因縁 63 青い空
3日後、デュー、ミシェールとエルバルト、そしてヴィヴィアンナが騎士団長をお供に裏庭に揃っていた。
愚痴や不満などを貯めた木箱を、焼却炉で燃やす為だ。
大公妃であるヴィヴィアンナが、焼却炉に来る事は当然異例である。
木箱に愚痴や不満などを綴った便箋を、三人が木箱に貯めているのを知り、ヴィヴィアンナもその中に便箋を入れるようになり、燃やす時は一緒に見守らせて欲しいと願ったのだ。
途中で二人が別室になったので、木箱はそれぞれ持っていて、デューとヴィヴィアンナは両方の量を同じ位になるように、便箋を入れていた。
木箱2つをデューが持ち、火の着いている焼却炉に入れ、分厚い手袋をした手で蓋を閉める。
青空に焼却炉から上がる煙を、子供を挟んで並んで立ち、四人で見上げ、暫くしてヴィヴィアンナが口を開く。
「私が、外交官を目指すキッカケは、あの方から頂いたの」
思わぬ告白に、三人が横目でヴィヴィアンナを見た。
煙を眺めながらヴィヴィアンナは続ける。
「交流会の婦人会にあの方がいらっしゃると、大人も子供も緊張してたでしょ?だから、あの方の特別なお茶会に呼ばれた時は誇らしかった。格好良いて思ってた方が、私を見て下さってた事が本当に嬉しかった」
その言葉に、ミシェールは羨ましいと思った。母に認めて欲しくて必死だった幼い自分と、母に認められたヴィヴィアンナの違いは何だろうか?と。
状況も、母の心理状態も異なるから、比べようがないのは分かっているが、どんなに頑張っても、母の視線は自分を通りすぎていて、何度も心が傷ついていたのだ。
「あの頃は、あの方は後継者として当時の公爵様の補佐をされていたから、殿方相手に対等に仕事をされていらした姿を身近で見ていたわ。そして、弟が後継者として勉強しだした時に、小さな弟には負担じゃないかと両親に反対してしまったの」
「優しい君らしいね」
優しい声で、デューが先を促し、ヴィヴィアンナはおかしそうに一度笑い、思い出を続ける。
「本音は別だったのよ。私が入れない執務室に、弟が入れる事に納得出来なかったの。私なら難しい言葉も分かるし、計算はちょっと苦手だけど覚えたし、年上なのにて。前にも言ったけど、あの方のように仕事が出来る大人になりたかったの」
そっととエルバルトが隣のヴィヴィアンナの指先に触れる。
それをそっと握り返し、ヴィヴィアンナは言う。
「それで、私を見てくれていたあの方に、相談しようと思ったの。そしてお会いした時に、聞いてみたのよ。貴女になるにはどうしたら良いのでしょうか?と」
「あの人は、なんと返事をしたのですか?」
ミシェールの問いに、ヴィヴィアンナは懐かしむように目を細める。
「私になる必要はないと。そして何故、そんな事を言ったのかと。それで、さっきの言葉を全部伝えたのよ。そしたらね。なら外交官を目指してみなさいと言われたわ」
三人の視線がヴィヴィアンナに向けられ、そのまま言葉に聞き入る。
「外交官なら、殿方と対等に、しかも国を背負った仕事が出来るから、父と話してみなさいと言われたの」
そこで言葉が切れ、暫く無言が続き、ヴィヴィアンナが改めて口を開く。
「ごめんなさい。こんな時にこんな昔話をして。ご自身の子供には辛く当たっていたのに、他の子供には助言をしていたなんて、貴方達は不満に思うかも知れない。だけど、私が、あの方を少しも憎んではいないと、伝えたかったの」
「俺は憎いよ。君を苦しめたあの人が」
言って、デューは視線を空に上がる煙へと向ける。
「シェリーとバルと再会してから、子供らしい日々を奪った事を、何度謝罪して欲しいと思ったのか分からない。それは無理な話だとは分かってるし、謝罪されても二人が困る事も分かる。そして、なぜそんな事をしたのか、あんな事件を起こしたのか、聞く事も出来ない」
悔しそうに、デューが両手を拳に握り、ミシェールがその右手に触れ、デューに小さく頷き、エルバルトも視線をそちらに向けて頷いた。
長く息を吐き、デューはミシェールとエルバルトの前に行き、二人に向き合って膝を折り、二人に笑顔を向ける。
「二人はこんなに立派なのだと、見せたくても見せられない。それが悔しい。あの人がなぜそうしたのか、あんな事をしたのか、憶測は出来ても、答えは分からない。だから、心のモヤモヤを吐き出せたら、あの人を許せなくても、少しは気が楽になるんじゃないかと思ったんだ」
そこまで言い、苦笑を浮かべて続ける。
「どんなにモヤモヤを書いて減らしても、ふとした瞬間にあの人を思い出すし、夢に出てきて苦い思いをして、またモヤモヤは出来ると思う。きっとあの人は一生付き纏ってくる。だから、ずっとモヤモヤを吐き出していこう」
言い終わり、デューが二人の右手を重ねさせ、自身の両手で包み込む。
その上から、腰を折ったヴィヴィアンナの右手が重ねられる。
「私も、あの方が二人を傷付けた事を怒っているの。憧れていたからこそ、失望したわ。だから、仲間外れは嫌よ。仮初めだけど私は二人の保護者なんだから、あの方に怒る権利はあると思うの」
互いに便箋に何を書いているのか詳細は知らないが、シェキーラに対しての消化出来ない言葉なのだろうという事は、四人とも察している。
ミシェールは、ずっとシェキーラに認めて欲しかった。認められないまま声の届かない場所に行ってしまって、未消化の願いが今もくすぶっている。
大公城に来て、過保護なまでに大切にしてくれる兄、甘やかして愛情を注いでくれるヴィヴィアンナ、最初の強引さが嘘の様に、静かに温かな目で見守ってくれて、安心を与えてくれるミハエル。
三人の大人と、周りの使用人達の細やかな気遣いに、今のままで良いのだと、ミシェールはやっと少しずつ自分が好きになってきていた。
包まれている手の温かさに、ミシェールは空を見上げる。
暗い幼少期に比べ、今の生活は眩しい青空のようで、鳥ならばどこまでも飛んで行けそうだ。ミハエルの養子になるという選択肢は、贅沢な未来だと分かっていても、選びたくなってしまう。
ただ、それを選ぶと、母親との絆が切れるようで、踏み切れないのも事実だ。
冷たくて、非情な人だったが、ミシェールは嫌いにはなれない。だからこそ、今も母親に認められたかったと、捕われてしまっている。
ロミオのあれ
で世代がバレそうですが
話のイメージは
オープニングをちょこっと意識しました




