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因縁 44 二人と二人

掃除の後、ミシェールとエルバルトは夕食の時間までを二人で過ごした。

デューをヴィヴィアンナの所へと送り出す時、疲れた事を理由に、夕食まで二人で過ごしたいと伝えたからだ。なので、夕食は料理人にお願いする事になった。

夕食の時間の少し前に、従者達がテーブルにキャンドルをセッティングしていった。

デューはボタンの付いた白いシャツに濃紺のループタイ、濃紺のスラックスという、少し畏まった格好で、淡い色から裾に向かって濃くなる緑のドレスを着たヴィヴィアンナを、エスコートして入ってきた。

「お招きありがとう。とても嬉しいわ」

言いながら、デューが引いた椅子に、ヴィヴィアンナが腰を下ろす。

「二人への孝行の日の筈が、逆に気を使わせてしまった気がするよ」

ヴィヴィアンナの隣に腰を下ろし、デューが穏やかに笑う。

テーブルを挟んだ向かいに、ミシェールとエルバルトは座っていて、暫くすると、侍女長と副団長が部屋に入って来て、メイドがワゴンを押して入ってきて、一緒に入ってきた侍女が配膳をする。給仕を省くために、スープもメインもパンも全て並べ、メイドは部屋から出て行った。

侍女長と副団長は、ヴィヴィアンナの側に立ち、四人の食事を見守る。

ミシェールが乞い願い、ヴィヴィアンナがデューとの恋人未満だった頃の思い出話を語り出した。

シモンが演じてみせていたが、伝え聞いたものでは不十分であったし、当事者から聞きたかったのだ。

デューが二人の事を知ろうとしてくれていたから、デューの事を知りたいと思った。

デューが顔を赤らめ、たまに『勘弁してくれ』と懇願する中、ヴィヴィアンナは嬉しげに話をする事に夢中だ。

手が疎かなヴィヴィアンナの代わりに、デューはパンを小さくちぎって皿に乗せ、スプーンにポテトサラダを掬って、取りやすいように置く。

甲斐甲斐しいデューと、ヴィヴィアンナの惚気話に、ミシェールもエルバルトも目の前の食事に集中する事で耐えた。

自分が言い出した事とはいえ、兄の惚気話に居た堪れなくなったのだ。

デューが用意したものを、躊躇なく口に入れるヴィヴィアンナは、デューを信頼しているのだろう。

魚を切り分け、フォークに差し、デューがそれをヴィヴィアンナの口に運ぶ。

パクリとそれを口に入れるヴィヴィアンナは、何とも幸せそうだ。

ヴィヴィアンナの手が、スープ皿に伸び、持ち上げてそのまま飲んだ。

「ヴィヴィアンナ様。お子様方が真似をしてしまいます」

見兼ねた侍女長が注意をする。

ミシェールとエルバルトは、ポカンと口を開けてしまい、デューは頭を抱えた。

「二人のマナーは直す所はないもの。そんな心配は無用よ。それに今はマナー所ではないわ。これからが良い所なのよ」

ナプキンで口を拭い、ヴィヴィアンナはぎゅっと拳を作った。

「私からキスをした日の事を話さなきゃ」

「それは子供に聞かせる話じゃないだろ?」

「あの日のデューは可愛いくて、良く思い出しているのよ」

「頼むから、それは止めてくれ」

デューがヴィヴィアンナの右肩に触れ、首を横に振る。耳まで真っ赤だ。

「ごちそうさまでした」

ミシェールが、手に持っていたフォークを音を立てて皿に置いた。らしくない不作法に、全員の視線が集まった。

「ごちそうさまです」

再度言い、ミシェールは頭を下げた。内心はマナー違反にドキドキしていて、表情に出ない事をありがたく思っていた。

「惚気話は十分て事でございましょう」

侍女長がヴィヴィアンナに向かって言うと、ミシェールは小さく頷き、ヴィヴィアンナは小さく溜め息を漏らす。

