因縁 34 似た者夫婦
修道院の面々に、明るく送り出され、二人は馬車に乗って、町を出た。
鉢植えを見たシモンが顔を綻ばせ、持って行く事はすんなり了承されて、ミシェールが抱えて持っており、エルバルトの作った鞄に入っている。
ナンジーの許可を得て、布を貰い作った物で、布が二重にしてあり、鉢植えの周りを着古してお下がりにもならない服を巻いて、クッション代わりにした。
エルバルトはミシェールの隣りに座り、首に巻いた緑の布を撫でている。色んな緑を組合せて作った布で、白い狼が刺繍してある。エルバルトの好きな物語に出てくる狼で、主人公が危機に陥った時に、颯爽と現れるのだ。
緑の目をした優しい狼で、刺繍を見たエルバルトは大変喜んだ。
馬車の横を、シモンが馬に乗って並走しており、馬車を操っているのはデューだ。
少し雨がパラついているが、シモンは陽気に口笛を吹いている。
お昼前に雨があがり、2つ目の町で、昼食に立ち寄った。
休憩を挟みながら進み、3つ目の町で宿を取った。
部屋は廊下の突き当りにミシェールとエルバルト、その手前の部屋をデューとシモンに分けたが、デューから就寝の挨拶をされたエルバルトが引き止め、エルバルトとデューでくっついて寝た。
翌日の昼に、領主の屋敷に辿り着いた。
二人が到着次第、出立する手筈を整えていたミハエルは、領主に簡単に挨拶をして、馬車に乗り込んだ。
すっかりミハエルに慣れた様子の領主は、諦めの溜め息を吐いて、馬車に向かって一礼した。
馬車には既にヴィヴィアンナが乗っており、その両脇にミシェールとエルバルトが座っていて、ミハエルはその向かいに座る。
ミハエルは進行方向に向かって座るのが普通だが、旅に不慣れな二人の子供を考慮し、その席を譲った。
その事に、ミシェールもエルバルトも恐縮したが、ヴィヴィアンナに笑って座る事を促され、二人はすんなりそこに座ってしまったのだ。
旅に不慣れな二人の為に、進みはゆっくりで、10日かけ、大公領の城塞に夕方前に辿り着いた。
その間、ミシェールとエルバルトは、ヴィヴィアンナから朝と晩に挨拶の口付けを頬にされ、髪の毛を整えられ、ついでに頭と頬を撫でられ、二人の服を買いたいと言い張る彼女を宥め、同じ部屋で寝ようとする彼女をなんとか侍女長に引き渡し、と構われすぎたのと、久しぶりに使用人に着替えや入浴を手伝われ、少し疲れていた。
侍女長が気を利かせてくれて、真っ先に客室に案内され、侍女が鉢植えを飾っているのを横目に、二人はベッドに倒れた。
−コンコン
とノックの音で、ミシェールは目を開けた。
気が緩んで少し寝てしまっていたのだ。
「どうぞ」
束ねてある髪を手櫛で直し、ミシェールは入室を許す。
ゆっくりと入って来たのはデューだった。
騎士服を脱いで、シャツとスラックスのみという余計な装飾のない格好をしていた。
デューは、旅の道中は、大公一行と合流した後は、二人とは一定の距離を置き、宿の部屋に就寝の挨拶をしに来る程度だった。
一応、二人は大公夫妻の養子予定の子供なので、他の目を気にしての事だ。
大公夫妻は揃って『真面目すぎる』と溜め息を吐いていたが、デューは頑なだった。
デューは夕ご飯をワゴンで持ってきており、エルバルトを起こして、三人で夕ご飯を食べた。
二人が疲れている事を考慮し、ミハエルとヴィヴィアンナは食堂で夕ご飯を済ませた。
翌朝、お下がりの服を何着も用意されていて、二人は渋々受け取った。
今回はお試し期間だ。新しく服を用意されるのが嫌だと主張した事が、屋敷内に伝わっていて、使用人と騎士が使わなくなった子供服を掻き集めたのだ。
食堂に大公夫妻と、ミシェール、エルバルトが揃い、デューは騎士服で壁際に立つ。
「屋敷の連中は知ってるんだから、座れば良いだろうが」
溜め息を吐いて、ミハエルはパンを掴み、そのまま噛りついた。
デューは、没落貴族の息子として屋敷内で周知されていて、ミシェールとエルバルトは、生き別れた妹、弟として説明されていると、合流した日に、ミハエルから説明を受けた。
修道院から15歳以下の子供を引き取るには、夫婦である事が必須なので、ミハエルとヴィヴィアンナが、デューの代わりに引き取るのだと。
「仕方ないわ。仕事中のデューは頑固だもの」
上品に笑い、ヴィヴィアンナはサラダを口に運ぶ。
「くそ真面目が」
「閣下、妃様が真似されてしまうので、そのような表現はお止め下さい。何より、お子様に聞かせては、悪影響となります」
腸詰めにフォークを差し、毒づいたミハエルに、デューが澄ました表情で言った。
「出たよ。お貴族様が」
苦々しい表情で、ミハエルは腸詰めを齧った。
「さすがにさっきの言葉は真似しないわよ」
スープにスプーンを付けようとして、ヴィヴィアンナは向かい側に座っている二人の子供達に、視線を向けた。
エルバルトは驚いた表情をしており、ミシェールも瞬きの回数が早いので、恐らく驚いたのだろう。と判断し、ヴィヴィアンナは表情を和らげる。
「気にしないで、二人なりの信頼の証よ。デューはミル様に甘えているのよ」
「それは違います」
デューが額に左手を当て、首を横に振った。
苦言を呈した事が、何故信頼の証になり、ミハエルに甘えている事になるのかと、デューには納得出来ないのだ。
「甘えたいなら胸を貸してやるぞ?」
「要りません」
からかうように言ったミハエルに、デューは鼻で笑った。
使用人達は小さく笑いながら給仕をしているが、ミハエルの後ろに立つ執事は素知らぬ顔で、侍女長は給仕される食事の事にしか興味がない様子だ。
これが平常なのだろうと、ミシェールは溜め息を吐き、スプーンを持った。エルバルトもパンを手に取って、小さくちぎった。
騎士として働いているデューを、道中見ていたが、ミハエルに対して辛辣に言う場面は、先程が初めてで、良いのだろうか?と心配になっていたのだ。
ただ、ミハエルが外では、幾らかマシな言動だった事もあり、忠告する機会がなかったのかも知れない。
その後も、ミハエルがデューにからかうような事を言ったり、命令だと言ってパンを食べろと言ったりし、デューはそのどれもを、涼しい顔で交わし、ミハエルはつまらなそうに、『真面目め』とこぼす。
旅の道中のヴィヴィアンナとどこか共通するそれに、ミシェールは似た者夫婦だと認定した。
食後のお茶をして、一息ついてから、ミシェールとエルバルトは、城内の大ホールに案内され、使用人に紹介された。
城内を歩き周り、すれ違う騎士にも紹介され、中庭に集まっていた騎士達に紹介され、副団長の犬のフィビーを紹介される。
騎士の最前列に、赤い髪を堂々と太陽に晒しているシモンがいた。
シモンは一瞬嬉しそうに手を挙げて微笑んでから、副団長に注意されて引き締まった表情に変え、手を降ろす。
周りの騎士が笑いを堪えているように身体を震わせる。
当たり前に受け入れられている様子に、ミシェールは本当に良い職場だと兄の平穏と、シモンの幸運に安心した。




