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因縁 54 意外な

食堂で四人がゆっくりお茶をしていると、ミハエルが再び入ってきて、揃っている事に、ミハエルは満足そうに笑う。

「小ホールに付き合え」

一言だけ言い踵を返したミハエルを、四人は顔を見合わせてから追い掛ける。

食堂の隣りに、小ホールはある。

ミハエルに続いて四人が入った。

大きな窓から、柔らかな光がうっすら届き、補うようにシャンデリアに明かりがつけられている。

執事は小ホールで待っていて、一抱えもある長いケースを両手で持っていた。

ミハエルがそのケースを受け取り、近くの机に置き、蓋を開ければバイオリンが出て来た。

四人が顔を見合わせる。

ミハエルが四人を見て口の端を上げる。

「大した腕前じゃないが、音がないよりはマシだろ」

バイオリンを構え、ミハエルがワルツを奏でる。

予想してなかった優しく繊細な音色に、四人は唖然としたが、ヴィヴィアンナがデューに笑顔を向ける。

デューは微笑み返し、ヴィヴィアンナの手をとり、一度礼をして向き合った。

恋人達が踊りだすと、エルバルトがミシェールの手を取り、礼をする。

優しいバイオリンのワルツに、四人はゆっくり踊っていた。

ミハエルが少しテンポの良い曲を弾き始め、それに合わせ、デューはヴィヴィアンナを高くリフトして回る。

ヴィヴィアンナは楽しそうに笑い、ミハエルが曲調を早める。

子供達は着いていけなくなり、床に座りそうになった所を、執事が支え、壁際の椅子へと誘導した。

デューもヴィヴィアンナも笑顔で踊り、曲の終わりでピタリと寄り添った。

「嫌味なくらい出来るな」

バイオリンをケースに戻し、ミハエルが鼻に皺を寄せた。

「ヴィアの相手をしてたら覚えました。講師が良かっただけです」

「基礎が出来てたからよ」

デューに腰を引き寄せられ、ヴィヴィアンナは腰に回った手を撫でた。

ヴィヴィアンナの目が、一度バイオリンケースに向き、ミハエルに向けられる。

「弾けるのですね」

「久しぶりで少し鈍っていたがな。まあ、家族の時間を盛り上げるくらいなら役に立っただろ」

「楽しかったです。もう終了なのですか?」

続いたヴィヴィアンナの言葉に、ミハエルは無言で口の端を上げて、執事を連れて小ホールを出て行った。

「デューは知っていて?」

「初めてだ」

ヴィヴィアンナに話を振られ、デューは首を横に振る。

大公家で夏の終わりにどんちゃん騒ぎをする際、楽器を弾ける者は楽器を奏で、皆で思い思いに踊ったり、手拍子を叩いたり、色々な物を打楽器にしたりとする。デューがミハエルの元に来てから8年居るが、ミハエルはヤジを飛ばすか、皆が騒いでいるのを見て楽しんでいるだけだった。演奏をしたのは今日初めてだ。

「貴女は?」

「私も初めてお聞きしました」

問われて、侍女長も首を横に振った。

長く仕えている侍女長も聞いた事がなかったのなら、かなり久しぶりに弾いたのだろうと、予想出来る。

だが、バイオリンの弦は狂ってるように感じなかったし、ケースもバイオリンも綺麗な艶があったので、大事に管理されていた事は、容易に想像出来る。

語られないのなら、何かしらの理由があるのだろうと、小さな疑問をヴィヴィアンナは溜め息とともに吐き出す。

あの演奏で、楽しい時間を過ごせた。それだけで十分だった。

「バルの時にもお願いしなきゃね。じゃなきゃ不公平だわ」

明るくヴィヴィアンナが笑った。

お茶の時間にケーキが出て、白いクリームでフリージアが可憐に咲いていて、ミシェールは自分には似合わないと思いながらも食べた。

白のフリージアの花言葉は『あどけなさ』だ。


夕食は客室に運ばれた。ミハエルは仕事が立て込んでおり、別で摂るという事で、四人での夕食となった。

デューはループタイをし、ヴィヴィアンナは緑のドレスに着替えた。

ヴィヴィアンナがカットしたステーキを、ミシェールの口元へと運び、ミシェールは小さく首を横に振る。

「自分で食べられます」

「今日だけよ。甘やかし足りてないのよ?一口だけ。ね?お願いよ」

眉を下げられて言われ拒む事が出来なくなり、ミシェールは直視しないように視線を伏せ、ステーキを口に入れた。

ヴィヴィアンナが嬉しそうに笑い、デューは苦笑を浮かべる。

「あまり無理強いはしないで欲しい。せっかく慣れてきたのに、嫌われたら悲しい」

「ふふ、可愛い」

「笑わないでくれ。一緒に居られる時間が短いんだ。嫌われるのは一瞬だと、子持ちの騎士から聞いた」

そう言って、一口には大きなサイズのステーキを、デューは口に運ぶ。その表情は少し不満そうで、子供じみた表情に、またヴィヴィアンナはコロコロと笑い、ミシェールに視線を送る。

「シェリー?どうしても嫌なら断ってね。それで悲しいとか、何で?なんて思わないわ。少し強引にでも甘やかすのは、甘える事も甘え方も覚えて欲しいだけなの。将来、修道院で過ごすにしても、子供に甘える事と甘え方を教えられるでしょう?」

「はい」

ミシェールが小さく頷くと、デューが安心したように息を吐いた。

そのさり気ない優しさに、ミシェールはくすぐったさを感じながらも、逆の言葉を発する。

「お兄様は私達に気を回しすぎでは?」

「えっ、いや、だって、さっき少し困っていただろ?」

「そういう事に対処出来るようにする為の、今回のお試しだったと記憶してますが」

溜め息まじりに言葉を続ければ、デューの眉が情けなく下がる。

「出過ぎた事をしてすまない。今後善処するよ」

「シモンさんの首のスカーフの様な時は、お願いします。ああいった事はまだ分からないので」

「うん」

余りに兄が可哀想に見えて、ミシェールが対処の難しい事をお願いすれば、デューが嬉しそうに笑った。

何とも幼い返事と表情に、大人なのに子供みたいと、ミシェールはこっそり息を吐き、隣りのエルバルトがミシェールの手を楽しそうにパタパタと叩いてきた。

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