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因縁 66 報い

ミシェールは小屋まで乗って来た馬に乗せられ、デューがその手綱を引いて歩き、エルバルトはフィビーのリードを持った副団長に抱かれ、ミハエルはデューが乗って来たであろう馬に乗り、一行は馬に乗った騎士に囲まれながら、森の外まで辿り着いた。

そこで待機していた馬車に乗せられ、ミハエルとは別の馬車で大公城へと戻る事になった。

大公城では、正門の所に、ヴィヴィアンナが騎士団長と侍女長、使用人達、他の騎士達を連れて待っていて、馬車の扉が開いたと同時に、ヴィヴィアンナが泣きながら馬車の中に入ってきた。

「もう!心配したのよ!」

強く抱き締められ、二人は必死に抱き締め返す。

『お早いお戻りで安心しました』

馬車の外で、騎士団長の声がし、

『思ったより遅い発見だったな』

と皮肉げなミハエルの声がする。

『お子様方を連れて無茶をなさるなど、誰が思うでしょう?』

『団長。不敬を宜しいでしょうか?』

騎士団長の声に続き、デューの緊張した声が馬車に届く。

『閣下も分かっておいでだろ』

騎士団長の声の後に、ドス!と何か重く鈍い音。

『何考えてんだよ!二人に何かあったら、どうっ!!くそっ!』

珍しいデューの叫びと、乱暴な言葉遣いに、ミシェールとエルバルトは、ヴィヴィアンナの抱擁から抜け、側に居た騎士の手を借りて、慌てて馬車を下りる。

そこには、お腹をさするミハエルと、自身の右手の拳を左手で覆っているデューがいた。

「何かあったらと、思うのに!あんたが居るなら大丈夫だって、馬鹿みたいに信じて!だけど、心配は心配なんだ!だから、もう、こんな事、二度と、」

その場で膝をつき、地面に頭をこすりつけたデューに、ミハエルがゆっくり歩み寄る。

「子供を持つてな。そういう不安といつも隣り合わせだ。兄としての覚悟が足らないんじゃないのか?」

「あんたが、それを、言うか」

乱暴に撫でてくるミハエルに、デューが涙の混じった声で抗議をした所で、ミシェールとエルバルトは駆け寄り、デューを両側から抱き締める。

その側に、侍女長が歩み寄る。

「湯浴みをしてお身体を清めましょう。何かつままれますか?」


身綺麗になり、ポテトサラダとスープをお腹に収め、二人の客室の居間で、二人はゆっくりと息を吐いた。

ヴィヴィアンナはお茶を飲んでいて、侍女長がその目元をタオルで冷やしている。

泣きすぎて目が赤くなっているのだ。悲しませてしまった事に、申し訳なく思い、先ほど謝罪したところ、『今度から出掛ける時は必ず、直接伝えて頂戴』と涙声で返された。

ミハエルは『二人と出掛ける』と簡潔すぎる置手紙を残しただけで、いつ戻るとも、どこへ行くともなく、皆が心配していたと、侍女長が補足した。

暫くして、私服のデューが入ってきて、二人を順に柔らかく抱き締める。

予想よりも心配して、取り乱していた様子に、二人は自分達が予想するよりも大事にされているのだと実感し、この二人を心配させるような事はしたくない。と言葉はなくとも意見が一致していた。

そして、デューとヴィヴィアンナに請われ、二人はそれぞれ添い寝付きで寝る事になってしまった。

エルバルトはデューと、ミシェールはヴィヴィアンナと。

エルバルト以外との添い寝は初めてで、ミシェールは緊張していたが、優しい子守唄を聞いている内に、ウトウトしてきて、ヴィヴィアンナから瞼にキスをされ、涙が零れるのを感じながら、意識を手放した。

エルバルトは、二度目のデューとの添い寝だ。優しく背中を撫でられ、『無事で良かった』と何度も囁かれる内に、デューにもっと近付きたくなり、擦り寄れば、小さく笑いながら抱き締められ、つむじにキスをされ、ゆっくりと眠りへと誘われていった。

