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因縁 33 大公領へ

二人が泣き止むまで待っていると、エルバルトが身を捩った。

デューが腕を緩めると、鼻をスンとならし、エルバルトは頭を下げてから、デューの腕から離れ、ミシェールを見上げる。

落ち着いてきたのか、ミシェールの身体の揺れは小さくなって、身体をそっと離そうとしていたので、ヴィヴィアンナは腕を緩めた。

気まずいのか、顔を伏せたままミシェールは頭を下げ、ヴィヴィアンナの膝から降り、エルバルトと向き合い、一度抱き締め合う。

見えない絆を見せつけられたように感じ、デューとヴィヴィアンナが視線を交わし、小さく微笑み合う。

−コン!

とミハエルが机をノックした。

「今日来たのは、四人の顔合わせと、もう一つ。二人にはお試しとして大公領に来て貰う話になった」

部屋の視線を集め、ミハエルが背中を伸ばす。

「一度外の世界は知った方が良い。ここで働くとしても、外との繋がりは切って捨てられないからな。悪意のある人間とも、笑顔で接しなければならない。経験だと思って諦めろ」

ニヤリと口の端を上げ、ミハエルが笑う。

ミシェールとエルバルトが互いに離れ、デューを見る。

「一度一緒に暮らしたい。駄目だろうか?」

柔らかく聞かれ、ミシェールとエルバルトは互いに視線を交わす。

その横から、楽しそうなヴィヴィアンナの声がかけられる。

「私、お菓子を作れるように練習したの。一緒に作りましょ」

エルバルトがヴィヴィアンナを見上げてから、ミシェールに視線を戻し、小さく頷く。

ミシェールは頷き返し、椅子に座って、ミハエルをしっかり見詰め口を開く。

「宜しくお願いします」

「良い返事だ」

満足そうにミハエルが笑い、三人と対面室前で待機していた騎士が修道院を出て行くのを、ミシェールとエルバルト、ナンジーが玄関まで見送る。

修道院の外で、シモンの他にも騎士が数名居た。

シモンが、ミシェールとエルバルトの元へと歩み寄る。

「これ、皆に似合うて言われたんです。大事に使いますね」

頭に巻いた布を、シモンが嬉しそうに触る。

周りの騎士は微笑ましそうに笑っており、ミシェールとエルバルトは、その優しい雰囲気に、大公の屋敷の優しさを感じた。

初めての所へ行く事には、まだ不安があるが、兄が居て、その彼女はとても明るくて、強引だけど優しいミハエルが居る。まだ将来の事は決められないが、ミシェールもエルバルトも、外への旅が少しだけ楽しみになった。

「ミシェール様と一緒の旅なんて感激です。宜しくお願いしますね。バル君が楽しんでくれると嬉しいです」

シモンの弾んだ声に、ミシェールとエルバルトが頷いた。

その脇で、ミハエルが騎士に指示を出し、騎士が小さな旅行鞄をミシェールとエルバルトに渡す。

「出立は5日後だ。当日は二人を迎えに寄越す。足らない物は、道中買えば良い。気楽に荷造りしてくれ」

ミハエルがデューとシモンの肩を叩き、ニヤリと笑った。

ミハエルの後ろに控えていた騎士が、ミシェールとエルバルトに微笑みを向ける。

「男所帯なので、配慮不足があるかと思うが、長旅の身の安全は保証する」

「頼もしいお言葉に感謝致します」

ミシェールが頭を下げると、騎士からどよめきが起こる。

「シモンの年下とは思えん」

「いや、シモンと比べたら失礼だろ」

「将来が楽しみだ」

「嫁に見せたい」

口々に言う騎士に、ミシェールはゆっくり頭を下げる。

「お褒めに預かり、ありがとう存じます」

ピタリと騎士の動きが止まり、一斉に姿勢を正して一礼した。

ミハエル達が修道院から離れるのを見送り、ミシェールはエルバルトと共に、部屋へと向かう。

着替えの服と下着を用意し、万年筆と便箋、ここで誕生祝いに貰った手紙、そしてシモンの手紙を鞄に詰める。

本も裁縫道具も共有の物なので持っていけず、二人の私物と言えるのはそれくらいだった。

修道院に送られた時、私物は持って来れず、着てた服はここでの生活に合わないと、二人は手放し、支給された服を選んだ。

持っていける物の少なさに、ミシェールは溜め息を吐く。

罪人の子供だから、私物を取り上げられたのは仕方ないと、理解していたのだが、少しだけ寂しくなったのだ。

ツンと袖を引っ張られ、ミシェールは意識をそちらに向ける。

エルバルトがミシェールの机を指さしていた。

シモンから送られた、小さな鉢植えは、可愛らしい白い花が球状に咲いていて、甘い匂いがした。

唯一の存在に、ミシェールは瞬きをした。

「花が咲いた事、伝えるのを忘れていたわ」

ゆっくり立ち上がり、ミシェールは鉢植えを撫でる。これだけは、自信を持って自分の物だと言えると思い、その送り主に感謝したくなった。

エルバルトがミシェールの隣りに並び、葉っぱを撫でる。

「持っていけないわよね」

ミシェールが溢すと、エルバルトが動き、黒板に文字を綴る。

『聞いてみよう』

その文字に、ミシェールは諦めていた心を、奮い立たせた。

遠慮をされたら悲しいと、遠慮は鳥の餌にしろと、あの夫婦は言ったのだ。遠慮を許さない二人は、きっとあんな調子で、遠慮する兄から遠慮を取り上げていたのだろう。と想像し、二人の勢いに負ける兄を簡単に想像出来てしまった。

「何かクッションになる物を、作らないといけないわね」

すっかり持っていくつもりになり、ミシェールは引き出しの中の布を漁る。

エルバルトが引き出しを抜き、床に置く。

小物入れ作りで出た、細かい端切れを引き出しに集めていたのだ。

それに気付き、ミシェールも引き出しを抜き、床に置く。

「バルにも、作ってあげる」

エルバルトも、私物らしい私物が無い事に思い至り、布を縫い合わせて作ったあの大盤の布を作ろうと思った。

エルバルトが鉢植えを指差し、次に布を指差す。

「クッション、作ってくれるの?」

ミシェールが聞けば、エルバルトが笑顔で頷いた。

静かに暮らしていけたら良いと、修道院に来てから誕生日の贈り物は互いにしていなかったので、修道院に来て初めてのエルバルトからの贈り物に、ミシェールは胸が熱くなった。

「楽しみにしてる。バルも楽しみにしてね」

エルバルトの満面の笑顔に、ミシェールはどんな色が良いかと、布へと視線を向けた。

シモンに布を作っていた時もだが、特定の誰かの為に作る事が、楽しい事なのだと再確認し、兄とその彼女に、お揃いで何かあると良い。と思いついた。

「時間が余ったら、バルにお願いしたい事があるの。とても大事な贈り物をしたいの」

ミシェールの言葉に、エルバルトは大きく頷いた。

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