因縁 49 歩み寄り
二人が大公城に来てから一週間経ち、二人は夕食の後に、そわそわしながら部屋で待っていた。
そうしていると、ヴィヴィアンナとデューが揃って訪ねて来た。
夕食の席で、二人に来て欲しいとヴィヴィアンナに伝えたのだ。
侍女長がドアを閉めるのと同時に、ヴィヴィアンナがコテリと首を傾げた。
「何のご用だったかしら?」
それには応えず、ミシェールとエルバルトは揃って鏡台に行き、包みをそれぞれ手にして振り返る。
デューとヴィヴィアンナは不思議そうに二人を見ていた。
二人はそれぞれに紙袋を持ち、デューとヴィヴィアンナの前に立った。
「細やかな物ですが、お二人に」
ミシェールの言葉と共に、エルバルトと揃って紙袋が差し出された。
デューとヴィヴィアンナは顔を綻ばせ、膝を折りそれを受け取る。
ヴィヴィアンナにはミシェールから茶色い紙袋に緑のリボンをされた物、デューにはエルバルトから茶色い紙袋に青のリボンをされた物。
「何かな?」
デューが弾んだ声で言い、ヴィヴィアンナは笑顔で頷き、揃ってリボンを解き、中身を取り出した。
黄、青、緑の細い布を捩じって編まれた組紐が入っていて、ヴィヴィアンナには緑の色ガラス、デューには青の色ガラスが紐の両端に付けられていた。
デューもヴィヴィアンナも息を飲み、二つを並べるように、それぞれの手を寄せた。
「お揃いだ」
「えぇ」
二人顔を見合わせ、ヴィヴィアンナの目からコロリと一粒涙が零れ、それをデューが優しい手付きで掬い取り、その指を舐める。
手にした紐を、ヴィヴィアンナが大事そうに自身の胸に寄せる。
「ありがとう。大事にするわ」
「本当にありがとう。使うのが勿体無いな」
デューは紐に口付けし、ミシェールとエルバルトに笑いかける。
その組紐は、大公城行きが決まってから、時間を見て作った物で、昨日やっと完成したのだ。
作る事を決めた時は、まだ二人の関係に少しだけひっかかりがあったが、しっかり線引をしている様子に、ミシェールは胸が苦しくなっていた。
デューが仕事中ではない時は、幸せな恋人同士に見えるのに、仕事中になると、騎士としてしっかり振る舞っていて、ヴィヴィアンナを『妃様』と呼んでいる。
ヴィヴィアンナも、仕事中のデューには近付きすぎない。言葉でからかうことはあっても、触れられる距離に入らないのだ。
大人だから、四六時中一緒という訳にはいかないが、側に居るのに触れられないのは、悲しいとミシェールは思った。
デューを兄として接する事が出来なかった、あの近いのに遠かった数日を思い出したのだ。
大公城で公然の仲とはいえ、世間から見れば、デューはヴィヴィアンナの愛人という関係だ。
目に見えた揃いの物を身に着けられず、修道院に咲いた花の押し花を使った栞を、お揃いだと嬉しそうにしていた様子に、胸が締め付けられた。
贈った時は、大公夫妻の二人にお揃いの物をと、軽い気持ちだった物。それがヴィヴィアンナにとって特別な物になっていたのだ。
栞は、ミハエルからデューに譲られていると予想出来たが、下げ渡しのようで、ミシェールとしては不服でしかない。
組紐も有り合わせの物で作った物だが、デューとヴィヴィアンナを思って作った物だ。
エルバルトが緊張した顔で、ミシェールの手を握り、ミシェールが二人を見て、口を開く。
「お兄様と、お、お姉、様に、お揃いを」
恥ずかしくなったのか、言葉が切れた。エルバルトは小さく頷いている。
「今、なんて?」
「お姉様て?」
ヴィヴィアンナの呆然とした声と、デューの驚きに満ちた声が重なった。
ヴィヴィアンナがデューを見る。
「そう、よね?そう、聞こえたわ。私も。幻じゃないのよね?」
「うん。そう聞こえた」
デューは答えて、傍らに立つ侍女長へと視線を向け、ヴィヴィアンナもそちらを見た。
「私めにも、そう聞こえました」
侍女長の言葉に、ヴィヴィアンナが腰を抜かしたようによろけ、デューが慌てて支えた。
ヴィヴィアンナが、そろそろと子供二人を見る。
「私を、お姉様と?そう呼んでくれるの?」
「お、お兄様と、居る時だけですが。お姉様は、お兄様の、恋人、ですから」
ミシェールが言い終わるや否や、ヴィヴィアンナはデューの腕から飛び出て、膝を床に着け、ミシェールを抱き寄せていた。
「ありがとう」
震える声で言われ、ミシェールはそっとヴィヴィアンナの背中に手を回し、抱き返した。
デューがエルバルトを抱き上げる。
「バルも、ヴィアを認めてくれてるのか?」
エルバルトが小さく頷くと、デューはエルバルトを抱き締めた。
大公城に着いてから、ヴィヴィアンナの移動中の過剰な構われがなくなり、一定の距離を取りながらも、ミシェールとエルバルトを大事にしてくれているのを伝えてくれていた。
柔らかな優しさであったりとか、二人の為に怒ったり、咄嗟に二人を庇ってくれたり、楽しい食事の時間をくれたり、温かくて柔らかい手と、甘い匂いのする抱擁と、少しずつ距離を詰めてきてくれたのだ。
移動中の過剰な構いたがりは、二人から遠慮を取り上げる意図があったのでは?とミシェールは推測している。
そして、朝のヴィヴィアンナに髪型を整えて貰い、頬に口付けをされる時間を、まだ照れてしまうが、ミシェールは少しずつ楽しみに思えるようになった。
髪の毛を切りたかったのに、周囲の反対で切れずにいたが、今は長い髪も良いと思えるほどに。
そんな優しい時間をくれる人が、兄の彼女なのだ。ミシェールは姉と呼びたいと思い始め、エルバルトと相談し、組紐を渡す時に呼ぼうと決めた。
拒否されたらどうしようかと不安はあったが、拒否されないだろうという、不思議な自信もあった。
伝えてみれば、思ってた以上に喜んで貰えて、ミシェールは彼女を抱き締める手に力を込める。
この優しい人を喜ばせた事に、ミシェールは満足と、安堵を覚えたのであった。
感極まり、ミシェールを抱き締めているヴィヴィアンナと、エルバルトを抱き上げているデューに、侍女長は温かい目で見守っていたが、いつまでもヴィヴィアンナが膝を着いているのを見逃せず、そっと肩を叩き立ち上がる事を促す。
ヴィヴィアンナが小さく頷き、目元を拭きながら立ち上がり、促されるまま、鏡台の椅子に座った。
侍女長は次にミシェールを促し、ミシェールのベッドに座らせた。
デューが立ち上がり、ミシェールの隣りに座り、エルバルトを膝の上に乗せた。