翌朝の朝食の席、四人の目の前に、それぞれの器に、トマトが山となっていて、青菜は申し訳程度、卵、肉類、魚はなく、パンとスープが辛うじて用意された。

「まさか」

「昼食も、夕食も」

引き攣った表情のミハエルに、ヴィヴィアンナが微笑みで返した。

「信じられん。ここまでするか?」

「私は二人の保護者ですよ?それなのに黙って連れ出すなんて、誘拐と変わらないかと存じますが。違いまして?」

「安全には考慮した」

「私にもデューにも、それは確認が出来ない状況でしたのよ?閣下の事は信用も信頼もしておりますが、悪ふざけがすぎる事もよくよく分かっております。万が一を考えても致し方ないと、ご理解下さいませ」

不服そうに口を尖らせたミハエルに、ヴィヴィアンナが淑女らしい微笑みを綺麗にしてみせた。


その二日後、夕食時に翌日二人がミハエルから一日付き合わされる事が宣言された。

大公領内で職業体験をするのだと、ヴィヴィアンナに言い、ヴィヴィアンナとデューと使用人の同行は無しで、執事と騎士数人が同行し、早朝に出発し帰りは夕食の後だと説明された。

「無理をさせないと、お約束下さるのなら、了承します」

先日の事件が尾を引いているのだろう、ヴィヴィアンナが綺麗な笑顔をミハエルに向け、ミハエルが鼻に皺を寄せる。

「監視役が居るだろ」

「では安心ですわね」

そう言い、ヴィヴィアンナはミハエルの後ろに控える執事に、ニコリと笑顔を送ったのだった。

そして翌日の朝一番に、ミハエルが部屋まで迎えに来て、朝食も摂らずに、馬車へと乗せられた。

馬車を見送る使用人達に混じり、デューとヴィヴィアンナが居て、二人に見守れながら馬車は出発した。

着いた先は街の食堂だった。

仕込み中の店主を、ミシェールとエルバルトが手伝う事になり、ミハエルと執事は食堂の中からその様子を見守っている。

沢山の野菜を二人で洗って、皮を剥き、店主は肉を糸で縛り、厨房から外へと出て暫くして戻ってきた。

二人の手際の良さを、店主が褒めていると、その奥さんが厨房へと入ってきた。

お腹がふっくらとした奥さんに、店主が慌てて近寄る。

「今日はゆっくりしていて良いと言っただろ?」

「閣下のお世話になるだなんて、気になってゆっくりしてられる訳がないでしょ」

そう言い、奥さんはミハエルに歩み寄り、頭を下げる。

「気に掛けて頂きありがとうございます。もう十分でございます」

「いや、あの二人に職業体験をさせる為に来たんだ。邪魔かもしれないが、一日ここで世話になる」

「邪魔など、恐れ多い事」

「体調を崩したと聞いている。気を遣わずゆっくり休み、元気な子を産む事に専念すれば良い。この街の未来が産まれるのだからな。領主としてその補佐をする事は重要な責務だ」

ミハエルに鷹揚に言われ、奥さんは深々と頭を下げ、厨房から出ていき、店主が追いかけ、二人で階段を上っていき、暫くして店主のみが厨房に戻った。

昨日、ここの奥さんが体調を崩し、それを知ったミハエルが手伝いを買って出たのだ。

一応は通いの雇用人が居るが、朝食時が終わってからしか来ない。

朝の仕込みから朝食の提供までは、普段は夫婦でなんとか切り盛りしており、店主は朝食の提供を急遽取りやめる事を考えていたので、その申し出を受け入れたのだ。朝食の客はほぼ常連ばかりなので、休むとなると迷惑をかけるので、大公のお世話になる恐れ多さより、常連に迷惑をかける方が、店主には申し訳なかった。

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