「そう」

「また今度聞かせて下さい。一度に沢山聞くより、少しずつ知りたいです」

「勿論よ」

ヴィヴィアンナの残念そうな表情が、ミシェールの言葉にパッと明るくなった。

上機嫌な鼻歌混じりに、ヴィヴィアンナが食事を優雅に進め、デューは安堵の表情でミシェールに頭を下げ、落ち着いて食事をする。

エルバルトも、惚気話から開放された事で、安堵の表情だ。

その様子を見て、ミシェールは出されたお茶を一口飲み、息を吐いた。

始終、あの時は可愛かった、悲しかった、嬉しかったと、ヴィヴィアンナの事細かな心理描写があるのだ、惚気話に付き合うには、ミシェール自身の経験のなさから、聞くのが耐えられなくなっていた。

それに、デューの必死な様子が可哀想に見え、中断させる事を迷わずに選んでいた。

落ち着いて食事が終わり、この2日間楽しめたのかだけを聞き、ヴィヴィアンナは二人に就寝のキスを送り、侍女長と副団長を連れて出て行った。

デューに部屋まで送る事をミシェールが勧めたが、デューは客室に残る事を選んだ。

「こうして過ごせて良かった。修道院では丸一日を一緒に過ごすのは難しいだろ?ここに居る間は、迷惑じゃなければ相手してくれると嬉しい」

「気遣いがすぎるのは、逆にこちらが疲れます」

「うん。ヴィアに、閣下と足して割ったくらいが丁度良いて言われる」

ミシェールが溜め息混じりに言えば、デューがへにょりと情けない顔になった。

あの強引さと、気を使いすぎる兄を足して割ったらと想定し、ミシェールは無表情で納得し、エルバルトが肩を揺らした。


翌日の午前は、ヴィヴィアンナから大公領で採れる野菜や木の実、育てている家畜を教えて貰い、昼食前に人工池へと向かった。

昨晩の話に出てきた、デューとヴィヴィアンナが一緒に考えた池だ。

籠を持った何人かの侍女と従僕、メイドと従者、侍女長、騎士を連れ、三人は裏庭にある池に辿り着いた。

池の周りは綺麗に芝が生えていて、少し距離を置いて背の高い木が周りを囲っている。

そして川が池から東と西に伸びている。元からあった溜池を利用して作られ、近くの川から水を引く川と、水を戻す川も元々あった物を利用してあるのだ。

池の桟橋に小舟が一隻浮かんでいて、側に騎士が二人控えている。

三人が池に来ると聞いて、用意されたものだ。

ベンチも幾つかあり、使用人や騎士が休憩に利用すると侍女長が説明をする。

思っていた以上の規模に、ミシェールは言葉を失っていた。

舟遊びが出来る程深く、大きいとは思っていなかったのだ。

修道院の礼拝堂が入っても余る面積のように感じる。

これを作ったというのだから、驚きしかない。

「元々の大きさがあったから、形を少し整えて、桟橋と石を配置したの」

屋根のある唯一のベンチにヴィヴィアンナが座り、池を眺めて微笑んだ。

ヴィヴィアンナが指差した方向に、池を縦断するように一定間隔で石が頭を覗かせて置かれていた。

「魚が居るのよ、桟橋から見れるから、行ってみたらどうかしら?」

ヴィヴィアンナの言葉に、ミシェールとエルバルトの側に控えていた侍女と従僕が桟橋へと、二人を促す。

その後をメイド、従者が二人ずつ続き、騎士は三名続く。

桟橋に着き、二人は恐る恐る池を覗いた。

大小の魚が泳いでいて、水草の間を泳いでいたり、水の中の石を突いている魚もいる。

ミシェールは、川で魚釣りをした事を思い出し、生きた魚が跳ねた時の驚きも思い出した。

あの時から、兄は二人に経験を与えてくれていたのだと気付き、控えめな優しさに嬉しく思った。

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