因縁 62 四人家族
客人達は目ざとく子供達を上から下までじっくりと見る。指先は少し荒れていて、服は仕立てた物ではなく既成の物、靴も磨かれているが、質素な物。
弟の表情は少し緊張しているようで、必死な笑顔が母性をくすぐらせ。姉はシェキーラと雰囲気が似ているが、弟を守るように一歩だけ前に出て、四人へと挨拶をしてきた。
そのどちらもが、二人の母親のシェキーラには、見受けられなかったものだ。シェキーラはいつだって、人の上に立ち優雅に見下ろして、指先一つで人を動かせる雰囲気があった。現王が王太子だった頃、彼に頭を下げはしていたが、へりくだりはせず、まるで王族の一員のようでもあったのだ。
その違いに、四人が視線を合わせていると、ヴィヴィアンナが子供に駆け寄り、床に膝を着いて抱き締める。
「出て来なくて良かったのよ。こんな方々、私とミル様で十分なのに」
「ヴィア様が泣いていらっしゃるので、慰めに」
「あの人ね?」
ミシェールが小声で言えば、ヴィヴィアンナは小声で聞いた。返ってきた小さな頷きに、ヴィヴィアンナは立ち上がった。
侍女長がそっとハンカチを差し出し、それを受け取り顔を拭き、ヴィヴィアンナは客人に微笑みかける。
「取り乱してしまって申し訳ないわ。この二人が私の子供、になって欲しい子供達です。今口説いていますの」
言い方にプッと吹いてから、ミハエルは四人の客人を見て、
「アンナが言った通り、口説いている真っ最中でな。本決まりしたら、また相手してやる。今のを見て不服があるなら来い」
そう言ってソファにふんぞり返って座った。
四人は気まずそうにし、いそいそと挨拶をして応接室を出て行った。
「冷静に撃退するんじゃなかったのか?じゃじゃ馬」
「だって、見てもないのに決めつけるような言い方されて、嫌だったのだもの」
ミハエルが左の眉を上げると、ヴィヴィアンナは眉を下げて近くのソファに座った。ミシェールとエルバルトがその肘掛けに座る。
「淑女の仮面が脆すぎだろ」
ミハエルは肩を震わせていると、開いているドアから、デューが入ってくる。
「ヴィア、君が二人を産むのは年齢的に無理だろ?」
「ちょっと待て小僧!」
ヴィヴィアンナの肩に手を置き、真剣に言ったデューに、ミハエルが立ち上がり、それをデューが鼻で笑う。
「冗談です」
「アホらしい。朝から堅苦しい格好した俺はなんなんだ」
ソファの背に顎を乗せて座り、ミハエルはグチグチ言いながら、料理長にシュークリームを頼んだ。
「産んであげたかったて、嬉しかったです」
ミシェールがヴィヴィアンナに向かって言えば、エルバルトも頷く。
「本当よ。今でもこんなに可愛いのだもの。産んでいたら、どんなに可愛いのかと、毎朝髪を梳きながら思っていたのよ」
「君の二人への想いに少し嫉妬する」
ソファの背に腰をかけ、デューが微笑む。
一つの一人掛けのソファに四人が腰掛ける様を見て、ミハエルは長く息を吐いた。
「残りは使用人達で。あいつらは甘い物は間に合ってるだろ」
侍女長が微笑み、執事は頷いて、料理長と使用人を連れて応接室を出て行った。
ミハエルも立ち上がり応接室を出た。外で待っていた執事が、ドアをゆっくりと閉める。
残った四人は、二人の子供が恋人達の子供だったらと、仮想の話をヴィヴィアンナが中心となって話をしていた。
デューが赤ん坊を抱いた事がないから、どうしよう?と真剣に悩み、ヴィヴィアンナは覚えていくのよと笑いながら言う。
ミシェールは仮想の話なんて無意味だと思いながらも、仲が良すぎる夫婦だから二人だけではない。と言えば、恋人達は顔を赤らめて頑張る。なんて言う。
エルバルトは、楽しそうと黒板に書き、ヴィヴィアンナは抱っこもお風呂もしてあげる。と言ってエルバルトを困らせた。
話の中ではどんな家に住んでるか、犬の名前はどうするか、なんて話もあった。
無意味だけど、意味があったような一時間が過ぎた。
その日の夕食後、ミハエルが溜め息混じりに口を開く。
「アンナが言ったように、ミシェールもエルバルトも大人しすぎる。良い子でいようとしなくて良いからな。今まで我慢した分くらいは、存分にやらかせ。俺がガキの頃は色々困らせたもんだ」
「やらかせ???」
聞き慣れない言葉に、ミシェールもエルバルトも首を傾げ、執事が微笑む。
「悪い事をなさり、困らせる事でございます。閣下は王宮の礼拝堂の神像の足元に落書きをなされ、王冠を隠された事もあると聞き及んでおります」
「可愛いもんだろ?」
ミハエルがニヤリと笑い、執事がそれを無言で返し、ヴィヴィアンナがコロコロと笑い、ミハエルの背後に居る騎士団長も肩を震わせた。
「トマトをベッドに隠して、汁まみれにした話もございますね」
「あれは、トマトを出したのが悪いと、今でも思ってる」
侍女長が言えば、ミハエルはそう言い鼻で笑った。
ヴィヴィアンナが笑って子供達に言う。
「トマトがお嫌いなのよ。今は二人への手本として頑張って食べて下さってるの」
城に着いてからの食事は、毎食トマトが出ており、ミハエルは真っ先に食べていたので、てっきり好物なのかと思っていたので、違ったと知りミシェールは驚いた。
誰の指示かは、聞かなくても分かった。
鼻に皺を寄せているミハエルに対して、ヴィヴィアンナの笑顔が眩しい。
城の主人はミハエルだが、ヴィヴィアンナに随分と好きにさせている様子に、ミハエルの優しさを再度実感し、それに勇気付けられ、ミシェールはミハエルを見る。
「兄の休日の前夜に、夜にクッキーを食べました。あと夜更かしを」
「夜更かしは聞いていたが、あのクソ真面目が夜にクッキーとはな。とはいえ、大した悪さじゃない」
フンと鼻であしらわれ、ミシェールは愕然とした。
夜更かしはヴィヴィアンナに苦言を呈されたし、夜のクッキーを伝える事にかなりの勇気が必要だったからだ。
怒られるか、幻滅されるかも知れない不安があったのに、軽く扱われた事がショックだった。
「デューたら!そんな事を?何を考えてるのかしら!」
そして、ヴィヴィアンナはデューに対して憤慨を顕にした。
ミハエルに軽く扱われるのなら、兄の為にも黙っておくべきだったと、ミシェールは後悔したが、ミハエルがニヤリと口の端を上げて笑う。
「存分に迷惑をかけてやれ。子供てのはそんなものだ。それで学べる事もある」
「それは私も賛成だけど、せめて自分の身体は大事にして頂戴。夜中のクッキーなんて歯を悪くするし、身体に良いと思えないわ」
ヴィヴィアンナに優しく注意されて、ミシェールとエルバルトも小さく頷く。
母親に何かを指摘された時とは違い、その言葉の温かさに、二人はホッとしていた。
「心配する必要はないだろ。悪い事をしろと言われて、自己申告して来たんだ。夜更かしも夜のクッキーも良くない事だと分かってるだろ。何をやらかしてくれるか、楽しみにしてるからな?」
皮肉げに、ミハエルがニヤリと笑った。




