因縁 43 思いやり
翌朝の朝の散歩は、まだ小雨が残っていたので、デューはヴィヴィアンナと二人で向かった。
朝食は三人で簡単に済ませて、1階にある小ホールまで向かう。
城の中の1階は応接室以外は、騎士と使用人がいつでも使って良い事になっていて、使用中の部屋のドアノブには、オレンジ色の飾り房をかける事になっている。飾り房は侍女長か執事に願い出て受け取る形で、部外者が簡単には悪用は出来ない。
小ホールに向かう途中、飾り房の掛かった部屋の前を通った時、中から何やら騒がしく盛り上がっているのが聞こえた。
夜勤明けの騎士が使っているのだろうと、デューは苦笑まじりに説明し、小ホールの中へと入る。
デューは鞄の中からワイン瓶の大きさと形に掘られた木を取り出し、それを部屋の真ん中に立てて置き、布で出来たボールを鞄から取り出す。
ボールの中身は乾燥させた豆が入っていて、それを投げて、先程の木の目標物に近い方が勝ちとなり、目標物を倒したらその者は失格となってしまう遊びだ。
「勝負をしよう。勝った側は何でも質問出来る。答えられない時は、この部屋の中を一周。どうだろうか?」
デューの提案を受け入れ、デュー対エルバルトとミシェールで競う事になった。
エルバルト、ミシェールのどちらかがデューに勝てば二人の勝利だ。
五投勝負で先に三勝した方が勝ちで勝負し、デューが続けて三回の質問権を得た。
一回目の質問で好きな本で、デューは二人が答えた本について印象深いシーンも聞いた。二回目の質問は、好きな色だったが、二人は何も思い浮かばず、部屋の中を一周した。
三回目の質問は、苦手な食材だった。
デューの続けての勝利に、ミシェールは溜め息を吐いた。
手心を加える事をしないのに、される質問は随分優しい物で、自分達を知ろうとしているのは明白だと気付いたのだ。
一応は、ボールの投げ方の助言と、デューより近い場所から投げるというハンデを貰っているが、普段身体を動かしているデューに、叶う筈もない。
その溜め息に、デューの眉が下がる。
「つまらなかったかな?」
ミシェールが答えるより先に、エルバルトが右手の人差し指を立て、もう一勝負を申し出た。
それにミシェールも頷く。
「コツが掴めそうなので、もう一度」
四回目の勝負もデューが勝ち、デューは少し悩んでから、
「何をしてる時が楽しいだろうか?」
と聞いた。
それに、ミシェールは考え込み、エルバルトは不安気に彼女を見上げた。
母親の罪を背負って生きるつもりだったから、何かを楽しむのは間違っているような気がして、修道院の子供達の遊びの輪には、入った事がない。
それが、ミハエルがやって来てから少しずつ覆されてきている。
自分達を顧みていなかっただろう母親の罪を、背負う必要はあるのだろうか?と疑問が生まれてきているのだ。止められなかった責任はあるかも知れないが、あの異常な時間の中では、ミシェールが無力だったのは変わらない。母親の一番近くに居た父親でさえ、止める事が出来なかったのだ。
そして、二人を気遣い、経験した事のない事を教えてくれている兄は、子供でいられる時間を、楽しませてくれようと、色々考えてくれているのだと思い至り、ミシェールは顔をあげる。
「お兄様と、こうしている今が」
「俺も。楽しんでくれているのなら良かった」
微笑んだデューが、ミシェールの頭を撫でる。
再会した時から、幾度となく撫でられているが、その手付きは随分変わってきている。
最初の内は遠慮があったのだろう、そっとした手付きだったが、最近は頭の形を確認するかのように、しっかりと手を這わせている。
ミシェールには、それがなんだかくすぐったく、そして少しだけ嬉しい。
エルバルトが、デューの袖を引っ張り、黒板に文字を書く。
『悪い事』
随分と簡潔な言葉に、デューは小さく笑い、エルバルトの頭を撫でる。
「夜更かしは、身体に良くないから、今度は別の事をしよう。人に迷惑をかけない事は勿論だし、二人に怪我をさせたくないし、何が良いだろうか?」
デューが悩んでいると、ドアがノックされ、料理長が入ってきた。
「そろそろ昼食の時間だぞ?まかないで良ければ食べた方が良い」
それだけ言って、出て行った料理長を見送ると、三人が顔を見合わせた。
使用人達の世話にならないつもりだったが、時間を忘れて過ごした為に、昼食はありがたくまかないを頂いた。
空は明るさが射していて、小雨はすっかり止んでいた。
午後からは小ホールに戻り、三人で掃除をした。
部屋を使う条件が、使用後に掃除をする事なのだ。とはいえ、普段から掃除が行き届いているので、埃は少なく、簡単にモップがけをする程度だ。
小ホールは20人規模のパーティーに使われる部屋なので、それなりに広さがあり、三人がかりでモップをかけていく。
「夕食に、ヴィヴィアンナ様をご招待したいです」
モップがけをしながら、ミシェールが切り出した。デューが水バケツに水を入れ、モップを取りに行っている間に、エルバルトに確認して二人で決めた事だった。
二日間十分すぎるほどに兄に相手して貰ったから、夕食にヴィヴィアンナを呼ぼうと。
恋人だけで過ごす事を提案する事も考えたのだが、律儀な兄の事、兄弟で過ごす事を優先させる事は安易に想像が出来て、三人の席に呼ぶ事にしたのだ。
やはりと言うべきか、デューの眉が下がる。
「やはり、俺だけだと息が詰まるだろうか?」
「そうではなく、お兄様へのお礼です」
「お礼だなんて、何もしてやれなかったから、少しでも何かしてやりたいて思っているだけなんだ。二人は気にする事はないよ」
「ヴィヴィアンナ様を招待したいのは、私とバルがしたい事ですから。同じではないでしょうか?」
ミシェールが首を傾げ、エルバルトも同意するように何度も頷く。
「そう、だね。ありがとう」
一度目頭を押さえ、デューが嬉しそうに笑った。
少し短いですが
丁度区切りなので




