因縁 50 水入らず
「ミシェールお嬢様、エルバルト坊ちゃま、素敵な贈り物をなさいましたね」
侍女長が腰を折り、二人の手を取り優しく微笑んだ。
それに二人は揃って小さく頷きで返した。
エルバルトのつむじに顎を乗せ、デューが贅沢な悩みを口にする。
「二つも貰って、どう返せば良いだろうか」
「お二人で悩めば良いのです。これだけに見合う物はそうそうありませんよ」
それを侍女長が鼻で笑った。
ミシェールとエルバルトは、恥ずかしいのか顔を伏せ、エルバルトの耳は赤い。
ヴィヴィアンナは涙が収まり、頬を染めて組紐を眺めてうっとりとしていた。
部屋の様子に、侍女長は一礼をする。
「暫く家族水入らず、ごゆっくりお過ごし下さい。外で控えております。デュー」
「勿論」
侍女長にデューが頷くと、侍女長は満足した表情で部屋を出て行く。
彼女が『デュー』と呼ぶ時は、デューが騎士の時だ。騎士として三人を任せる。と暗に伝えたのだ。
「二人共、本当にありがとう」
一度ぎゅっとエルバルトを抱き締め、デューはエルバルトをベッドに座らせ、ヴィヴィアンナの前まで歩き、片膝を着く。
「紐を預かっても?」
乞われ、ヴィヴィアンナは持っていた紐をデューに託した。
デューはヴィヴィアンナのスカートに手を入れ、左足首にそれを巻き付けて結んだ。
自分の分は、スラックスの裾を上げ、右足首に巻き付けて結び、ヴィヴィアンナの左側に立ち、腰を折って耳元で言う。
「お揃い」
「ええ」
何度もヴィヴィアンナが頷き、目に浮かんだ涙を拭う。
デューが目を細め、ヴィヴィアンナの肩を抱く。
「今日は泣き虫だな」
「三人揃って私を喜ばせるのだもの。ズルいわ」
「二人のおかげだろ?」
「そうよ。こんな嬉しい事てあるのかしら」
恋人達のやり取りに、ミシェールは恥ずかしさが薄まり、安堵が広がっていた。
喜んで欲しいと思って、エルバルトと意見を交わして作った物だ。こんなに喜んで貰えたなら、その全てが報われた気分になった。
エルバルトがミシェールの手を握ってきたので、ミシェールも握り返す。
顔を見合わせなくても、エルバルトも満足していると感じ、ミシェールは顔を上げて、喜んでいる恋人達を眺めた。
向き合っていた恋人達が、ミシェール達の方を見る。
デューがエスコートの手を差し出し、ヴィヴィアンナがゆっくりと二人の前まで歩く。
「抱き締めさせて頂戴」
一言断ってから、短い時間でミシェール、エルバルトの順で、ヴィヴィアンナは抱き締め、額にキスをした。一歩ヴィヴィアンナが後ろへと歩き、そこにデューが歩み出て、
「俺からも」
言って、ヴィヴィアンナと同じ事を二人にした。
ミシェールの隣りに、ヴィヴィアンナが座り、エルバルトの隣りに、デューが座る。
ミシェールがヴィヴィアンナの手を握り、反対の手でエルバルトの手を握り、エルバルトは空いている手でデューの手を握った。
暫く無言だったが、不意にヴィヴィアンナが、ミシェールの手を握ったまま立ち上がる。
「踊りましょ。皆で一緒の事をしたいわ」
手を引かれ、ミシェールが立ち上がり、それに引っ張られ、エルバルトが立ち上がり、デューは自ら立ち上がった。
ヴィヴィアンナがミシェールと、デューがエルバルトと手を取る。ミシェールは口をパクパクとさせていて、エルバルトは驚いた表情だ。
「少しだけ、付き合って」
柔らかに言い、ヴィヴィアンナはワルツのリズムを取った。
「楽しもう」
デューも柔らかに言い、エルバルトに笑いかける。
ミシェールとエルバルトが二人に釣られてワルツを踊り、ヴィヴィアンナは小さく笑いながら鼻歌を歌い、デューはたまにエルバルトをリフトしてみせる。
デューがすれ違い様、ヴィヴィアンナとミシェールにウインクをする。
河原でのダンスを思い出して、ミシェールは、あの日から、デューとの気まずさが薄まったのを思い出した。
再会した頃は、かなり緊張していたのに、今は何故か、兄の恋人と踊っている。
少しずつ、何かが変わっていて、怖さもあるが、将来を楽しみに思えるようになってきた。
人見知りのエルバルトは、ヴィヴィアンナに心を許せるようになっていて、エルバルトが、食事の時間を楽しめている様子は、ミシェールを安心させている。
その全ての始まりが、目の前の彼女の夫、という複雑な関係だ。
いくら政略結婚でも、まだ結婚して間もないのに愛人が居るのは、世間的には許されないだろう。
でも、細やかな物で、目の前の可愛らしい彼女が笑って喜んでいると、ミシェールは胸が熱くなるのだ。
母親が犯した罪の償いとは関係なく、純粋に彼女を喜ばせたい。とミシェールは思う。
「お姉様、兄を好きになって下さってありがとうございます。お姉様が兄の恋人で、嬉しいです」
ミシェールが言った途端、ヴィヴィアンナが目を見開き足を止め、デューも足を止めて、ミシェールをじっと見て、エルバルトも足を止め、目をパチクリとさせた。
三人の視線を集め、ミシェールは恥ずかしくなり、顔を伏せた。
「お礼なんて。好きになったのが、貴女達のお兄様だっただけよ。お姉様と呼んで貰って、どれ程嬉しかったか」
言葉を噛み締めていたヴィヴィアンナが、膝を着いてミシェールの頬に触れる。
「顔を見せて。シェリー」
愛称を呼ばれ、ミシェールはそろそろと顔を上げた。
「お姉様と、認めてくれたのだもの、シェリーと呼ばせて貰うわ。ずっとそう呼びたかったのよ」
ミシェールの頬を撫で、その両頬、額、鼻と、ヴィヴィアンナは口付けをし、身体の向きを変えて、エルバルトを見る。
「バルも、良いかしら?」
エルバルトは小さく頷き、ヴィヴィアンナにゆっくり近付く。
ミシェールと同じ事を、エルバルトにも贈り、ヴィヴィアンナは微笑む。
「バル。私をお姉様と認めてくれてありがとう」
少し短いですが。
ちょっとだけ近寄った子供達と、恋人達のやりとり




