にも入ったりとするので、ミシェールは目の回る思いで接客をこなした。

途中、怖い客も居たが、騎士が食堂へと入ってきて、無言で圧力をかけ、黙らせてくれた。

忙しい昼食の時間が終わると、残った食材で昼食を摂る事になった。

同席しようとした青年は食堂へと店主が連れて行き、裏庭で昼食を四人で食べる。

良い客ばかりであったから、何事もなかったが、怖い客が居る事を考えると、接客の仕事はかなりの能力が必要だと実感出来て、ミシェールは難しそうだと息を吐いた。

「ところで、今日は何の日なのですか?」

昼食が終わり、食堂の掃除は店主と青年がやるという事で、ミシェール達は裏庭でゆっくりとしていて、疑問だった事を聞いてみた。

髪を整えに来たヴィヴィアンナから、フリージアの匂いがし、二人を見送っていたデューが、例のループタイをしていて、眉を下げた表情をしながら、一度頭を下げたのだ。

この外出が、何か意味があるのだろうと、ミシェールは思っていた。

「大した日じゃない。あいつらの結婚記念日だ」

「大した日ですが」

肩を竦めたミハエルに、ミシェールは間髪入れずに突っ込んだ。大事な日だから、二人きりにしたいのは、ミシェールにも分かるが、せめてお祝いくらい言いたかったと、ミシェールが思っていると、エルバルトがバシバシと不服そうにテーブルを叩いている。

「そう怒るな。祝うのも大事だが、ミシェールとエルバルトが居たら、あいつらは気を使って二人きりになろうとしないだろ?これで良いんだ。大々的に祝える関係でもないしな」

悔しい事に反論出来ず、ミシェールとエルバルトは夕食の仕込みまで手伝い、居住階で夕食を頂いた。

夕食はお酒が提供されるので、客層が良いとは言え、絡まれる事もある。なので、近所の別の店から助っ人が来た為、二人は安心して食堂を去った。

城に戻れば、幸せそうな二人に出迎えられ、ミシェールは心が温かくなるのを感じながら、二人に祝いの言葉を送り、エルバルトは黒板に描いた薔薇を二人に見せた。


その4日後、二人の子供は勉強の時間を作って貰った。

毎日本を読んでいるが、本からの知識だけでは吸収出来ない事があり、二人がミハエルに希望を伝えると、ミハエルはすぐに講師の手配をしてくれたのだ。

ヴィヴィアンナの両親で、モントルア侯爵とその夫人が、話をしてから8日で来た。

会った日に、二人は夫妻に抱き締められ、頬に口付けをされ、夫妻はヴィヴィアンナが二人から『姉』と認められてるなら、自分達は『父上、母上』と呼んで欲しいと言ってきて、ミシェールは、ヴィヴィアンナはこの二人の元で育ったのだと、納得出来た。

侯爵のドルファンはエクレナールの歴史と領地毎の文化と数学、その夫人のアンナジョリーは文学とマナーとダンス。

ミハエルとヴィヴィアンナが仕事の間は、代わる代わる教えてくれて、デューが仕事の休日の日は、勉強が休みとなる。ヴィヴィアンナは仕事の合間に頻繁に子供に会いに来て、夫妻に呆れられていた。

夫妻は二人の客室から5つ離れた夫婦用の客室に泊まり、食事は食堂で一緒に食べていて、さらに食事は賑やかになった。アンナジョリーも娘と同じで、場を華やかに盛り上げるのだ。ミハエルは、その母と娘に苦笑を浮かべ、ドルファンは嬉しそうに何度も頷いていた。

ミシェールも強引に会話に参加させられていたが、楽しんでいて、エルバルトも楽しく会話に参加をした。

そして、夫妻の前では、ヴィヴィアンナは少し甘え気味で、夫妻も困ったように笑いながらも、甘やかしてる。

大人なのに親に甘えるのかと、ミシェールは驚いたが、夫妻は子供は大きくなっても子供なのだと笑った。

ミシェールは、自身の両親が誰かに甘えているのを見た記憶がない。父親は婿養子なので、アストリアでは甘えは許されなかっただろう。だが、伯父の優しさを考えれば、きっと良い家庭で育った事は想像出来た。

では母親は?と考える。見ていない場所ではあったのだろうか?と思ったが、厳しい祖母を思い出して、なかったかも知れないと思った。

小さなミシェールに対しても、甘える事を許さず、少しでも失敗すると、もう一度と静かに要求していた。

あの祖母に、母親が甘えられたとは思えなかった。

そして、祖父は家に居た記憶がない。葬儀でこんな顔をしていたのかの思ったくらいだ。

寂しい人だったのかも知れない。とミシェールは最近、母親を可哀相に思えてきた。

ドルファンとアンナジョリーを見ると、母親の所業で愛娘を苦しめたので、心苦しくなるのだが、夫妻はヴィヴィアンナを呼ぶ時と同じ様に、ミシェールとエルバルトを呼んでくれる。

深みのある包み込むような優しい声に、ミシェールは聞くたびに泣きたくなってしまった。

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