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因縁 52 レースの靴下

ヴィヴィアンナが苦笑し、万年筆をケースに戻す。

「何故かしらね、初恋ではなかったのに、これはずっと手元に置いていたのよ。それまでの誕生日の贈り物は、寄付したり、宝石店に引き取って貰ったりしたの。殿下に悪いと思って」

あっと気付いたように、ヴィヴィアンナが笑顔を向ける。

「初恋は、デューよ。再会して、デューと接していると、自分らしい自分で居られる事に気付いて、好きになっていたの。デューは私の初恋だなんて知らないから、内緒よ。嫉妬させたいの」

可愛らしい願いに、ミシェールもエルバルトも頷いた。

ヴィヴィアンナの手が、もう一つのケースを開けると、レースの靴下が出てきた。

それはとても小さく、ミシェールの小指の先がやっと入る大きさだ。

「結婚式の数日後にデューに貰ったの。北にあるサージェナイト国では、幸せを運ぶ妖精を呼ぶ為に、新婦にレースの靴下を贈るのよ」

初めて聞く言い伝えだったが、ミシェールは素敵だと思った。

そして、鏡台に飾ってある銀細工の妖精を思い出す。

あの妖精は、レースの靴下に合わせて誰かが買ったのだろう事は容易に想像が出来た。

もちろん、ロマンチストなデューが筆頭候補である。

ヴィヴィアンナが、そっと小物入れを撫でる。

「組紐は普段はこの中に仕舞ってあるの。今日は特別な日だから着けているのよ」

ヴィヴィアンナの言葉に、ミシェールが口を開く。

「この宝箱に加わっているなら、嬉しいです。万年筆のように、大事にして貰っているのですから」

それを聞き、ヴィヴィアンナが嬉しそうに笑った。

ずっと見守っていた侍女長が咳払いをした。

「以前の夕食でデューさんがしていたループタイは、ヴィヴィアンナ様から贈られた物ですよ。どんな意味か、お聞きしてみては?」

途端、ヴィヴィアンナが頬を赤くした。

ミシェールとエルバルトがじっと見詰め続けていると、ヴィヴィアンナが溜め息を吐く。

「東隣りにあるシージア国では、新婦から新郎に首飾りを贈るのよ。これで貴方は私に首ったけて意味なの。誰にも言った事ないのに、何で知ってるの?」

「送り主が誰かは、見ていれば分かりますよ。意味は初めてお聞きしました」

「やられたわ」

額に手を当て、ヴィヴィアンナがソファに背中を預けた。

侍女長が楽しそうに笑う。

あのループタイに、そんな意味があったのかと、ミシェールは特徴を思い出そうとした。

濃紺の皮の紐に金具が留められていたが、宝石も刻印もなかったような気がする。

籠められた思いは伝えなくとも、すでにデューはヴィヴィアンナに夢中のようだから、教える必要はないだろう。とミシェールはデューに言わない事にした。

花言葉の辞典を開き、三人でデューにピッタリな花を探していると、あっという間に時間は過ぎた。


二人が城に来てから2週間経った。

その間、ミハエルには馬車で大公領を案内して貰い、宝物庫や応接室にある美術品がどういった物かを教わった。

ヴィヴィアンナには刺繍を教わり、色々な国の話を聞いたり、デューとの思い出話を幾つも教わったりとして過ごした。

デューは、3日前の休日は前夜から二人と共に過ごし、裏庭で野外の食事を振る舞い、雨の日以外は犬のフィビーの散歩へと誘い、仕事の休憩時間を利用して室内で出来る運動を教えるようになっていた。二人が、身体を動かしたいと、デューに頼んだのだ。

二人が城に慣れて来たので、三人の大人達は少しずつ、二人に自由な時間を作るようになり、二人はフィビーにも触れるようになり、三人の大人が相手出来ない時に、ボール遊びの相手をして貰うようになっていた。

エルバルトはよく食べるようになり、お代わりを要求出来るまでになっていた。暇な時は、フィビーをブラッシングしたり、使用人の仕事風景を眺めたりと好きに行動するようになっていた。

ミシェールは、暇があればヴィヴィアンナの執務室に行き、仕事をしている様子を見るようになっていた。

暇だろうと、本や刺繍の道具が用意されるが、手を付ける事はなく、背筋を伸ばしてヴィヴィアンナを見ていて、たまに質問をする。

少しずつ、二人はそれぞれ過ごす時間が増えていた。

いつでも寄り添っていた二人の変化に、大人達は成長を優しく見守りながらも、寄り添っている二人が可愛くもあったので少し残念にも思っていた。

今はデューと一緒に恒例の朝の散歩中だ。

リードをエルバルトが持ち、ミシェールはデューと手を繋ぎ歩いていて、ヴィヴィアンナはそれを後ろから着いて歩き、微笑んでいる。

エルバルトが不意に方向を変えて歩き出した。

三人が着いて行くと、制服姿のシモンが手を振って待っていた。その手首にはミシェールから貰った布が巻かれていた。

「謹慎お疲れ様。しっかり働いて下さいね」

ヴィヴィアンナが柔らかく言うと、シモンが騎士の礼をとる。

ボタンがしっかり留められていて、騎士の礼をするシモンに、ヴィヴィアンナもデューもエルバルトも小さく笑う。

ミシェールは、少し引き締まった表情のシモンに、何だか知らない人のような気がし、口を開く

「元気、でしたか?」

「はい。その節はご迷惑をおかけしました」

畏まった言葉に、ますます知らない人のような気がし、ミシェールは戸惑う。

騎士として当然なのだが、以前の明るい表情が見れないのは、少しだけ寂しいと思ってしまった。

エルバルトが、シモンに近寄り、ぎゅっと抱き着いた。

「エルバルト坊ちゃま?!困ります」

慌てているシモンの足元に、フィビーが擦り寄り、撫でろとばかりに身体を押し付ける。

「フィビーまで?」

シモンの悲鳴のような声に、デューが吹き出し、ゆっくり近寄り赤い髪を撫でる。

「反省はよく分かった。仕事じゃない時に、二人が暇そうにしてたら相手をしてくれると助かる。ただし、怪我はさせるなよ?」

「はい」

「呼び方は、仕事中じゃなかったらとやかく言うつもりはない。二人の修道院の外の友達だからな」

「友達!はい!」

友達という単語に、シモンが顔を輝かせ、元気一杯に返した。

現金な様子に、三人が笑顔を見せ、ミシェールは少し安堵した。

「それでは、ミシェール様、バル君、デューさんとヴィヴィアンナ様も。今日をお楽しみ下さい」

笑顔を残し、シモンが走って宿舎へと走って行く。

謹慎明けで、四人に会う為に、騎士服で待っていたのだ。

「甘やかしたか」

デューが顔を顰め、ヴィヴィアンナがおかしそうに笑った。

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