因縁 64 相談
ミハエルからの『やらかせ』と言う無茶に、二人は頭を悩ませていた。つい先程、朝食の席で『まだなのか』と催促されたからだ。
勿論、二人も試そうと考えて、実行できそうな物は試した。
最初に浮かんだのは、食事で遊ぶという事で、それはエルバルトが眠気を理由にしてやっと出来た事で、修道院で日々の食事のありがたさを学んでいるから、どうしても戸惑われた。
次に浮かんだのは、服を汚す事で、それも修道院で次の子に譲れるようにと皆が気をつけていたので、実行出来なかった。実行したとしても、ヴィヴィアンナなら『元気ね』で終わりそうだし、メイドが洗濯するだけなのも分かっている。
どちらも修道院でやっては駄目だと周知されているも、やってしまう子は居るのだ。
次に浮かんだのは、驚かせる事。これは実行して失敗に終わった。物陰から飛び出してデューを驚かせようとし、エルバルトが物陰から飛び出して抱き着いたら、何かあったのかと心配された。ミシェールがヴィヴィアンナに試したら、抱き締められて喜ばれて終わった。
掃除の時間に遊んで怒られていた子が居たが、掃除がメイドの仕事の今では実行出来ない。他人の物を隠す事は、兄がそれで嫌な思いをしたと聞いたから、二人共やりたいとは思えなかった。木に登って降りられたくなった子を、理事長のナンジーが泣きながら怒っていたのは大事件だった。それは、試したものの失敗した。護衛騎士が登り方を指南してくれたから、エルバルトはある程度は登れた。だが、降りるのを戸惑っていたら、軽々と助けられてしまった。
落とし穴は間違って誰かを傷付けてしまったらと考えると怖くて無理だった。水をかけて病気にしてしまうのも怖かった。泥遊びは、ヴィヴィアンナに心配されるので出来なかった。そして思い出せる修道院で見てきたイタズラや事件が尽きてしまった。
庭に何かをする事も一瞬よぎったものの、ヴィヴィアンナの指示で整えられた物を、崩す事はしたくなかった。
『悪い事』をしようと約束していた兄は、人に迷惑をかけない、二人が怪我をしない事が見付けられなかったようで、この間謝罪されてしまった。
客室に向かっていたエルバルトの足が止まった。
今ミハエルもヴィヴィアンナも、デューも仕事中で、二人は昼食まで自由時間だ。いつもなら、お互い好きに行動するのだが、ミハエルからの催促に、二人で客室に向かい、相談するつもりであったのだ。
「バル?」
釣られてミシェールも足を止める。
「悪い事、ですか」
不思議そうにシモンが首を傾げた。
シモンに聞いてみようと、エルバルトが提案し、城内の巡回警備中だと護衛騎士に教えられ、見つけた矢先に、『悪い事を教えて欲しい』とミシェールが言ったのだ。
シモンの隣で、中年騎士も不思議そうにしている。
「一般的には人に迷惑をかける事かと思います。分かりやすい事だと、犯罪行為ですね」
「そういった事ではありません」
シモンから返ってきた言葉に、ミシェールとエルバルトが揃って首を横に振り、シモンと中年騎士は、二人の後ろに居る護衛騎士を見る。
その意味に気付き、護衛騎士が補足する。
「閣下がお二人にやらかすようにと無理を言ったので、悩んでらっしゃる」
「ちなみに、何かやってみたりしたのですか?」
中年騎士に聞かれ、ミシェールとエルバルトは、言葉と文字で、思いついたものの実行しなかった事、実行して失敗した事、夜更かしと夜のクッキーを全て伝えた。
「真面目は血筋か?」
中年騎士が感心したように溢し、シモンが瞬きをして嬉しそうに微笑む。
「それで困って俺の所へ来て下さったのですね」
「シモンさんが子供の頃にやらかせた経験を教えて欲しいのです」
ミシェールとエルバルトの頷きに、シモンだけでなく、他の騎士二人も、子供二人の変化に目を細める。
出会ったばかりの二人は、いつも緊張していて、誰かに頼るという選択肢などないかのように、二人きりの世界を護ろうとしていた。それが今や、第三者に頼ろうとしている事に感動したのだ。
仕事中なので、中年騎士が先を歩き出し、シモンとミシェールとエルバルトがその後を並んで歩き、使用人と護衛騎士が続く。
「養護院時代なので、お役に立てるか分かりませんが、職員の一人にカツラの人が居て、それを取った時は大層怒られました」
「おまえ、なんて非道な事を」
中年騎士が、自身の寂しくなった頭髪に触れ、シモンに非難の視線を送る。
「無理やり髪を剃られそうになったので、抵抗しただけです。正当防衛です。他は先ほどお二人が言ったような事は一通り。あ、脱走した事もあります。仲間と喧嘩した勢いで。二日外で暮らして戻った時に、外で暮らすのなら、その頭をどうにかするしかないと、カツラの職員に呆れたように言われました。」
ぎゅっと、エルバルトがシモンの左手を握り、頭を横に振る。
その必要がないと伝えたいのだろう、とシモンは気付き、大丈夫だと伝えようと、結末を伝える。
「大公城でこの髪のまま働くと言った時、カツラの職員は目を剥いて驚きました。ちょっとスッキリしましたよ」
「遠目で目立つから、サボっているかどうかすぐ分かるのは便利だ」
護衛騎士が、慰めのつもりなのか、優しそうに言うも、
「サボらないですよ!せっかく働けているのに!」
シモンは振り返って文句で返す。
「カツラの職員は、赤い髪でも羨ましかったのだろうな。髪がある事に」
中年騎士が、しみじみと言い、シモンと護衛騎士、使用人が噴き出した。
笑いが落ち着いた頃、ミシェールが質問をする。
「外で暮らしたというのは、どこかでお世話になったのですか?」
「いえ。野外で寝起きして、食事は残飯を漁りました。どこかで下働きしたかったのですが、断られたので。2日過ごして、これなら養護院の方がマシだと思ったんです」
「野外で?寒くないのですか?痛くないのですか?不安は?怪我はしなかったのですか?残飯でお腹を痛めなかったのですか?」
「寒かったし、痛かったですが、我慢できない程じゃなかったです。不安は養護院に居た時もありましたから、変わらないですね。怪我はしなかったです。お腹は丈夫なので、心配無用です」
早口でのミシェールの質問に、シモンは心配してくれる事に喜びを感じた。自身がミシェールに身近な存在として認められた気がしたのだ。デューからは友達として認定して貰えていたが、二人が実際どう思っているのか、分からない事が不安だったのだ。
シモンはまだ騎士になりたてで、巡回警備が主な仕事だ。なので客人のミシェールとエルバルトに接する時間は少ない。
朝の散歩の時間や、休憩時間、休みの日などに、二人に会いに行くのだが、朝の散歩はデューとヴィヴィアンナが居るので、余り話す事が出来ない。
休憩時間と休みの日は、二人の暮らしぶりを聞いたり、フィビーとのボール遊びに付き合ったりし、二人がここで暮らしたいと思って貰えるように必死で、自身の事をしゃべったのは、修道院での会話以来だった。
困った末に、自身を選んでくれた事も、シモンは嬉しかった。周りに他の騎士も使用人も居る中で、デューだっているのに、自分を思い出せて貰えたのだと。
身内(兄デュー、一応の引取人のミハエル・ヴィヴィアンナ)以外に
相談するてのが成長段階で必要かな?と
シモンの喜びがね、ちょっと残念。
この件ではデューは既に相談相手から脱落済




